第103話 先輩

触れると、彼女の漏れ出る声がタオルに吸収されて、くぐもった声になる。


意地悪しよう。

膀胱のほうを撫でるように押す。

タオルを咥えたまま首を横に振られると、犯してるみたい。

思わずニヤリと笑って、そのまま続けた。

空井そらいさんを犯すのは、楽しいなあ」

呟くと、彼女の眉間にシワが寄る。

フッと笑ってから、指は膀胱を刺激したまま、彼女に覆いかぶさる。

「嘘だよ。好きだよ、穂」

ジッと見つめられながらも、私が指でを撫でるたびに彼女は目を細めた。

悪戯は終わりにして、指を抜き差しする。

そうすればすぐにまた、彼女の肌が湿る。


手をティッシュで拭く。

穂に見上げられる。

「穂、どうだった?」

彼女は少し悩んでから「気持ち、良かった…」と呟く。

「いつもと比べて、どう?」

彼女の横に座る。

「いつものほうが、優しい…」

そうだよね。

「どっちが好き?」

「…どっちも、好きだよ?」

「しいて言うなら?」

彼女が息を吐く。

しばらく悩んで「どっちも好き」と答えた。

その答えに、私は笑う。

どっちも好きなんだ…。

てっきり、優しいほうが良いって言われるかと思ってたけど。


「今日は、けっこう…手短にやっちゃったけど、良かったの?…いつもはもっと、キスとか、長めにしてるけど」

彼女が起き上がって、隣に座る。

自分でブラをつけようとするけど、服を着たままだから、上手くいかないみたいだった。

手伝ってあげる。

「毎回は、嫌だけど…たまになら…」

「良いんだ」

彼女はボタンを留めていく。

…先輩とシてたときは、ほとんど毎回、こんな感じだった。

もう少し、短かったかもしれないけど。

早くヤって、早く終わらせる。

私は、そこに愛は感じなかったけど…先輩は、感じていたのかな。


「私、永那ちゃんの…意地悪するときの顔、好きだよ」

彼女が伏し目がちに言う。

「いけないこと、されてるみたいで」

目を閉じて、背もたれに寄りかかる。

…はぁ、可愛い。エロい。好き。

穂は、けっこう柔軟だよなあ。

公園でヤったときも、もっと嫌がられると思ったけど、ちょっと不貞腐れた程度だったし。

唇にぬくもりを感じて、目を開けた。

すぐ離れて、彼女が笑う。

「食べちゃうよ?」

そう言うと、弧を描く彼女の目も、口も、もっと弓なりになる。

「いいよ?」

胸をギュッと掴まれた気持ち。

彼女が私の膝の上に乗る。

見つめ合ってから、唇を重ねる。

舌を絡める。


太ももを撫でると、彼女が腰を浮かせた。

だからスカートを捲って、直に肌に触れる。

そこで気づく。

まだ、ショーツ穿いてなかったんだ。

彼女を見ると、彼女が照れるように笑った。

可愛い。

「もしかして、足りなかった?」

口をすぼめながら、でも、笑みを浮かべながら、彼女は首を傾げる。

…ああ、可愛すぎる。この可愛さは犯罪だ。

膝立ちする彼女の胸に顔を擦りつける。

わざと彼女の下腹部でを立てる。

彼女の鼓動が速くなるのが聞こえてくる。

「やだ…」

「ん?」

「それ…音…やだ…」

続ける。


***


「穂、声出しちゃダメだよ?本当に」

「出ちゃうんだもん…」

…ああ、可愛い。

彼女のに指を挿れる。

「んっ」

ゆっくり動かす。

「穂」

「ん…っ?」

「ごめんね」

「…なに、が?」

「先輩と、キスしたこと」

「…べつに…そんなに、気にして、ないよ…」

指を曲げると、彼女の腰が前に出た。

「なんで、気にしてないの?」

「永那ちゃんだって、私が、千陽…と、キス、してるの、許してくれて、っる…」

「それは、相手が千陽だからで…穂が他の人とキスしたら、怒るよ」

「そっか。…怒って、ほしい?」

どんな聞き方?

怒ってほしい人なんて、いないでしょ。普通。


…でも。

「怒って」

彼女の、気持ちいいところに触れる。

好きな声が鼓膜を揺らす。

「永那ちゃんの、バカ」

胸にうずめていた顔を上げると、彼女に見下ろされていた。

「バカ」

彼女が私の肩を、ポカポカ叩く。

指の動きを速めると声が降ってきて、彼女が私の肩にもたれかかる。

「バ…カ…っ」

ビクッビクッと彼女の体が跳ねる。


彼女の手をソファの背もたれに移動させる。

私はソファからずり落ちるようにして、彼女の股が見える位置で止まった。

「穂、来て」

そう言って太ももを掴んで引くと、彼女が唇におりてくる。

たくさん、舐めた。

お腹がグゥッと鳴っても、知らないフリして、舐めた。

しばらくそうしていたら、彼女から離れていった。

「足、ちょっと、辛くなっちゃった」

へへへと笑う。

私は唇を舐めて、起き上がる。

「お腹すいた。穂は、お昼食べたの?」

「まだだよ」

「じゃあ、なんか食べよ?」

「…家に、あるよ。行く?」

「うん」


2人で家に行く。

「ただいまー」

穂が言う。

「「おかえりー!」」

ん?

「千陽と優里まだいんの?」

「そうみたい」

穂が苦笑する。

顔を出すと「永那だ!」とたかが言う。

「あれー?珍しー!」

優里が言って、千陽もこっちを向いた。

「お母さんは?」

穂が聞くと「まだ寝てる」と誉が答える。

2人で手洗いうがいをして、穂が冷蔵庫から食事を出してくれる。

ご飯を食べて、千陽、優里、誉が遊ぶ人生ゲームの様子を眺める。

…てか、勉強は?

明後日からテストだよね?

千陽はいいかもしんないけど、優里はいいの?


「お母さんがさー、そろそろ予備校行ったほうがいいんじゃないかって言うんだよね」

優里がルーレットを回す。

「千陽は行く?」

「高3になったら行こうと思ってる」

「穂ちゃんは?」

「私も、高3になってからかな」

私には、行けるお金なんてない。

「でも…予備校じゃなくて、オンラインのやつも考えてるかな。そっちのほうが安いし」

穂がお茶を飲みながら言う。

「え!そーなんだ!…オンラインかー…私は続かなさそうだなー…。永那は?」

「行かない」

「強すぎる…」

何がだよ。

…まあ、優里のこの反応は、好きだけど。


「私、帰ろうかな」

「もう!?早くない?…人生ゲームやってったらいいのに」

「いや、勉強しろよ」

優里が机に顔を突っ伏す。

「今夢を見てるんだから!そんなこと言わないで!現実を突きつけないで!悪魔だ!永那は悪魔だ!」

左眉を上げて、優里を見る。

…こいつバカだ。

私が立ち上がると、穂が玄関まで一緒に来てくれた。

「ここでいいよ」

「そう?」

「うん、来てくれてありがとう。嬉しかった」

彼女にキスをして、ドアを開ける。

いつも通り、エレベーターに乗るまで見送ってくれる。

…好きだ。

絶対、手放したくない。


1階におりて、スマホを出す。

お姉ちゃんに電話をかけた。

出ない。

もう一度かけても、お姉ちゃんは出なかった。

仕方ないからメッセージ画面を開く。

『心音先輩から聞いたと思うけど、私、修学旅行行きたいから。お姉ちゃんが帰ってこなくても、行くから』


家に帰ると、お母さんが起きていた。

「永那~、どこ行ってたの~?」

「穂のとこ」

「穂ちゃん!私も会いたい~!」

「今度ね」

お母さんの頭を撫でる。

帰る前、コンビニに寄った。

スマホで撮った写真を印刷するために。

それを棚に立てかける。

…今度、フレームでも買おうかな。

お母さんが暴れると危ないから、だめかな。

「うわ~!穂ちゃん、千陽ちゃん、優里ちゃん、永那!」

お母さんは写真を見て、指差す。

「お母さん」

私は最後にお母さんを指差した。

お母さんがへへへと笑う。


「楽しかったね~、勉強会」

「そうだね」

「また勉強会しないかな~」

「そんなにテストがあったら、優里が倒れるよ」

お母さんがフフフと楽しそうに笑った。

立てかけた写真を取って、お母さんは寝転ぶ。

「穂ちゃん、千陽ちゃん、優里ちゃん、永那、お母さん」

繰り返し、小さく呟く。

「穂ちゃん、千陽ちゃん、優里ちゃん、お母さん、永那…かな」

順番をなおしてる。

私は座卓に頬杖をついて、お母さんを眺めた。

水族館デート、楽しみだな。

大きくあくびが出て、目に涙がたまる。

…今日は疲れた。

よく、頑張った。

穂が頭を撫でてくれたことを思い出す。

気づけば、意識がなくなっていた。

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いたずらはため息と共に 常森 楽 @tsunemoriraku

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