第2章−4 異世界の応接室は緊張します(4)

 まあ、そういうことで……オレがいた世界で一番強いのは、魔王であるオレだ。


 オレよりも強い者がいないから、異世界から、オレを倒せる力を持つ者を、女神は召喚するのである。


 だから、異世界の人間である勇者は、おじいちゃんの定義した『その世界』とは違う世界のカテゴリになる。


 仮に、勇者も『その世界』にいる者として認識されていても、やっぱり、オレの方が強いから、オレが召喚されてしまう。


 オレのいた世界では、『オレの肉体を消滅させることができるスキル』を、聖なる女神ミスティアナから授けられた者が、勇者と呼ばれる存在になるんだ。

 スキルだけでなく、そこに女神の加護もあわさって、はじめて魔王を討伐することができる仕組みになっているんだよ。

 理由はよくわからないけど、聖なる女神ミスティアナは、異世界人にしか、そのスキルを授けることができなかった。


 もちろん、勇者となるくらいだから、それなりに、前提条件として、オレとの戦闘に耐えうるだけのスペックを備えているよ。

 女神がバーゲンセールみたいに、バンバン惜しみなく与えちゃうからね。


 とはいえ、オレの方が強いことにはかわらないんだけどね。


 世界の魔素を大量に取り込めるスペックと、三十六回も魔王をやっている経験値が加算されていくから……女神ミスティアナにいわせれば、そのうち、神の領域にいってしまってもおかしくないくらい……だそうだ。


 女神はきゃぴっと笑いながら「魔王ちゃん、安心してね。そのときは、アタシが責任を持って、魔王ちゃんを従神として迎えてあげるからね。かわいい魔王ちゃんを露頭に迷わせることだけはさせないわ」と言っていた。


 いや、お断りだ! 女神ミスティアナの下僕になるくらいなら、露頭に迷う方が断然いいに決まっている!


 オレは自由な左手で痛む頭を抑えた。


「勇者様が、この世界に召喚された理由……納得していただけたようですね?」


 王太子の声が一段と高くなった。

 いやいや、この様子のどこが、納得している姿に見えるんだ?

 エルドリア王太子の目は節穴か!


「……納得は、まったくしていないが、なぜ、オレが拐かされて、この世界に拉致されたのかは、よく理解できた。だが、オレが勇者であるというのは、納得できない!」


 そもそも、召喚されるとき、至高神アナスティミアとかいうこちらの世界の女神の声は聞いていない。


 己が面倒みている世界の命運を、異世界から適当なヤツをチョイスして託しますっていうのなら、「よろしくお願いします」っていう挨拶ぐらいしろよ、と思う。


 まだ、ポンコツではあるが、ミスティアナの方が、そういうことに関してはマメだし、召喚後の勇者のサポートも、ちょっとウザすぎるくらいしっかりしている。


 こちらの世界を担当する女神は放置が基本なんだろうね。

 とんでもない世界に喚ばれてしまったようだ……。


 とりあえず、元にいた世界に戻る方法を、自力で探さなければならないよね。


 一番、ありがちなのが、女神に与えられた課題をクリアしたら、元の世界に戻れる……というパターンだ。


 オレのいた世界では、魔王であるオレを倒したら、女神ミスティアナから勇者に『ご褒美』が与えられるんだ。


 そのときに、「元の世界に戻りたい」と女神ミスティアナに願えば、召喚された時間、場所に戻ることができる、というのがデフォルトだよ。


 ほぼ半数近い勇者が元の世界に戻り、残りの勇者は、オレたちのいた世界にとどまることを望む。

 そこで、チョロインと結婚したり、ハーレムつくったり、新しい生活を楽しんだりしていた……。


 ここも、そのテンプレ法則が適応されることを願うしかない。


「そもそも、どういう理由があって、魔王を討伐しないといけないんだ?」


 オレのなにげない質問に、一同の表情がぴたりと固まった。


 まずいことを聞かれたというよりは、オレの質問の意味が理解できない……というような反応だ。


 王太子なんぞ、すごくわかりやすい表情をしている。

 素直なんだろう。

 腹芸は苦手そうだ。


 将来、王国を背負って立つ人間が、こうもわかりやすいヤツでは、周囲の人間は苦労しそうだよね……。


 予想していなかった一同の反応に、オレのほうが焦ってしまったよ。




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