第3章−2 異世界の風呂はサイコーです(2)

「勇者様、今後は、この者が勇者様の身の回りのお世話をいたします」


 なんと、贅沢にも世話係をつけてくれるのか。それはとても助かる。


 ぱっと見た感じは、オレのいた世界とあまり違いはないようだが、やはり、異世界は異世界である。


 身の回りの世話というか、常識を教えてくれる存在はありがたいよ。


 できれば、容姿だけでなく、性格も可愛ければ申し分ないのだけどね……。


「は、はじめ、っして。ゆ、、勇者しゃま」


 噛みまくっている。

 ずいぶんと緊張しているようだ。


 小姓の顔が羞恥のため、一気に真っ赤になる。

 それこそ、ぼふっと音をたてて、顔から湯気がでてきそうだった。


「し、し、失礼しましたあっ」


 ペコリと頭を下げる。

 なんというか、あどけなくて微笑ましい。

 うん、一生懸命なのは、好感がもてるね。


「リニーと……お呼びください!」


 リニーと名乗った小姓は、もう一度、勢いよくお辞儀をする。


「よろしく。リニー」

「はい。不肖の身ではありますが、誠心誠意、この生命にかけて、お仕えいたします!」


 キラキラした目で見上げられる。

 眩しい……。


 ……っていうか、この世界のヒトたちホイホイと生命のやりとり、やりすぎじゃないか?


 生命をかけるほどオレの世話を頑張らなくてもいいと思うのだが、ここで下手に口走って「勇者様のお気に召さなければ、処分いたします」とかになっても困る。


「……期待しているよ」


 無難そうな答えをする。


「はいっ!」


 ぱあぁ……っ!


 ……という効果音が聞こえるくらいの、純真で眩しい笑顔をオレに向けてくる。


 その子どもの無垢な笑みにつられて、オレの表情もほころぶ。


「――――!」


 リニー少年の顔がますます赤くなる。

 そして、なぜか、エルドリア王太子の顔も赤い?


「ようやく、微笑んでくださいましたね」


 うっとりとした表情と声で、オレに語りかけるエルドリア王太子。


(…………?)


 なんだろう?

 背中がゾワゾワする。


「足りないものがございましたら、この者にお申し付けください。では、また」


 と言うと、エルドリア王太子はオレの手の甲に「チュッ」と口づける。


 これがこの世界の常識か……と思ったのだが、側にいたリニー少年を盗み見ると、そうでもないようである。


 金髪碧眼の小姓は呼吸も忘れた状態で、硬直している。顔が真っ赤だ。くりくりっとした目を、めいいっぱい大きく見開き、オレと王太子を忙しく見比べていた。


 エルドリア王太子は上目遣いで、熱っぽい視線をオレに注ぐ。


 こういう視線には記憶があるよ。


 魂がオレに警告を発する。


 硬直しているオレと小姓を残し、王太子は悠然と部屋を立ち去った。




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