第89話 文化祭

彼女が腰を揺らす。

スイッチらしきところを指先でいじって、ブブブという振動音が大きくなる。

スイッチを止めて、彼女は私の上に倒れ込む。

「ハァ、ハァ」と息を切らしながら「気持ちいい…」と呟く。


「1人で、やってもね?…こんなに、気持ちよく、感じないの…」

彼女の鼓動の速さが、伝ってくる。

きっと、私のも、彼女に伝わってる。

「千陽、1人で、やってるんだ…」

「穂は、しないの?」

「や、やりかたが…わからないから…」

「ふーん。永那、教えて、くれないの?」

「…お、教えてくれるものなの?」

「知ら、ない。あたし、誰ともシたこと…ないし」

…えーっと…千陽は、モテるから、勝手に誰かとそういうことを済ませているものだと思っていたけど。

ああ…でも、そっか。

永那ちゃんが、千陽のことを“経験豊富だと思ってたから、ビビった”って、言っていたような…。

「永那のエロ話に付き合うために、あたし、けっこう、頑張ったんだよ?」

ムクッと起き上がって、挿さるをぐるぐる動かす。

ネグリジェで、詳細には見えないけれど。

トロンと垂れた目で見られる。

「穂、あたしが、寝転がりたいって言っても、おっぱい…さわってくれる?」

あいている手で、彼女は自分の乳房を握った。


強めに握っているからか、乳房に指の窪みができていて、私も…さわりたくなる。

「いい、よ」

フフッと彼女が嬉しそうに笑って、ショーツを脱ぎ捨ててから、寝転がる。

私は起き上がって、彼女のそばに座った。

千陽がネグリジェを自分で捲り上げる。

彼女に生えている薄い茂みが、微かに湿っているようにも見える。

「かなり…恥ずかしい、ね」

顔を赤らめながら、潤んだ瞳で見つめられる。

ゴクリと唾を飲んで、ネグリジェに隠れた彼女の胸を、直に揉む。

「穂、穂…」

彼女を見る。

「来て。こっち、来て」

両手を広げられたから、彼女に覆いかぶさるように四つん這いになる。


「して?」

彼女の唇に唇を重ねる。

手から溢れる胸を、優しく、大きく揉んだ。

彼女の片手が、私の首の後ろに回る。

もう片方の手は、下におりていく。

またブブブという振動音が響き出す。

彼女の両足が、私の背中に絡まった。

まるで拘束されているみたいに、彼女から離れられなくなる。

彼女が声を出せないように、彼女の口を唇で覆って、舌を絡める。

それでも、そのことに彼女は興奮したようで、鳴いた。

彼女の足の締め付ける力が強まって、首に回した手がぷるぷると震えた。

一度大きく体を仰け反らせて、熱い息を、鼻から出す。

私が唇を離してあげると、大きく口呼吸した。


「もっと…シたい…。だめ?」

これ以上千陽の声を聞いていたら、理性が飛んでしまいそうだ。

でも、彼女の潤む瞳に見つめられて“だめ”と言えるわけがなかった。

頷く代わりに、キスをする。

彼女の両足は私の背で絡まったまま。

振動音が大きくなる。

離れようとしても、離してくれない。

そのまま彼女は続ける。


彼女はダラリと手足をベッドに預けた。

私は彼女から離れて、彼女を見る。

私は、をゆっくり抜いてみる。

彼女の腰が、ピクッピクッと浮く。

は持ち手部分から枝分かれしていた。

ゴクリと唾を飲む。

少し、匂いを嗅いでみる。

「ちょ、ちょっと…穂!そ、それは…さすがに、恥ずかしすぎて、無理、だって…」

彼女が手をパタパタさせる。

「千陽が、自分でやったんでしょ?」

カーッと彼女の顔が真っ赤に染まった。


慌てて起き上がって、私からを奪い取る。

太いほうについていたゴムを取って、ティッシュで丸めて、ゴミ箱に捨てた。

“あー、もったいない!”

永那ちゃんの声が脳裏によぎる。

…違う、違う。

私は永那ちゃんみたいな変態じゃない…!

「ハァ、ハァ」と肩で息をしながら「…変態」と睨まれた。

ショック…。

彼女はをしまって、ベッドに座る。

「舐めようと、したの?」

「え!?…ち、違うよ…どんな匂いなのかな?って」

「ふーん」

彼女は上目遣いに私を見た。


***


「穂。…穂が、あたしのここ…さわるのは、だめ、なんだよね?」

彼女は割座をしながら、ネグリジェの裾を捲り上げる。

彼女のお腹が何度も膨らんでは縮み、呼吸が早いことがわかる。

「…エッチは、だめ、だから」

「そっか。わかった」

千陽はさっき投げ捨てたショーツを穿く。

彼女が座っていた場所には、小さく染みができていた。

「寝よ」

スタンドライトを消して、彼女がベッドに寝転ぶから、私も寝転んだ。

「穂、ハグしよ?」

私は横向きに寝て、彼女と向き合う。

手を出すと、彼女がモソモソと胸元に近寄ってきた。


「あたし、穂にシてもらえてるみたいに思えて、幸せだった…ありがと」

心臓がトクンと鳴る。

「また…シてくれる?」

私は高鳴る胸を鎮めるために、「ハァ」とため息をついた。

「まだ…わからない。これをしても良かったのか、わからないから」

「穂は…永那のだから…永那に聞かなきゃ、わからないってこと?」

「うん」

「そっか」

「永那ちゃんを…悲しませたくない」

「わかった」

彼女が、私の胸元の服をギュッと握る。

胸がズキリと痛む。

…どちらも大事にする方法が、見つからない。


「あたし、穂と永那の子供に生まれてきたかった。…きっと、幸せだろうな」

「お、女同士なんだし…子供は、できないんじゃない?」

「海外では、出産できるって聞いたよ?…例え、どちらかと血が繋がっていなくても…あたしは、2人の子供になりたかった。そうすれば、2人から愛されるでしょ?」

彼女をギュッと抱きしめる。

「好きだよ、千陽」

彼女がフフッと笑う。

「あたしは、穂、大好き」

もう…またそういう言い方して。

「穂?」

「ん?」

「しよ?」

一瞬どっちの意味かわからなくて、でも、彼女の視線が私の唇に向いているのがわかって、キスをする。

啄むようにキスをして、味わうように舌を絡める。

私は口の中で唾液を溜めて、彼女に流し込んだ。

彼女がそれを飲み込む。

また口付けしたら、今度は、彼女のが口内に流れ込んできた。

だから、私もそれを飲み込んだ。


私達は、抱きしめ合って寝た。

目は冴えていると思っていたけれど、瞼を閉じれば、すぐに意識はなくなった。


けたたましく、インターホンが鳴って、飛び起きた。

千陽は目を擦りながらあくびをして「どうせ、永那でしょ」と呑気に言った。

朝5時だった。

…早い!

千陽がのんびりしてるから、手を引っ張って1階におりる。

インターホンの画面を見ると、やっぱり永那ちゃんだった。

千陽が鍵を開ける。

私はその真後ろに立った。

鍵を開けたと同時に、勝手にドアが開く。

「おい!…千、陽…」

永那ちゃんが私と千陽を上から下まで眺める。

「うぉぉぉぉおっ、目があぁぁあぁ、目があぁぁあぁっ」

永那ちゃんが両手で目を覆う。

「朝からうるさい、静かにして、近所迷惑」

千陽はサンダルを脱いで、部屋に上がる。

私もそれに倣って部屋に入った。

永那ちゃんは玄関で蹲っていた。


「コーヒー飲む?」

千陽が聞いてくれる。

「私、ミルクとお砂糖たっぷりがいい…」

「可愛い」

「千陽はブラック?」

「少しは入れるよ」

瓶から豆を出して、挽く。

「挽くんだ…お洒落だね…」

「休みの日だけね」

廊下を這いながら、永那ちゃんがリビングに顔を出す。

「…なー、なんで千陽の家?なんで?」

「あれ?メッセージで…」

「それはわかってるけど…2人きりなんてさー…」

「だ、だめだった?」

「んー…」

また蹲って、頭を抱えてしまう。

「エッチ…してないよね?」

顔を覆った指のすき間から、私を見る。

「キスと、胸だけ…約束は、守って…る、よ」

眉間にシワを寄せて、ジッと見つめられる。


「ハァ」と大きくため息をついて、永那ちゃんが隣の椅子に座る。

「千陽、なんか食べたい」

「グラノーラとヨーグルトしかないけど」

「それでいい…」

永那ちゃんは机に顔を突っ伏す。

「このテーブル冷たい」

「そうだね」

私は永那ちゃんのサラサラの髪を指で梳いた。

「食べたら、穂ん行く?」

「んー…まだ、ちょっと、早すぎるかも…」

時計はまだ5時半だった。

家に行くとしても、早くとも8時半がいい。

私が大きくあくびをすると、永那ちゃんが顔を覗き込んでくる。

「何時に寝たの?」

「1時くらいかなあ?」

「…遅いね」

目を細めて、ジトーッと見られる。

千陽がテーブルにコーヒーとグラノーラとヨーグルトを置いてくれた。

「ありがとう」

私の隣に座って、みんなで朝ご飯を食べる。


「それにしても…2人の格好はなに?可愛すぎない?」

「あたしが選んだの。可愛いのは当たり前でしょ」

「…たっ…ハァ…最高すぎる」

永那ちゃんは腕に顔を擦りつけていた。

「穂、もう少し、寝ない?」

千陽に袖を掴まれる。

彼女の瞳は“どうせ無理”と諦めているような、暗い色をしていた。

それに胸が痛んで、気づいたら「いいよ」と答えていた。

「穂!?」

永那ちゃんがこっちを向く。

千陽の目はキラキラ輝いて、嬉しそうに口元を緩めた。

彼女は手元のコーヒーカップを口に運んだ。

「永那ちゃんも、一緒に寝ようよ?」

永那ちゃんを見ると、こちらは頬をピンク色に染めて、瞳を潤ませた。

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