第76話 まだまだ終わらなかった夏

「永那ちゃんは、なんで千陽にはお母さんのこと、話さないの?」

「んー…千陽と出会った頃、ちょうどお母さんがおかしくなって、そのときは…余裕がなくて、話せなかったんだよね。で、そのままズルズル話せないまま…って感じかな」

「そっか」

「まあ、あいつが気にするとは思えないけど…変に気遣われても嫌だったし。詳細を話すのが面倒だったっていうのもある」

「どうして、私には…話してくれたの?」

「好きだから」

まっすぐ見つめられて、心臓がキュッと締めつけられた。

「好きな人には…知っておいてもらいたかった。…メッセージの返事が遅かったり、なかなか土日出かけられなかったり…そういうの、不安にさせたくなかったし。せっかく付き合えたのに、そんな理由で振られたりしたら、嫌だから」

彼女の背中をギュッと握る。

「永那ちゃん、好き」

永那ちゃんの抱きしめる力が強くなって、私の首筋に顔をうずめる。

「私も、穂が好き」


「永那ちゃん」

「ん?」

「1ヶ月記念はプレゼントを贈りあったけど、2ヶ月記念は良かったのかな?って、昨日思ったの」

「あー…そうだね、何もしなかったね」

「私が忘れちゃったから、何もできなかったけど…今からでも、何かする?」

「んー…3ヶ月記念を、盛大にしよう」

「わかった」

しっかり記憶に刻む。


「穂、後ろ向いて?」

永那ちゃんに言われて、彼女の腕のなかでくるりと回転する。

うなじを舐められる。

胸を揉まれて、一気に鼓動が高鳴った。

「永那ちゃん…2人とも、いるから…」

「うん、少しだけ」

本当に彼女はそれ以上のことはしなかった。

ただ、優しく胸を揉まれ続けて…でも不思議とそれだけで、満たされた。

彼女の足を、私の両足が挟む。

心地よくて、ずっとこうしていたい。

「…永那ちゃん」

「ん?」

「私、昨日の夜、何度も永那ちゃんを思い出したよ。早く会いたいって、早くさわってほしいって、ずっと思ってた」

「私も、穂にさわりたいって思ってた」

嬉しくて、笑みが溢れる。

「少し、千陽の匂いがするのに、妬ける」

「永那ちゃんの匂いに、変えて?」

彼女が首筋でフフッと笑うから、少しくすぐったい。


「姉ちゃん、永那」

ドアの向こうから誉が喋る。

「なに?」

「千陽、帰ったよ」

私達は顔を見合わせる。

2人で起き上がって、部屋を出た。

「お昼、一緒に食べなくてよかったのかな?」

「んー、わかんないけど…なんか、ゲーム少しやって、急に“帰る”って言って帰ったよ」

「そっか。…誉は、今日どうするの?どこか遊びに行ったりする?家にいる?」

「そうだねー。永那寝るんでしょ?…暇だし、久しぶりに公園行こうかな?」

「お昼は?」

「適当にするよ」

「わかった」

少し、期待に胸が膨らむ。

誉を見送ってから、2人でベッドに戻る。


彼女の頬を包む。

「永那ちゃん」

彼女の唇を見つめて、そっと重ねる。

優しく、何度も触れ合う。

私が舌を出すと、彼女が唇を薄く開いてくれる。

唇に触れる感触が心地いい。

彼女の舌をチロチロ舐めて、確かめるように撫でた。

フフッと永那ちゃんはが笑う。

「穂、千陽ともキスするようになって、ちょっと上手くなった?」

「え?…そ、そうなの?自分じゃ…わからないよ」

「余計、妬ける…」

「…永那ちゃんが、全部教えてくれたんだよ?私にとっては、永那ちゃんがくれるものが、全部だよ?」

彼女の瞳が弧を描いて細くなる。

「そっか…それは、嬉しい」

唇を重ねて、今度は彼女の舌が私のなかに入ってきた。

お互いの唾液を混ぜる。

糸を引いて離れて、額を合わせる。


「好き、大好き。永那ちゃん」

ギュッと彼女を抱きしめる。

「今日、たくさん言ってくれるね」

「…だって、昨日、永那ちゃんが泣いてたから。私、永那ちゃんを悲しませたくない。できることは、全部したい」

彼女の顔が綻んで、私も笑う。

「好き、大好き、穂」

そう言って、彼女も私を抱きしめてくれる。

そのまま押されて、ベッドに倒される。

心臓がトクンと鳴って、子宮が疼きだす。

「永那ちゃん?」

「ん?」

「…引かないでね?」

「なに?」

彼女の左眉が上がる。

「私…永那ちゃんに、舐めてほしいって、思ってた」

ニヤリと笑って「どこを?」と聞かれる。

自分の顔が熱くなる。

「…意地悪」

「穂が、自分で言ったんでしょ?…教えてよ?」

小さく口を開いて、を言う。

彼女の目が大きく見開いて、歯を見せて笑う。

「…可愛い…なにそれ…」

私の胸元に顔を擦り付けて、彼女の髪が首にふわふわあたる。


鼓動がトクトクと速くなっている。

彼女が顔を上げて「いいよ」と私を見下ろす。

自分で言っておきながら…言ったらやってもらえるとわかっていながら…恥ずかしくなって、顔をそらす。

彼女は私のパンツのウエスト部分に指を引っ掛ける。

私は少し腰を浮かして、彼女が脱がせやすいようにする。

面積の小さな布が露わになる。

布を支える紐の結び目を取って、茂みのない、ツルツルの肌が晒される。

脚を広げられて、彼女の顔が埋もれていく。

フフッと笑う彼女の息がかかる。

恥ずかしいのに、彼女を見たくて見つめてしまう。


***


彼女がニコッと笑って、何度も私の大事なところを、大事そうに舐めてくれた。

昨日はこれが長く感じられて、もどかしくて、早く強い刺激を欲したけど、今日はいつまでもそうしていてほしいと思ってる。

目を閉じて、心地よさに浸る。


彼女は1時間近くそうしてから、私に覆いかぶさった。

「どう?…そろそろ顎が痛いんだけど、まだ舐めてほしい?」

彼女がニヤニヤ笑う。

「舐めてほしいって言ったら、してくれるの?」

「いいよ?」

「じゃあ…舐めてほしい…」

フフッと笑って「ちょっと疲れちゃったから、穂も一緒にやって?」と言った。

まばたきをしていると、永那ちゃんが横に寝転んだ。

「穂、ここに、乗せて?」

私は起き上がって、彼女の口元に腰をおろす。

…恥ずかしい。

彼女が口を大きく開けて、そこにおさまるように座る。

ヘッドボードに手をついて、「ハァ」と大きく息を吐く。


私は休みたくなって、彼女の顔から離れた。

彼女の瞳が私を追う。

彼女のお腹の辺りに腰をおろして、休む。

ハッと気づいて、慌てて腰を上げるけど、彼女のシャツに染みができていた。

「ご、ごめんなさい…」

「こんなの、全然いいよ。…それより、もういいの?」

私は俯いて考えてから「…うん。ありがと」と言って、彼女からおりた。

マイクロビキニのショーツとパンツを穿く。

彼女が寝転んだままだから、伸ばされている手の上に頭を乗せた。


彼女の腕が曲がって、自然と抱きしめられるような形になる。

「イかなくてよかったの?」

「…イきたい」

「パンツ穿いちゃったじゃん」

彼女の胸に顔をうずめる。

頭を撫でられて、目を閉じる。

「じゃあ、さわって?」

上目遣いに言うと「後ろ向いて」と体を反転させられる。

彼女の手がパンツのなかに入っていく。

手の動きはゆっくりで、もどかしさを生む。

ただでさえゆっくりだったのに、どんどんゆっくりになっていって、最終的に動かなくなった。


…知ってる。

知ってた。

彼女が眠いこと。

昨日だって寝ていないんだから、当たり前だ。

私が彼女の顔に跨ったとき、もう既に彼女の目はとろんと垂れていて、今にも瞼が落ちてしまいそうだった。

永那ちゃんは昨日、夏休み最終日だから起きていたいと言ったけど。

私は彼女の手に、手を重ねた。

そのまま動かしてみる。

たまに気持ちいいところに触れるけど、イけそうにはなかった。


たくさん舐めてもらえて満足感はあるし、それでもいいと思えた。

彼女の手をパンツから出して、そっと置く。

端に追いやられていた布団を彼女にかけてあげる。

スゥスゥ寝息を立てて眠る彼女の頬にキスをして、私は隣に寝転んだ。

彼女の寝顔を見ていたら、私も眠くなってきて、布団のなかに潜り込んだ。

なんとかアラームをかけて、目を閉じる。

…幸せな時間。

彼女との、2人の時間。

夏休み、最後の日。


明日始業式を終えたら土日がきて、月曜日からはいつも通りの学校生活が始まる。

長いようで、あっという間だった夏休み。

いろんなことが変わって、いろんなことがわかった、夏休み。

まだまだ問題は山積みだけど、充実していた。

2人でこんなふうに長時間過ごせるのも、しばらくないかもしれない。

9月は文化祭だ。

体育祭よりも忙しくなる。

文化祭は土日にあるけど、永那ちゃんは、参加できるのかな?

去年は、どうしたんだろう?

文化祭は、強制参加ではない。

特に3年生は大学受験があるから、毎年半分くらいのクラスが不参加だという。

…そんなことを考えていたら、気づいたら眠っていて、アラームに起こされた。

いつものように永那ちゃんを起こすと、彼女は項垂れていた。

それでもなんとか気を取り直して、口付けを交わした。

駅まで彼女を送る。

今日は、何度も振り向いて手を振ってくれた。

私も手を振る。

彼女の背中が見えなくなっても、しばらく宙を眺めていた。

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