第2章−1 異世界の応接室は緊張します(1)

 召喚したのが勇者じゃなかったかもしれない疑惑が払拭されたわけではないのだが、オレの待遇は悪くなかった。


 いや、むしろ、いいと思うよ。


 すくなくとも、エルドリア王太子だけには、ものすごく大歓迎されている。

 ……ような気がする。


 とりあえず、ゆっくり話をしないことには……ということで、まずは、応接室らしき場所にオレは案内された。

 いや、エルドリア王太子に連行された。


 若いメイドが紅茶と、なにやら不思議な形と色をした一口サイズの菓子っぽいものを用意して、部屋から退出する。


 部屋の中央には、お茶の用意がされた卓を挟んで、三人がけのソファが、向かい合わせに置かれていた。


 元の世界でいうところの上座には、オレと王太子が座った。


 三人がけのソファにふたりしか座っていないのだから、普通はひとり分の余裕があるはずだよね。

 なのに、オレたちは、互いの身体がぴったりとくっついた状態で座っている。


 なぜだろう……?

 なんだか、距離が近い。

 異様にとっても近い。

 これは、密着というのではないだろうか?


 しかも、エルドリア王太子は、相変わらず、オレの手をしっかりと握ったままだ。


 あまりにも密接しているので、距離をとろうと、オレは王太子から離れようとする。

 すると、逆に腕をぐいと引っ張られて、さらに引き寄せられる。


 オレも負けまいと、王太子の腕を振り払おうとするのだが、なぜか、がっちりと指まで絡められて、振りほどけない。


 このぴったり密着状態がこの世界の常識なのだろうかと思ったが、向かい側に座った大神官長のおじいちゃんと、この王国の宰相と、騎士団長の三人には、ほどよい隙間ができている。

 理想的な距離感だ。


 こっちは、二人しか座っていないのに、狭苦しい思いをしなければならないのは、なぜだろう?


 ****


「まずは一息つきましょう……」


 王太子の言葉が終わると、真っ先に騎士団長が手を伸ばし、皿の上に盛られた菓子をつまみ、食べ始める。

 口のなかのものがきれいになくなると、黙って紅茶に口をつける。


 がっしりとした体躯の、いかめしい顔つきのおじさんが、パステルカラーの可愛いお菓子をもぐもぐと食べているのは、なんとも妙な光景である。

 眼光鋭い顔なのだが、恐怖感はない。

 野性味のある、魅力的な男性である。ワイルド系の懐が深い、包容力がありそうな人だ。


 しばらくの間をおいて、今度は大神官長のおじいちゃんが、同じように、菓子を食べてから紅茶を飲む。

 みるからにご高齢なので、菓子を喉に詰まらせないか、ちょっと心配だ。


 オレがドキドキしながら、菓子を食べるおじいちゃんを見守っていると、今度は、三人の中では、一番若そうな宰相が、菓子を手に取った。


 このヒト、鋭利なナイフのような美貌の人物である。ある意味、騎士団長よりも危険そうだ。

 冷徹という表現がぴったりな美形だ。

 とても仕事ができそうで、かつ、人使いが荒そうな男だった。

 敵に回したくないタイプだ。とことん、追い詰められ、身ぐるみはがされそうで怖い。


 三人が菓子と紅茶に手をつけたことを確認してから、王太子が右手で菓子を取り、上品な仕草でぱくりと食べると、右手で紅茶のカップを手にする。


 左手は……やっぱり、オレの手を握ったままである。



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お読みいただきありがとうございます。

――物語の小物――

『パステルカラーの可愛いお菓子』

https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023214197615972


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