第90話 文化祭

3人で、セミダブルはさすがに狭かった。

…2人でもけっこう狭いのに。

永那ちゃんが真ん中に寝転んで、私は壁側、千陽が反対側だから…千陽が落ちてしまわないか心配になる。

永那ちゃんの腕枕で、私達は横向きに寝る。

「うん、悪くないな」

「うるさい」

千陽が言って、私は苦笑する。

私は上半身を起こして、永那ちゃんの胸に頭を乗せた。

千陽が幸せそうにしていて、心がふわふわする。

千陽と目が合う。

私が笑うと、彼女も笑みを返してくれる。

「あー…」

永那ちゃんが言う。

「やばい」

「なにが?」

私が聞いても、答えは返ってこない。

「どうせ、エロいことでも考えてるんでしょ」

千陽が彼女の脇に顔を近づけて言う。

言い方はキツめだけど、千陽の表情はやわらかい。

「エッチなこと考えてるの?」

「…穂、その言い方は、可愛すぎて犯罪」

「え…そ、そうなの」

フフッと千陽が笑う。

私はまたあくびをして、永那ちゃんの腕に頭を戻す。

「…おやすみ」

「おやすみ、穂」

「おやすみ」

すぐに意識がなくなる。


目が覚めると、永那ちゃんの横顔があった。

「いてて…」

寝返りをうてなかったからか、体が少し痛い。

なんとか起き上がると、まだ千陽も寝ていた。

時計を見ると、10時だった。

2人の寝顔を眺めてから、それぞれの頬にキスを落とした。

千陽の目が開く。

「…穂」

「ごめん、起こしちゃった」

彼女は首を横に振って、体を起こす。

「して?」

ドクドクと、心臓が鳴り始める。

彼女の唇に、そっと唇を重ねた。

「幸せ」

彼女の笑顔が、輝いて見えた。


「穂…帰らないで…」

「え…」

「今日も、ママとパパ…いない…」

私は永那ちゃんを見る。

「…ごめん、なんでもない」

千陽は背を向けて、立ち上がる。

クローゼットを開けて、服を着替え始める。

「そういえば、穂」

「ん?」

「キャミソール、いる?」

「貸してくれるの?」

「いいよ」

彼女が1枚出して、わたしてくれる。

振り向いた彼女はショーツだけの姿で、私は俯いた。

昨日の彼女の姿が鮮明に思い出されて、顔が熱くなる。

悪戯に成功した子供みたいに笑って、彼女はブラをつける。

チラリと目を遣ると、彼女は見覚えのあるキャミソールを着ていた。

「あれ、千陽、それ…」

「なに?」

「私のじゃない?」

「そうだっけ?」

…永那ちゃんも千陽も、私の物を盗りたがる傾向にあるらしい。


私は永那ちゃんに口付けする。

「永那ちゃん、起きて」

今日は中途半端な時間だからか、なかなか起きない。

千陽がベッドに座る。

「あたしも、して…」

見つめられて、仕方ないから一度、触れ合うだけのキスをする。

「永那、起きないなら、あたしが穂とセックスするよ」

永那ちゃんの耳元で言う。

ムニャムニャと口を動かして、永那ちゃんの眉間にシワが寄る。

私はもう一度、永那ちゃんの唇に唇を重ねる。

今度は、舌を出す。

彼女の唇をチロチロと舐める。

「ねえ、穂…永那が起きないのが悪いんだし、しようよ?」

「な、なに言ってるの」

私は苦笑して、永那ちゃんの髪を梳く。

「永那ちゃん、起きて」

…どうしたものか。

「穂…しよ?」

千陽は胸元のあいている服を着ていて、ネグリジェとそう変わらないように思えた。

「穂…」

彼女のぷるっとした唇を尖らせられて、引き寄せられるように、顔が近づく。


「…起きたから」

永那ちゃんが片目を重そうに開けている。

ため息をついて、起き上がる。

目をギュッと瞑ってから、両目を開けた。

「2人のいちゃこらは、これでおしまい」

気づけば私達の手は、永那ちゃんのお腹に乗っていて、その手を永那ちゃんに握られた。

「2人して体重かけるんだから…さすがに重いよ」

「あ、ごめんね…」

千陽はぷいとそっぽを向く。

「…こんな時間か。穂、家行く?」

私はそっぽを向く千陽を見る。

“穂…帰らないで…”

彼女の絞り出したような声を思い出して、胸がズキズキと痛む。

「千陽…1人じゃ、寂しいよね」

私が言うと、「べつに」と言う。


「…てか、時間もったいないし、うちでセックスしていけばいいじゃん」

「な…っ!お前、言い方直球過ぎない?」

「どうせするんでしょ?…なら問題ないじゃん」

「っていうか、“見たくもないし、聞きたくもない”んじゃないの?」

「…もう、それはいい」

「どういうこと?」

「とにかく…あたし1階にいるし、永那が帰る時間まで好きなだけ部屋使っていいから。…いてよ」

“べつに”と言ったけれど、“いてよ”が本心だよね。

「永那ちゃん…お言葉に、甘えよ?そのほうが、長く一緒にいられるし」

永那ちゃんの左眉が上がる。

私と千陽を交互に見て、「わかった」と頷く。


「穂…最後…して?お願い」

永那ちゃんを見る。

彼女は目をそらして、頭をポリポリ掻いた。

ゴクリと唾を飲んで、彼女の唇に唇を重ねた。

頬を両手で包まれて、舌が入ってくる。

え、永那ちゃんが見てるのに…!

心臓が駆けるように速くなる。

薄く目を開いて永那ちゃんを見るけど、ただ無表情に俯いていた。

私は千陽の舌を受け入れて、自分のを絡めた。

永那ちゃんに繋がれた手をギュッと握りしめて。


***


「ありがと」

千陽はそう言って、部屋から出て行った。

2人で彼女の背を見送って、しばらくドアを眺めていた。

「…永那ちゃん、ごめんね。嫌だったよね」

「んー…初めて2人のしてるとこ見たけど…まあ、そりゃあ、良い気分にはならないけど…2人とも、幸せそうで、ちょっと安心した」

「…そっか」

永那ちゃんにギュッと抱きしめられる。

「穂、好き」

「私は、永那ちゃんが大好き」

彼女がフフッと笑う。


「そういえば穂、ずっと気になってて、なかなか言えなかったんだけど…」

「なに?」

そんな前振りされると、妙にドキドキする。

「その…自分で言っておきながら…あれなんだけど…その…マイクロビキニ、やめよう」

「え?」

「なんか、つい思いつきでやったけど…男子もいるところで、その格好されてるって思ったら、気が気じゃなかった…」

「そ、そうなの?」

「うん…いつか見えちゃうんじゃないかって、こっちのほうがハラハラしてたよ。…穂は、気にならなかったの?」

「少しは、気にしてたけど…これで永那ちゃんの不安を少しでもなくせるなら…と思ってたよ」

永那ちゃんが私の頭を撫でながら笑う。

「ありがとう。好きだよ、穂」

私は首を傾げる。

すぐに頷いて、「私も、永那ちゃんが好き!」と、彼女を抱きしめ返す。


「千陽にバレなかったの?」

「…たぶん。このビキニつけてると、永那ちゃんを思い出して“絶対さわらせちゃダメ”って気持ちになれるんだよ。絶対見られちゃダメだし、絶対これ以上はダメって思えた」

「ふーん…じゃあ、けっこう良かったんだ」

途中から慣れたけど、もちろんすごく良かったわけではない。

学校で、少し激しく動いたら位置がズレそうになって怖かったし、何度もトイレに行って、問題ないか確認していた。

それでも…今日(昨日)みたいな日には、胸の締め付けが私の理性を引き止めてくれた。

必死に永那ちゃんを思い出して、お風呂だって一緒には入れないと思えたし、千陽の気持ち良さそうな声にも耐えた。

お泊りの日は…必須かもしれない。

「そうだね。…でも、学校では…つける必要は、ないかも」

「うん。“みんなの模範になりたい”穂には、必要なかったね」

一昨日を思い出す。

今更ながら、あれもかなりギリギリだったような…。


「昨日、約束守ったんだもんね?」

朝の会話を思い出す。

「うん。ちゃんと、キスと胸だけ…。私のは、さわらせなかったよ」

「…じゃあ、いい加減、穂を信じなきゃね」

優しく微笑まれる。

「自分で“いい”って言ったんだし…穂は今回、約束を守ってくれたんだし…もう、マイクロビキニはやめよう。穂は…誰にも盗られないって、信じる」

私が頷くと、またギュッと強く抱きしめられた。


「ねえ、昨日、どんなことしたの?」

心臓が跳ねる。

「あ、あの…最初はいつも通り、キスして、胸を…さわってあげたんだけど…途中から、千陽がを出してきて…」

「変な棒?」

「なんか、よくわからないけど…それを、千陽が、自分で…挿れて…」

ドクドクと、鼓動がうるさくなる。

「バイブか」

「バイブ…?」

「そういう、エッチな玩具」

ゴクリと唾を飲む。

「いいなあ…あいつバイブ持ってんのか。私も欲しいんだよね」

…欲しいんだ。

「…穂が、バイブを動かしたの?」

「ううん!私は、本当に、キスと胸だけ…」

「そっか」

「だって、エッチになっちゃうよね?」

「そだね。…よかった」


彼女の耳元に口を近づける。

「早く、永那ちゃんに…会いたかった」

彼女がフフッと笑う。

「私に会いたかったの?」

「うん…なんで、ここにいないんだろう?って思ったよ」

「それじゃ、3人で部屋にいることになっちゃって、おかしなことになるよ?」

「…あ、そっか。…でも、でもね?私、千陽の声聞いて…その…ショーツが…大変なことに…」

「大変なことって?」

永那ちゃんは楽しそうに笑う。

「…意地悪」

彼女の首に顔をうずめる。

「夏休み、最後の日…エッチ、できなかったし…私、楽しみに、してたんだよ」

「可愛い」

苦しいくらいに、強く抱きしめられる。


見つめ合って、キスをする。

2人で笑って、もう一度する。

永那ちゃんの首の後ろに手を回す。

永那ちゃんは私を抱きしめるように背中に手を回した。

「好き」

「私も」

吐息が混ざり合う。

ゆっくり、お互いの舌を絡ませる。

それだけで子宮が疼いて、早く彼女に触れられたいと願う。

彼女は私の舌を撫でるように、舌先を動かす。

少しくすぐったくて、舌を動かすと、絡めてくれる。

2人で遊ぶみたいに、動かす。

部屋にキスの音が響いて、体が疼く。

私は膝立ちになって、永那ちゃんの唇を覆うように、貪るように、唇を押し付ける。

永那ちゃんの髪を撫でると、彼女も撫でるように背中をさすってくれる。

それだけで、気持ちいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る