第3章−1 異世界の風呂はサイコーです(1)
手を繋がれたままの状態のオレは、引っ張られるように、自然とエルドリア王太子に続いて立ち上がる。
今回の場所移動も抵抗することは許されず、オレは王太子が導くままに導かれていった。
オレはエルドリア王太子にエスコートされ…….。
そう、王太子は手を握ったまま、もう片方の手をさりげなくオレの腰に添えて、オレを『ここ』まで連れてきたのである。
とても自然でさりげないが、拒否することが許されない強引なエスコートだった。
エルドリア王太子が案内してくれた部屋は、要人用の客間のようで、とても豪奢で広く、キラキラしていて……正直、身の置き場に困るくらい、落ち着けない。
心身ともに落ち着くどころか、よけいに疲れてしまいそうな部屋だ。
家具類も装飾類も細々した小物も、花瓶に活けられた花すらも、豪華絢爛で、異世界からやってきたオレでも、高価なものだとすぐにわかる。
(困った……。うっかり壊してしまわないように、注意しなければならないぞ)
弁償とかいわれたらどうしよう、と不安になる。
こちらの世界の文化基準はまだよくわからない。
しかし、さきほど通された応接室っぽい部屋といい、だされた茶菓子に紅茶や茶器類、ここまで来るまでの通路や階段を観察していたが、オレのいた世界とあまりかわらない。
若干、料理の質とか、細工の精度とかは、召喚元の世界よりも、こちらの世界の方が上をいくようである。
豪華だし、派手だし……装飾過多というか、ゴテゴテしい。
すべてにおいて贅沢すぎる。
勇者たちの世界のような、ロクジョーヒトマとか、ウサギゴヤとか、シンプルライフとか、ミニマリストとかにちょっぴり憧れていたオレには、がっかりな部屋だった。
こんな立派な部屋に通されて「魔王が誕生して困ってます」って言われても、実感がわかない。この部屋には悲壮感のカケラもなかった。
まだまだ余裕がありそうだ。
そんな豪華な客室の中では、ひとりの小姓がオレの到着を待ち構えていた。
エルドリア王太子は、部屋の入り口付近で立ち止まると、オレを小姓に引き合わせる。
貴族の子息の行儀見習いといったような風体の、金髪碧眼の可愛らしい小姓だ。
立ち姿からして、行儀教育の行き届いた、品の良さが滲み出ている。
それにしても……ここの世界はやたら美形が多い。
なにかの恋愛シュミレーションゲームか? っていうくらい、今のところ無駄にスペックが高そうな美形しか登場していない。
ガチムチの騎士団長も、ワイルドな大人の男の魅力に溢れ、とことん甘えさせてくれそうな感じがある。
油断ならない宰相も知的なハンサムおじさんだった。こっちはツンデレじゃないだろうか?
きっと、あの大神官長のおじいちゃんも、若い頃は罪作りな美形だったに違いない。さぞかしモテただろう。
シワだらけだが、優しい目元に上品そうな整った顔をしていた。
オレの目の前にいる小姓も、まだミルクの匂いがしそうな子どもだが、美形の片鱗が見え隠れしている。
もう少し成長したら、妖艶な美青年になりそうだ。
この小姓……どこかで見たことがある顔である。
誰かに似ているのだが、それが誰だったのか思い出せない。
まあ、これがガチで恋愛ゲームなら、攻略対象キャラクターの年齢設定の幅が広すぎる。
いったい、どんなターゲット層を狙っているのか、わからない謎展開だ……。
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