第3章−4 異世界の風呂はサイコーです(4)

 オレが着ていた、勇者を迎えるためだけに用意されていた正装は、もといた世界で一番人気のデザイナーにデザインさせた衣装だった。


 ものすごく……金と時間をかけた逸品である。


 本来であれば、デザイナーが用意した着つけの手引書なるものを読みつつ、数人がかりで着つけるものだった。


 小さな少年ひとり、と、身の回りの世話はすべて他人任せな、戦力外なオレとのふたりでは、さぞかし大変な作業になる……かと思ったのだが、リニー少年は初見にもかかわらず、手際よく、衣類をひっぺはがしてく。


 力任せに剥ぎ取っていくのではなく、服を傷つけることなく、ちゃんと脱がせてくれる。


 この子、ものすごく優秀だ……。


「さすが、異世界の勇者様です。不思議なお召し物ですね。見たことがありません」


 というわりには、楽々と衣装を脱がせ、衣装の始末にも迷いがない。


 感心したようなリニー少年の呟きに、オレは苦笑を浮かべる。


(いや、オレは異世界の魔王様なんだけどね……)


 周囲の混乱を防ぐため、オレが元いた世界では、魔王と呼ばれる存在であったことは、その時がくるまであえて主張しないことにした。


 どうせ、主張したところで、「いえ、あなた様は勇者召喚で召喚された勇者様です」と押し返されるだろう。


 誰しも自分の失敗はなかなか、受け入れることができないものだ。


 ここは、オレが大人になるべきところである。


 ……というか、正直、進歩のない押し問答が面倒くさくなっただけだ。


「この生地、珍しい素材ですね」

「だろう? 希少な魔獣の毛皮を使っているんだ。ものすごく柔らかくて滑らかなのだが、そこらの鎧よりも頑丈だ。物理攻撃は無効化するし、魔法攻撃を弾き返す効果もある」


 オレの説明に、リニー少年は興奮しているようだった。

 珍しそうに、素材に触れてみたり、魔法陣が組み込まれた装飾品を凝視している。


 そういう反応をみていると、しっかりしているようで、まだまだ子どもだな、と思ってしまう。


 可愛い反応に、オレの緊張していた心もほっこりとする。癒しの存在だ。


「す、すごいです! 勇者様は、入浴後もこちらの衣装をお召になられますか?」

「いや……実は、堅苦しいものや、華美な衣装は苦手でな。できれば、くつろぎやすい部屋着などを用意してもらえたら助かるのだが……」

「わかりました! お任せください!」


 頬を真っ赤にさせて、嬉しそうに返事をするリニー少年。


「勇者様にふさわしい部屋着をしっかりごと用意いたします!」


 リニー少年はぐっと拳を握りしめて、力強く返答してくる。すごくやる気が漲っている。


 いや、さっき、言ったよね……。

 華美な衣装はいらないって……そんなにがんばって用意しなくていいから。ちょっと、肩の力と手を抜こうか?


 リニー少年のやる気満々な姿に、オレは少しばかり不吉なものを感じていた。





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