第2章−3 異世界の応接室は緊張します(3)

「まあ、色々と、そちらの事情はわかったが……」


 エルドリア王太子のちょっとばかり長めの説明が終わり、オレはゆっくりと口を開く。


「こっちにだって、こっちの事情というものがある」

「はい。こちらにも、こちらの事情があります」

「…………」


 オレの溜息と落胆は大きい。

 どこの世界も大変なようで……。

 エルドリア王太子の話を簡潔にまとめると……。


 魔王が誕生した。

 魔王は強い。

 この世界の戦力では、どんなに頑張っても魔王は倒せない。

 だったら、女神の力を借りて異世界から勇者を呼ぼう……と考えて、実行した。


 ということらしい。


 ……他力本願的すぎるだろう。


 外注に頼りすぎじゃない?


 責任を女神になすりつけるな。


 オマエラ、ややこしいことは、全て丸投げかよ!


 と、三十三回目に戦ったリーマン勇者がぼやいていた言葉を思い出す。


 当時は『外注?』『丸投げ?』って、なんじゃそりゃって、思ってたけど、今ならわかる。


 すごくその意味がわかるよ。

 身に染みてわかったよ。


 リーマン勇者と気持ちが通じ合った瞬間だ。


 今、あのリーマン勇者に再び会えるのなら、夜が明けるまで語り合える気がしてならない。


 で、なぜ、勇者ではなく、魔王であるオレが喚ばれたのか?


「なんども言うが、オレは勇者じゃない。魔王だ」


「いえ。なんども言いますが、至高神アナスティミア様のお力をお借りして召喚されたマオ様は、間違いなく勇者様です」


(平行線だ……)


 オレのいた世界でも、「おめでとうございます。あなたは魔王を倒す勇者に選ばれました」と言われて、世界のためとか、ゲームの世界みたいだ、とか喜んで勇者役をあっさり受け入れる勇者もいる。


 その逆に、「オレは勇者じゃない。オレのいた世界に帰せ」と駄々をこねる勇者もいる。


 オレは間違いなく後者のタイプの勇者だ。

 魔王だけど……。


 そもそも、オレがいた世界では、オレの勇者が魔王であるオレを待っている。

 絶対に、待っているはずだ!


 早く帰還して、魔王としての役割を果たさなければ、オレのいた世界の方が先に滅んでしまう。


 勇者だって、自分の世界に帰れないのだ。


 だが、少なくとも、目の前の王太子は、オレを解放してくれそうにもない。


 だったら、別の切り口で、攻めていこう。


「オレを召喚した魔法陣。あれは、本当に、勇者を召喚する魔法陣だったのか?」

「……といいますと?」

「言葉通りの意味だ。魔法陣は? 呪文は? 祈りは? 全部、勇者召喚のものだったのか?」


 世界が違うとはいえ、あの魔法陣だけでは、勇者を召喚することはできないだろう。

 三十六回も勇者召喚に成功している世界にいたオレの見立てに間違いはないだろう。

 オレを喚びだしたこちらの魔法陣は、異世界召喚の魔法陣ではあるが、完成度が低い。

 なにか、別の要素が影響しているにちがいない。


 オレは王太子ではなく、大神官長のおじいちゃんに視線を定めた。エルドリア王太子と話すのはあきらめた。


 最初から、話が通じる他のヒトを探し出して話せばよかったのである。


 選択肢が少なすぎるが、この中で一番、真面目で、誠実そうなヒトを選ぶ。


 騎士団長は……ちょっと脳筋っぽそうな気配がしたので、パスだ。


 ちなみに、オレの中では、王太子と宰相さんは、すでに『話が通じないヒト』認定されている。


 大神官長のおじいちゃんは、しばらくの沈黙の後、ようやくオレの質問の意味を理解したのか、うん、うん、と頷きながら、真っ白な顎髭をなでる。


「……その世界で『一番強い者』を召喚する魔法陣でした」

「……なるほど……」


 納得した。


 『一番強いもの』イコール『勇者』という定義なのだろう。


 だが、それをやってしまうと、勇者じゃなくて、オレが召喚されてしまう……。


 と、オレが説明すると、騎士団長のおじさんが「なんと、異世界では、勇者よりも魔王が強いのか! 救いのない世界だ!」とか呟いていた。




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