第85話 文化祭

「…なんだっけな。ワッフルは、チョコバナナと、イチゴと、抹茶?他にもあった気がする。…タピオカは、ミルクティとカルピスと…なんだっけ…抹茶もあったかな…忘れた。全部あげる」

とにかく高いやつを大量に買わされた。

痛い出費。

夏休みのバイト代全部消えるかと思ったわ。

…ほぼ消えたも同然だけど。

「こ、これ全部ですか?」

「ん?…いらなかったら1つでいいよ」

「えっと…じゃあ、他のメンバーにもわたしておきます」

「うん、助かるよ」

金井さんはカルピスのタピオカを袋から取って、「いただきます」と小さく呟く。

チューッとストローを吸う音が部屋に響く。

「休憩?」

「…はい。両角先輩もですか?」

「私は参加してないんだよ。穂に会いたかったから来ただけ」

「そう、ですか…」

眠くて、机に突っ伏す。

穂、まだかな…。


「金井さんは、好きな人いる?」

「…はい」

「へえ。付き合ってるの?」

「はい」

「忙しそうだけど、妬かれない?」

「…相手のほうが、忙しいので」

「そっか。寂しい?」

「そうですね…でも、ずっと好きだったので、付き合えただけで…嬉しいです」

「おお、そうなんだ。それ、めっちゃ嬉しいね」

頬杖をついて彼女を見ると、頬を赤らめながら、頷いた。

「…あの」

「ん?」

「両角先輩は、空井先輩のどんなところが好きなんですか?」

「いろいろあるけど…いつも一生懸命で、ちゃんと気持ちを伝えてくれようとするところ、かな。なにより、世界一可愛い」

彼女の目が大きく開かれる。


頬をポリポリ掻いて「…すごいですね」と言われる。

「なにが?」

「そんな、まっすぐ…恋人のことを“可愛い”って言えるなんて、すごいです」

「そうかな」

「私も…言われたいですもん」

「言われないの?」

「…はい」

「金井さん、可愛いのにね」

「そ…、そんなこと…そんなこと、言ってたら、空井先輩が悲しみますよ」

「なんで?」

「なんでって…恋人が他の人のことを“可愛い”なんて言ってたら、普通に傷つきます」

「そっか。じゃあ、次から気をつける。教えてくれて、ありがと」

金井さんが小さく息を吐く。

「空井先輩、遅いですね」

「そうだねえ」

「…さっき、1年生の作ったオブジェが倒れたと言っていたので、忙しいのかもしれません」

「そっかあ」


ガラガラと扉が開く。

汗を流して、息を切らす穂。

「永那ちゃん…ごめんね…」

「穂、おつかれさま」

もう、あと10分で2時だった。


「生徒会メンバーのみなさん、金井です。空井先輩、今から1時間の休憩入ります。生徒会室には来ないように。…どうぞ」

「「了解です…どうぞ」」

トランシーバーから、数人の声が聞こえる。

「両角先輩から差し入れいただきました。今から各所届けに行きます…どうぞ」

「「ありがとうございます!」」

“わーい”と後ろで声が聞こえる。

「か、金井さん!?」

穂が慌てる。

金井さんがペコリと頭を下げて、さっきあげた袋とタピオカを手に持って出ていった。

「いい子だね」

そう言うと、穂は“んー…”と考え込む。

「い、1時間も…あけられない…」

「そっか」

「…で、でも…いいの、かな」

私は首を傾げる。

穂は何かを決意したように頷いて、私の隣に座った。


「永那ちゃん、待たせちゃってごめんね」

「全然。私も遅れたし」

「そうなの?」

「うん、一応メッセージも送ったけど…」

「ご、ごめん…見れてない…」

「いいよ、わかってた」

彼女の頭を撫でてから、ハンカチで汗を拭いてあげる。

穂が、机に置いてある袋を眺める。

「食べる?」

「あ、いや、永那ちゃんのでしょ?」

「穂のために買ったんだよ」

穂は何度か瞬きして「そっか…ありがとう…」と、袋を受け取った。

「ブレザー、脱いだら?」

彼女がブレザーを着ていたことが嬉しかった。

なぜ私がブレザーを着せたのか、きっと理解していないんだろうけど、私の言葉を今日も守ってくれたことが嬉しかった。


「永那ちゃんのブレザー…クリーニングして返すね?」

「なんで?」

「だって…けっこう動いて汗かいたし」

そう言って、彼女はブレザーを脱ぐ。

「いいよ、穂の匂いがついて嬉しいから」

「え、だ、だめだよ」

「だめじゃない」

むぅ…と唇を尖らせながら、穂はたこ焼きを頬張る。

「ちょっとたこ焼き冷めちゃったかな」

「食べやすいよ、ありがとう」

「穂」

「ん?…ん!?」

彼女の唇を塞いで、舌を入れる。

噛み砕かれたたこ焼きを舌で奪う。

それを飲み込んで、唇を離す。

「え、永那ちゃん…なにしてるの」

「“あーん”だよ」

彼女の顔が真っ赤に染まる。

彼女が私に背を向けて、たこ焼きを食べ始める。

その後ろ姿が可愛いから、抱きしめる。


「穂、ネックレスつけてくれてる」

「うん…迷ったけど…文化祭くらい、いいかなって」

彼女の汗の匂いが鼻を通る。

この匂いが、好き。

ペロリと首筋を舐めると、「もー!」と怒られる。

「キス、しよ?」

後ろから彼女の顔を覗き込むと、耳まで赤くなって、目をそらされた。

「だめ?」

「少しだけ、だよ?」

彼女の言葉が終わるのと同時に、唇を重ねる。

私は立ち上がって、座っている彼女を覆うように椅子の背もたれに手をついた。


***


彼女の足の間に片膝をつくと、彼女の長いスカートがクシャッと寄る。

舌を口内に忍び込ませて、絡める。

私の唾液を彼女に流し込んで、彼女が飲み込むのを確認する。

穂は、私の。

彼女が私の肩を片手で押すから、離れる。

…ずっと我慢してたんだから、これくらいいいじゃん。と、ムッとした。

「永那ちゃん…たこ焼き、置かせて?制服、汚れちゃいそう」

そう言われて、彼女の手元を見る。

…私のシャツに、ちょっとソースがついている。

「ああ…これ、落ちるかな」

穂はたこ焼きを机に置いて、除菌シートを出して拭いてくれる。

「いいよ、これくらい。それより穂…キスしたい」

「え…ちょ…わ…っ!」

彼女の膝の上に座って、唇を重ねる。

何度も、何度も、重ねる。


彼女の胸に触れる。

「んっ」

優しく揉み続けると、すぐに突起がシャツに浮かぶ。

指先で擦ると、彼女の可愛い声が漏れる。

彼女のシャツのボタンをいくつか外して、手を入れる。

「だ、だめ…だめだよ…」

「なんで?誰も来ないんでしょ?」

少しイライラしながらも、彼女の胸を揉み続ける。

汗でベタついている肌。

いつも清潔感があって、肌がサラサラだから、萌える。

夏でも、いつも拭いていたのか、そんなにベタついていなかった。

「せ、先生…来るかもしれないし」

どうだっていいよ。

彼女の唇を、唇で塞ぐ。

もう、喋らなくていいよ。

彼女のブラ(ビキニ)をずらして、露わになった肌に触れる。

ピクッと彼女が反応する。


「や、やっぱり、ダメ!」

両肩を強く押されて、膝からおろされる。

ブラの位置を調整してから、ボタンを留める。

肩で息をしながら、彼女は瞳を潤わす。

私はギリッと奥歯を噛みしめる。

「穂、私とシたくない?」

「ち、違うよ…!私だって…シたい…」

彼女と見つめ合う。

彼女は目をそらして、スカートの裾を握りしめた。

少し手を持ち上げて、スカートを捲る。

彼女の太ももに影が落ちる。

顔を真っ赤にしながらチラリと私を見るから、私はしゃがんで、彼女のスカートの中を見る。

「…わかる、でしょ?」

布面積の小さい、私が着けてと頼んだショーツが染みを作っている。

そっと触れる。


「私だって…シたい。永那ちゃんと、シたいよ?」

彼女の体が反応する。

「でも、私、仮にも生徒会長候補だし…。私は…みんなの模範に、なりたい…。だから学校では、できない」

フゥッと息を吐いて、私は立ち上がる。

「わかった。ごめんね」

除菌シートで指を拭って、彼女の頭を撫でる。

「…月曜日」

上目遣いに見られる。

「月曜日、シよ?」

胸がギュゥッと鷲掴みにされる。

…可愛すぎ…ずるい…こんなの…ずるすぎる。

「家、行っていいの?」

「うん。…たかも、学校だよ」

「じゃあ…楽しみにしてるね」

月曜日は、文化祭の振替休日。

夏休みぶりのセックス…。

思わず唇を舐める。


私は椅子に座って、靴を脱いで、穂の足の上に足を乗せる。

分けておいた2人分のワッフルの箱を開けて、口に放り込む。

それを見て、穂もたこ焼きを食べ始める。

「そういえば…差し入れ、ありがとね」

「ああ…あれは…買わされただけだよ」

へへと笑う。

「え?」

「みんなに“手伝わないなら、売上に貢献しろ”って言われてさ」

穂が目をまん丸くさせる。

「そ、そんな…」

あからさまに不安そうな顔をする。

ポンポンと頭を撫でる。

「大丈夫だよ。それくらいの関係がちょうどいいんだって」

「そう、なの?…でも、じゃあせめて私の分は、私が」

「だめ」

彼女の瞳が揺らぐ。

「そういう気遣いは、いらないよ」

「ごめん…。ごめん…そうだよね、ごめんね」

「謝らないで。…気遣ってくれて、ありがとう」


ワッフルの最後の一口を食べる。

「謝るくらいなら、キスして?」

そう言うと、穂は頬に桜を咲かせて、立ち上がる。

自然と、乗せていた私の足が床につく。

優しく、いつも私を起こしてくれたときみたいに、優しく、唇を重ねてくれる。

すぐに離れて、彼女も、最後のたこ焼きを口に入れた。

除菌シートで唇を拭いてから、鏡で歯を確認する。

「ワッフルも食べる?」

「…うん」

嬉しそうに笑って、彼女がワッフルを食べる。

…幸せ。

帰りにお母さんの分も買って帰ろうかな。


ワッフルを食べ終えた彼女を膝に乗せて、抱きしめる。

前回は彼女を前に向かせていたけど、今回は、向き合うように膝に乗せた。

だから、抱きしめ合える。

見つめ合って、何度か触れ合うだけのキスをする。

あとは、ずっと抱きしめるだけ。

ただ、ただ、彼女のぬくもりを確かめるように、彼女の生きる音を聞くように、ギュッと抱きしめる。

「好きだよ、永那ちゃん」

「私も、穂が好き」

1時間経つまで、ずっとそうしていた。

彼女が校門まで見送ってくれて、私は家に帰った。

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