第91話 疲労
■■■
背中をさすってから、少しずつ手をおろして、お尻に触れる。
ピクッと彼女の体が反応する。
少し火照った体が、もう彼女の準備が整っていることを教えてくれる。
でも…もう少し、キスしてたい。
私はけっこうキスが好きなのだと、穂としてから思うようになった。
お尻を優しく揉んで、そのまま太ももにおりる。
胸元のリボンがお姫様みたいで可愛いし、裾がレースのフリルになっていて、捲りたくなる。
裾の中に手を入れて、直に彼女の肌に触れる。
いつもの、スベスベした肌。
弾力のあるやわらかい太もも。
彼女の下腹部に手を近づけると、少し熱を感じる。
…ああ、期待されてる。
そう思うと、ゾクゾクする。
太ももを撫でて、揉む。それを繰り返す。
彼女の体は、私が手を動かすたびにピクピクと反応して、
彼女から注がれる唾液を味わいつつ、舌を唇で挟むと彼女の声が漏れ出る。
太ももから、ショーツと
“早くさわって”とねだられているようで、嬉しくなる。
でも、まだだよ。
1ヶ月近く我慢したんだ。
じっくり、味わわないと。
後で、ちゃんとシてあげるから。
穂も、もう少し我慢してよ。
そのまま彼女のお腹を何度かさすって、ネグリジェから手を出した。
膝立ちしている彼女の胸が、さわりやすい位置にある。
もう、ネグリジェの上から突起がぷくっと浮いていて、すぐに彼女がさわってほしいと思っている場所がわかる。
でもあえて、私はその周りを、円を描くように指先でなぞる。
マイクロビキニが、少し邪魔だな。
円を描くたびに、指に引っ掛かる。
でもその揺れが、彼女に小さな刺激を与えているようで、さっきよりもピクピク反応する体の動きが大きくなっている。
潤んだ瞳で見つめられる。
「なに?」
聞くと、彼女は目を彷徨わせた後、またまっすぐ私を見た。
「シて?…我慢、できないよ…さわって?」
…なにそれ。…可愛すぎるよ。…反則だよ。
“穂も我慢してよ”なんて気持ちは一瞬で消え去る。
私も膝立ちになって、ほんの少しだけ彼女より目線が上になる。
片手で彼女のうなじを掴んで、唇を押し付けた。
唇を離して、彼女の耳を舐めた。
耳たぶをしゃぶって、そのまま首筋におりていく。
今日は、汗の味がしない。
鎖骨の窪みに舌を這わせる。
鎖骨を乗り越えて、やわらかな膨らみに向かっていく。
でも、ネグリジェがそれを阻む。
だから、阻まれたところの肌を強めに吸った。
彼女の肌に、赤い花を咲かせる。
いくつか咲かせて、ネグリジェの裾を捲る。
彼女の胸元まで捲し上げて、露わになった肌の、いたるところに花を咲かせていく。
ネグリジェの裾を持っていた手を離すと、幕がおりたように淡い暗がりが広がる。
目の前に、紐で締めつけられた、彼女の胸があった。
紐に締めつけられた胸の凹凸が、乳房のやわらかさを表現しているようで、思わず両手で包み込んだ。
やわらかい。
何度も触れてきた。
でも、飽きずに何度もさわっていられる。
両手で包み込むと、谷間が深くなる。
そこに顔を埋めて、やわらかさを堪能する。
吸い付くと、マシュマロみたいで癖になる。
乳房に、たくさんの花を咲かせていく。
紐を取ると、彼女の体に緊張が走った。…期待とも言えるかな。
呼吸が速くなって、力んでいるのが肌の感触でわかる。
…
***
彼女のショーツをおろして、茂みのなくなった、ツルツルの肌に触れる。
…少し、今日はザラついてるかな。
私と会うときに、丁寧に剃ってくれているのだと思うと、心が踊る。
穂は、エッチをしたことがない割に、感じやすい。
「自分でさわったりするの?」と聞いたことがあるけど、恥ずかしそうに「ない」と答えていた。
…なのに、この感じやすさ。
体質かなあ。
セックスが上手くなりたくて、昔、いろいろ調べたことがある。
そのときには、一度も経験のない子には、まず開発が必要だと書かれていた気がする。
胸だって、
実際、過去にヤった相手のなかには、何度かするうちに、だんだん気持ちよくなっていった子もいた。
でも、穂はすぐに気持ちよさそうにしていた。
ヤってて、こんなに楽しいことはない。
穂は素直に反応してくれるし、やりがいがある。
彼女が潤んだ瞳でこちらを見た。
***
「
彼女を抱きしめる。
ネグリジェを脱がせて、彼女をベッドに押し倒す。
彼女が生まれたままの姿になる。
優しく彼女の胸を揉む。
ほんの少し、指のすき間から溢れる彼女の乳房が、心地いい。
頭を撫でてくれて、甘やかされてる感じがして、照れくさい。
さっきつけた赤い花が消えかかっているから、もう一度、彼女の肌に吸い付く。
***
自分の指を舐めてから、テーブルにあるティッシュを取って拭く。
何枚かティッシュを取って、彼女の額の汗も拭いてあげる。
額に張り付いた髪を指で梳く。
薄く開いた瞳がこちらを向く。
「気持ち良かった?」
彼女はコクリと頷く。
「動けない?」
また頷いた。
彼女に布団をかけてあげる。
「ちょっと、飲み物取ってくるね」
もう1時だった。
お腹もすいたな。
…前は割とすんなり起き上がれてたから、穂、体力ついたと思ってたけど…今日は動けないのか。
違いはなんだろう?
私はテーパードパンツを穿く。
ドアを開けて部屋を出た。
壁に寄りかかって座る千陽がいて、びっくりする。
声を出しそうになって、グッと奥歯を噛む。
そっとドアを閉める。
俯いている千陽の顔を覗き込むと、ポタポタと涙を流していた。
私が視界に入ったのか、顔をそむけられる。
ズキズキと胸が痛む。
千陽の泣いてる顔を…見たくない。
「なにやってんの?」
そう聞いても、答えは返ってこない。
彼女の頬を伝う涙を、指で拭う。
フゥッと息を吐く。
彼女が膝を立てて、両手を足の間にだらんと垂らしていた。
ワンピースのスカートが捲り上がって、ショーツが見えている。
私は頭をポリポリ掻いてから、お姫様だっこをする。
千陽は驚いた後、「んー!」と足をバタつかせた。
「シーッ」
そう言うと、俯いて、黙る。
正直、手が疲れてるから辛い。
でも、千陽がここにいて、泣いていたことを、穂に知られたくない。
震える手と足を必死に動かして、階段をおりる。
広い家でよかった…。
千陽をソファにおろす。
「なに泣いてんの?」
「べつに」
「なんであそこいたの?」
何も返ってこない。
「お前、やっぱり“見たくもないし、聞きたくもない”のが本心だろ?」
何も、返ってこない。
千陽は体育座りをして、膝を抱える。
「2人と一緒にいたかった」
千陽が腕に顔を埋める。
「久しぶりに、永那に触れられて…昨日の夜、穂に愛されて…幸せだった…」
絞り出すような声。
刃で刺されるような胸の感覚に、苦しくなる。
「一緒に、いたかったの…」
私は目を閉じて、奥歯を噛みしめた。
***
■■■
「それで傷ついてたら本末転倒じゃん」
「…でも、どうすればいいかわからない」
「私にもわからん」
…中学のときとは、違う返答。
幸せだった。
だから、少しでも長く一緒にいたいと思ってしまった。
大丈夫だと思ってしまった。
彼女達の1ヶ月記念にも、あたしが意地になって、
抉られるんじゃないかと思うほどに、痛かった。
それでも、あのときは怒りもあったし、永那に対して冷めた感覚も明確にあったように思えた。
だから、なんとか耐えられた。
どうして自分がこんなにも、2人に固執しているのか、わからない。
でも、ただ…ただ…愛されたいと願ってしまう。
SNSやレズビアンのイベントで出会った誰かでもない。
他の誰でもない、2人に愛されたい。
あたしに手を差し伸べてくれたのは、2人だけだったから。
あたしをちゃんと見てくれようとしたのは、2人だけだったから。
2人があたしを愛してくれるときだけ、あたしはあたしを好きになれた気がした。
永那が肩を抱いてくれる。
…ほら、またそうやってあたしを甘やかす。
こんなことしてくれるのは、2人だけなんだよ。
穂なんて…キスまでしてくれる。
あたしが自分で自分を気持ち良くする姿を見ても、引きもしない。
なんなら、穂にできる精一杯のことをやってくれる。
あたしのこと、本気で心配してくれてる。
…そりゃあ、優里だって誉だって…もしかしたら森山さんだって、あたしのことを本気で心配してくれてたのかもしれない。
でも、2人ほどじゃない。
当たり前だ。
ただの友達を、自分を犠牲にしてまで助けようとは、誰も思わない。
2人が…おかしいんだ。
2人はちゃんとお互いに愛し合っているのに、あたしなんかがいるから…歪になる。
あたしなんかが…。
「
永那の、優しい声。
「いつかさ…いつか、お前が寂しくなくなるときまで、私はずっとそばにいるから」
穂と、同じことを言う。
「べつに、寂しくなくなっても、友達でいるけどさ」
それも、穂と一緒。
「泣くなよ」
これは…言われてない。
「お前にはもう、私以外にも、いるでしょ?」
涙が、溢れて、止まらない。
「最近、森山さんとも仲良くしてるみたいだし」
「…森山さんは、どうでもいい」
「おいおい、それは失礼だぞ?」
笑いたくないのに、プッと笑ってしまう。
森山さんのせいだ。
頭を撫でられて、思わず顔を上げる。
シシシと笑う永那は…やっぱりあたしの王子様だ。
「穂は私の、お前は穂の、結果的に2人とも私の…なんでしょ?」
左眉を上げて、彼女ははにかんだ。
「今日まで、意味わかんなかったけど…まあ、悪くないかなって…思ったよ」
「そうなの?」
「…うん。…あ、でも、エッチはダメだからね!絶対ダメ!キスとおっぱいだけ!わかった?」
あたしはそっぽを向く。
「あ!おい!ダメだよ!?絶対ダメ!」
…しないよ。
もう、十分、これだけで幸せなんだから。
「ねえ!ダメだからね!?」
「うるさい」
永那が視界の端で項垂れる。
「…穂にもう一回言っておかないと」
永那の、バーカ。
最初は本当に、2人に言った通り1階にいた。
ソファに転がりながらスマホをボーッと見ていた。
優里や誉、クラスメイトのSNSを眺めていた。
文化祭の写真がたくさん投稿されていた。
誉は…なんかよくわかんないこと言ってた。
でもそのうち、穂の喘ぎ声が聞こえ始めた。
あたし1人では、できないこと。
あたし1人では、聞けない声。
穂はあたしのを聞くけど、あたしは、聞いちゃだめなの。
だから、好奇心が
ドアを開ける気は当然なかったけど、2人のやり取りを聞きたかった。
こっそり2階に行って、ドアのそばに座った。
穂の気持ち良さそうな声を聞いて、自然と下腹部に手が伸びた。
頭のなかで2人を想像して、幸せだった。
でも、ふと、我にかえって。
ママも今、彼氏とセックスしてんのかな、とか。
パパも出張と言いつつ誰かとセックスしてんのかな、とか。
そんなことを考えたら、あたしだけひとりぼっちに思えた。
あたし、1人でなにやってるんだろう?って、泣けてきた。
自分が、誰にも必要とされていないみたいで。
自分が、邪魔者みたいに思えて。
あたしさえいなければ、ママは彼氏と結婚できたのかな、とか。
あたしさえいなければ、パパも自由にセックスできたのかな、とか。
あたしさえいなければ、永那と穂は誰にも邪魔されず、まっすぐに愛を育めたのに、とか。
永那が部屋から出てきても、その思いは消えなかった。
“どうせあたしが邪魔なんでしょ”って。
でも永那にお姫様だっこされて…頭が真っ白になった。
そんなこと、人生で初めてされたから。
…そもそも、永那の腕枕だって、初めてだったのに。
永那に、こんなにも優しくされたのは、出会ったとき以来だったかもしれない。
…いや、出会ったときよりも、ずっと、ずっと、優しいかもしれない。
それは、穂のおかげかな。
…あたし、いてもいいのかな。
2人と一緒に、いてもいいのかな。
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