第75話 まだまだ終わらなかった夏

私の部屋のドアが開いた。

「千陽」

「…穂」

「どうしたの?」

「穂こそ」

「私は…誉の寝相が悪くて、とてもじゃないけど眠れなくて」

千陽が鼻で笑う。

「あたしも、優里の寝言がすごくて」

「寝言?」

私は興味本位で部屋を覗く。

「違う!そうじゃない!バナナはちょっと熟れたほうが、いいんだよ!」

…すごいハッキリ喋ってる。

千陽と顔を見合わせて、笑った。

部屋のクローゼットから冬用の布団を取り出して、リビングのローテーブルをずらす。

デスクライトをラグのそばに移動させる。

私と千陽はラグに寝転んで、1枚の布団を横にして2人でかけた。


「穂」

「ん?」

「しよ?」

アッサリとした物言いに、心臓がピョンと跳ねる。

唾をゴクリと飲んで、私は上半身を起こす。

彼女の、ぷっくりとした唇に、唇を重ねる。

目を閉じると、永那ちゃんとのを思い出して、子宮が疼いた。

私が舌を出すと、彼女はすぐに受け入れて、絡めてくれる。

唇を離して、私は口内に唾液を溜める。

もう一度触れ合って、彼女のなかに流し込む。

千陽は最初驚いて、でもすぐに理解して、ゴクリと飲んだ。

私は彼女の豊かな胸に手を置く。

彼女はブラをつけていなくて、服越しでもやわらかさを堪能できた。

舌を絡めながら彼女の胸を揉んでいると、乳房の中心が膨れた。

だからそこを指先で擦る。

彼女が声を鳴らす。

唇を離して「シーッ」と言うと、彼女が不満そうに唇を尖らせて目を細めた。


私は笑って、また口付ける。

彼女のシャツに手を入れる。

すると彼女の手が下に伸びていって、パンツの中に入っていった。

しばらく彼女の胸を揉んでいたけれど、なんとなく見たくなって、シャツを捲った。

彼女の頬がピンク色に染まる。

デスクライトの光に照らされて、彼女の胸が露わになる。

前に彼女が家に泊まったとき、彼女の胸を見たけれど、あのときはまだ、千陽のことがよくわからなくて、ここまでじっくり見ることもできなかった。

夜は、電気もつけていなかったし。

改めてじっくり見ると、綺麗な形をしている。

顔も可愛くて、胸もこんなに綺麗で大きいんじゃ、外見で好きになっちゃうのも無理はないと思ってしまう。

…まあ、綺麗かどうかは、外から見ただけではわからないけれど。

この“特別感”が、不思議と私を高揚させる。


でも、胸につけた紐の締め付けが、高揚する気持ちを抑えつける。

“エッチはダメ”

理性はちゃんと働いていて、私はただ、彼女の自慰を手伝うことに徹する。

唇を離して「声を出すなら、おしまいにするよ?」と言うと、彼女は自分の下唇を噛んだ。

彼女の瞳が潤む。

彼女の鼻息が荒くなって、手の動きが激しくなる。


私が離れて、シャツを戻すと、手を掴まれる。

「もっと…シたい」

仕方ないから、彼女の唇に唇を重ねた。

舌を絡める。

音が出ないように、ゆっくりと。

彼女の手が、私の胸に触れた。

私は勢い良く体を起こす。

「それは、ダメ」

「なんで?」

「私は、永那ちゃんのだから」

彼女の瞳が揺れる。

「私のをさわるなら、おしまい」

「…ごめんなさい。もう、しないから」

私は頷いて、彼女と口付けを交わす。

彼女が足を開いた。

唇を離して、胸を揉んで、その様子を眺める。

漏れ出る声は…甘んじて許した。

彼女の手が上下に動いて、少しショーツのなかが見え隠れする。

…ああ、私も、永那ちゃんと早くシたい。


***


私は彼女の頭を撫でて、抱きしめた。

「穂。手、洗いたい」

そう言われて、彼女を離す。

パタパタとキッチンに走って、手を洗って、また小走りに戻ってくる。

そんな、走らなくてもいいのに…と苦笑しつつも、可愛いなと思う。

布団にもぐって、私の胸元にモソモソと寄ってくる。

また彼女を抱きしめると、彼女の手も私の背に回る。

…子供みたい。

千陽のことを深く知らなかったときは…彼女が心を開いてくれる前は、大人っぽいと思っていたけれど。

「穂、好き」

「私も千陽、好きだよ」

ギュッと強く抱きしめられた。

「千陽、永那ちゃんには、こういうことをしようと思わなかったの?」

「永那は…私が抱きしめても、頭を撫でるだけで、それ以上はしてくれない」

「そっか」

“好き”って言ったりしなかったのかな?と聞きたかったのだけど、今は深掘りしなくてもいいだろう。


しばらく彼女の頭を撫でてあげていると、私の腕のなかで、スゥスゥと寝息を立て始めた。

その寝顔が可愛くて、頬にキスを落とす。

そっと腕を外して、私も目を閉じた。

…永那ちゃんは、今、どんな気持ちなんだろう?

1人で泣いてないかな?

明日会ったとき、たくさん抱きしめよう。

2人で部屋にこもって、千陽は誉に任せて。

明日は夏休み、最後の日。

私は永那ちゃんのだから…永那ちゃんが悲しい思いをしているなら、私は永那ちゃんのそばにいたい。


お母さんの準備する音で目を覚ました。

「あー、ごめんね。起こしちゃったね」

隣で寝ていた千陽も、目を擦っていた。

「2人とも、そんなところで寝て…体痛くない?」

「ちょっとだけ…。千陽は?」

「…大丈夫」

まだ眠そうで、目が薄っすらしか開いていない。

「2枚くらい布団買っとかないとね…」

お母さんはコーヒーをゴクゴクと飲みきって、コップをシンクに置いた。

「じゃあ、行ってくるから」

「行ってらっしゃい、気をつけて」

「はーい」

お母さんがバタバタと出て行った。


千陽に服の裾を掴まれて、振り向く。

「おはよ、穂」

「おはよう、千陽」

「して?」

この言い方…可愛すぎて、困る。

私も、永那ちゃんに言ってみようかな?

彼女と口付けを交わす。

頭を撫でて、立ち上がろうとすると、また裾を掴まれた。

「もう一回」

もう一度、今度は少し長めにキスをした。

そのまま抱きしめられて、抱きしめ返す。

頭を撫でて、今度こそ立ち上がる。

布団をクローゼットにしまっていたら、優里ちゃんのアラームが鳴った。

優里ちゃんはアラームを止めて、また寝始めた。

私はベッドに座る。

しばらく彼女を眺めていたけど、起きそうにない。

…起こしたほうがいいのかな?


「穂」

ドアから顔を出す千陽。

「どうしたの?」

ゆっくり近づいてきて、口付けされる。

思わず優里ちゃんを見るけど、彼女はまだ寝ていた。

顎を千陽のほうに向けられ、もう一度重なる。

「…永那が来たら、もう、かまってくれないでしょ?きっと」

そう言われて、胸がトクンと鳴る。

「永那が来るまででいいから…あたしのことも、見て?」

千陽が…こんなに素直に表現してくれるなんて、ちょっと別人を見ているかのような気分になる。

「なに?」

彼女は少し仏頂面になって、私を見る。

「千陽、可愛いね」

そう言うと、頬をピンク色に染めて、俯いた。

右手で左腕をさする。

そのたびに彼女の豊満な胸が揺れる。

(…これ、私だけが見られるんだ)って思うと、背筋がゾクゾクした。

永那ちゃんも、こんな気持ちなのかな。


「優里ちゃん起こさないと」

私は彼女に告げて、優里ちゃんの肩を軽く叩く。

「優里ちゃん、起きなくていいの?部活なんでしょ?…優里ちゃん」

「んぅ?…あと5分…」

時計を見る。

8時から部活が始まると言っていたから、もう起きないとまずいんじゃないかな。

今は7時前だった。

…とりあえず5分だけ待ってみよう。

私は立ち上がって、千陽の手を引いて、キッチンに行った。

「千陽、朝ご飯、パンでいい?」

「うん」

今日も千陽は私のそばで、私のやることを見ていた。

誉が小さかった頃、ちょこちょこ私の後ろについてまわってきたのを思い出す。

「穂…して?」

…こんなに求められたら、私でも、ちょっと理性が崩壊しないか怖くなる。

永那ちゃんなら…本当に暴走しちゃうかも。


私は彼女にキスをする。

彼女が私の首に腕を回す。

彼女の舌が入ってきて、絡む。

…うがいはしたけど、寝起きの口だから、なんか恥ずかしい。

パンが焼けて、私達は離れた。

パンにバターとジャムを塗る。

オレンジを切って、お皿に添える。

「あたし、穂の作るご飯、好き」

…なんか、それみんなに言われるなあ。

こうも言われると、少し自信になる。

朝はパンを焼いてオレンジを切っただけなんだけど…。

「優里ちゃん起こしてくるね」

千陽は頷いて、椅子に座った。

ちゃっかり誉の席に座っていて笑ってしまう。


***


「優里ちゃん、そろそろ起きないと、遅刻しちゃうよ」

気持ちよさそうに寝ているところを起こすのは、忍びない。

でも遅刻されても困るし…。

優里ちゃんの頬を突いてみる。

「優里ちゃん」

「んー…あと5分…」

「もう5分経ったよ。7時過ぎたよ」

「…え!?やばい!」

優里ちゃんは飛び起きて、服を着替えた。

「あー、もう!」

「ご飯できてるからね」

「はーい!」

私は千陽の隣に座った。

千陽が伺うように私を見るから「食べていいよ?」と言うと、彼女は頷いて、食べ始める。

優里ちゃんがバタバタと洗面台から戻ってきて、席につく。

「いただきます!」

すごい勢いで口に入れていく。

お茶をゴクゴク飲んで、「ごちそうさまでした!」と言ってお皿をシンクに置いてくれる。


「ホント、こんなバタバタしてごめんねー!お皿も洗えなかったし…」

「全然、大丈夫だよ。気をつけてね」

優里ちゃんが瞬きをして、ジッと私を見る。

「私、穂ちゃんの家に住みたーい!」

「え!?」

「じゃあ!行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

優里ちゃんは走って飛び出して、エレベーターの前でも足踏みをしていた。

エレベーターに乗る前に手を振ってくれたから、私も振り返す。

ドアを閉めると、千陽が立っていた。

「あたしも、穂と一緒にいたい」

…永那ちゃんにも言われたな。

4人で住んだら、楽しいのかも。

リビングに戻ると、千陽はまた椅子に座って、食べかけのパンを口に運ぶ。

私もそれに倣う。

9時頃には永那ちゃんが家に来る。

あと1時間半くらい。


私がお皿を洗っていると、千陽に後ろから抱きしめられた。

「穂…好き」

「私も好きだよ、千陽」

お皿を洗い終えるまで、ずっと彼女は背中に引っ付いていた。

学校でもずっと、永那ちゃんが寝ていても背中に触れていたし、千陽は本当に、誰かと触れ合っていたい人なのだと知る。

でもその“誰か”は、誰でもいいわけではなく、安心できる相手でなければならない。

「穂、ベッド行こう?」

そう言われると下腹部が疼いて、早く永那ちゃんに会いたいと、目を閉じた。

深呼吸して、ベッドに向かう。

ドアを閉めて、千陽と抱き合う。

彼女の唇が私のに重なる。

すぐに離れて、また重なる。

やわらかい舌がなかに入ってくる。

私はそれに自分のを絡めたり、吸ったり、甘噛みしてみたりした。


彼女の胸に触れる。

まだ着替えていない彼女は、当然ブラもまだ着けていなかった。

シャツを捲って、朝日に照らされる彼女の胸を見る。

私はそれを優しく撫でて、彼女を見た。

目が合うと、千陽は耳を赤くした。

「あたし、また泊まりにきたい」

「…いいけど、あんまり多いと永那ちゃんが悲しむから、たまにね?」

彼女が頷いたのを確認して、肌を舐める。

「穂、好き。…好き、好き」

フフッと笑う。

千陽に好かれると、こうなるのかあ…。

もちろん嬉しさもあるけど…これは、大変だ。


誉の部屋のドアが開く音がする。

それでも私は彼女の求めに応えるように、キスと触れ合いを止めなかった。

そろそろ永那ちゃんが来る時間になって、私は千陽に着替えさせた。

「着せて?」

上目遣いにお願いされて、“着替えさせた”というよりも“着替えさせてあげた”というほうが正しい。

その最中にも、彼女が何度もキスを迫ってくる。

…これ、永那ちゃんにどう言えばいいんだろう。

なんとか彼女の着替えを終えたタイミングで、永那ちゃんが来た。

永那ちゃんは鍵を持っているけれど、いつもインターホンを押してくれる。

部屋を出ようとしたら、千陽に手を掴まれる。

「最後…」

頭を撫でてから、触れるだけのキスをして、私は部屋を出た。


「永那ちゃん」

彼女を見た瞬間、私は永那ちゃんを抱きしめた。

永那ちゃんはそれを受け止めてくれて、背中をトントンと優しく叩いてくれる。

「穂、浮気したな?」

耳元で囁かれる。

上半身を離して、彼女を見つめる。

フッと笑って、頭を撫でてくれる。

「千陽の匂いがする」

…犬じゃないんだから。

やっぱり嫌だよね…と、不安になると、キスされる。

「私がいいって言ったんだから、穂は気にしなくていいよ。ただ、言いたいだけだから」

優しく微笑まれて、私は頷く。

「おはよー、永那」

「おー、おはよ」

誉が顔を出す。

その隣に、千陽もいた。

千陽は視線をそらしつつも、左腕を右手で擦っていた。


永那ちゃんは誉と少し話してから、私の手を引いて、一緒に部屋に入った。

2人でベッドに寝転ぶ。

「エッチはしてないよね?」

「うん。ちゃんと、キスと胸だけ。…私のは、さわらせてないよ」

「いい子、いい子」

「私、千陽の昔の話とか、いろいろ聞いた」

永那ちゃんの腕に抱かれながら、昨日のことを話した。

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