第68話 夏が終わる


「え?それで?…それでどうしたの?全然聞きたくないけど」

「そのまま…私は胸を揉んで…佐藤さんは、その、自分で…」

永那ちゃんが頭を抱える。

「なにやってんだよ、ホントに」

「朝、キスされそうになったから、それは阻止したんだけど…誉ならいいのか?とか永那ちゃんなら?とか聞かれて、全部だめって答えたら、やっぱり穂だよね?って聞かれて…もちろん、ダメって言ったけど」

「…穂は、私がそうなったら、どう思うの?」

「…嫌、だ」

「そうだよね?」

永那ちゃんは両手で顔を覆って、「あ゙ー」と唸りながら倒れる。

「接近禁止って言ったじゃん!男はみんな狼…んー…あいつは男じゃないけども!1回キスされてるんだから、襲われる想定くらいできるでしょ!なんで一緒に寝ちゃうの!?」

「お母さんが…“こんな可愛い子を、こんな時間に1人で帰しちゃダメ”って言って…。わ、私も、不安だったよ!?でも…予備の布団もないし、床で寝るわけにもいかないし…誉も大きくなったから、一緒に寝るっていうのも…」


「んー」

顔を手で覆って倒れたまま、永那ちゃんは動かない。

「永那ちゃんは…すごいね」

「なにが?」

いつもより、冷たい言い方。

「あんなに可愛い人に、あんなふうに泣かれたり、迫られたりしても、揺らがなかったんだもんね。私、胸に手を押し付けられたとき、もう、耐えられなかったよ…」

顔ももちろんだけど、性格も可愛いんだもん。反則じゃない?

永那ちゃんが「ハァ」とため息をつく。

顔を覆っていた手を外して、勢いよく起き上がる。

「ま、そっか」

私は彼女を見て、首を傾げる。

「私もきっと、穂と同じ状況だったら、無理だったと思う。なんなら、襲って、そのままヤっちゃってたよ」

「え!?そ、そうなの?…でも、昔から佐藤さんに迫られてきたんじゃないの?」

「そんな、胸に手を押し付けられたことなんて…ない」

私は目を白黒させる。

「そもそも、口にキスされたこともないし、ほっぺにチューされたのが1番迫られたときだったよ」


永那ちゃんの顔に優しさが戻る。

「あいつの家で、やたら露出度の高い服を着て“シてもいいよ”とか言われたことはあるけど、言われただけで何もされなかったから、そのまま帰ったし。腕に胸を押し付けられるのはしょっちゅうだったけど…まあ、それでもけっこうキツかったけど、耐えられるレベルだった」

永那ちゃんが私を見る。

「だから…まあ、もし千陽がそういうことを私にしようと思って実行していたとしたら、耐えられなかったと思う」

「そ、そっか…」

「でもこれからは、ちゃんと気をつけてよ?…もう、嫌だよ?」

「…はい。頑張ります」

永那ちゃんの左眉が上がって、またため息をつく。


「穂が“頑張れる”ように、私がお仕置きをしましょう。次はしないように、ね?」

「え!?」

ニヤリと笑われる。

この笑みは…。

思い返せば、最初のエッチのときも、公園のエッチのときも“お仕置きエッチ”だった…。

最初は、私から言ったんだけど。

永那ちゃん、気に入ってるのかな…。

永那ちゃんはスマホを出して、何やらやり始める。

「だ、だめだよ!」

「なにが?」

チラリと視線をこちらにやる。

「あの…ど、動画とか、撮っちゃだめだよ?…リベンジポルノは、気をつけないと…永那ちゃんが、そういうことをする人とは思わないけど…」

永那ちゃんは鼻で笑って、すぐに視線をスマホに戻した。

「穂、ここの住所教えて?」

「な、なんで?」

「プレゼントを買ったから」

「プレゼント?」

「たぶん明日届くから」

そう言われて、家の住所を言う。

お仕置きって言ってたのに、プレゼント?

「よし!…絶対に私が来るまで開けないように」

永那ちゃんの家に届くようにすればいいのに。


「さて、浴衣姿の可愛い彼女が目の前にいるのに?何もしないと言うのもおかしな話だから…」

私は…永那ちゃんがもっと怒ったり、悲しんだり…それこそ佐藤さんと絶交とか言い出さないか不安だったけれど。

もう切り替えたらしく、ニコニコ笑っている。

「え、永那ちゃん…怒ってないの?」

「まあ、悪いのは9割方千陽のほうだろうし?穂に怒っても仕方ないよ…隠されて、後でバレる…みたいなことにはなってないわけだし」

永那ちゃんがベッドに乗って、私の背後に回る。

後ろから抱きしめられて、心臓がピョンと跳ねた。

「穂、好きだよ」

その言葉に安心して、回された手を握る。

「私も、永那ちゃん、好き」

耳から、首筋にかけて、キスを落とされる。

「今日も簪つけてくれてる…これ、めっちゃ可愛い」

「一昨日、言われたから…」


永那ちゃんがお祭りで会いに来てくれたとき、髪型を褒めてくれた。

部屋で見せたときはお団子にしただけだったから“見れて良かった”と嬉しそうにしていた。

永那ちゃんは、ずっと…滞在していた30分くらいの間、ずっと、私を抱きしめていた。

最後の5分だけ焼きそばを買って、口付けを交わして、帰っていった。

抱きしめられている最中「こんな姿、あの後輩が先に見たなんて思うと、妬くなー」なんて耳元で囁いた。

屋台の食べ物の匂いがたくさんしてくるのに、永那ちゃんの匂いが鼻を通って、私もギュッと抱きしめた。

このまま一緒にいたい…と思ったけど、来てくれただけでも嬉しくて、わがままなんて言えなかった。

だから、今日。

今日も褒められたくて、喜んでもらいたくて、あのときと同じようにした。


***


首筋を、永那ちゃんの舌が這う。

這った後は少しひんやりして、まだこの感覚には慣れない。

何度も、何度も、執拗に同じところを舐められた。

ちょっと、くすぐったい。

右手が胸元にスッと入ってくる。

「やっぱ、浴衣の良さはこれだよね」

そのまま、胸に彼女のあたたかさを感じた。

私は目を閉じて、彼女を受け入れる。

もう既に下腹部がウズウズしていて、期待する体を鎮めるように、深呼吸した。

「穂、こっち見て」

そう言われて、私は顔だけ後ろを向く。

唇と唇が触れる程度に重なって、すぐに次を求めるように触れ合った。

彼女の舌が私のなかに入ってくる。

もう、心地よくなった感覚。

少し絡まって、離れる。

また重なって、今度は、長めに。


私は首が辛くなって、体ごと永那ちゃんに向く。

彼女の手が抜けて、抱きしめてくれる。

「こんなに綺麗に帯が結ばれてると、崩すのが勿体無い気もする…」

永那ちゃんの息が耳にかかる。

「けど、崩したら…もっと、可愛いかな」

その声だけで、私の期待は膨れ上がる。

…少し緩めに結んでおいたから、彼女が手を入れたところに空間ができている。

彼女は私の胸元をジッと見つめてから、視線を私に戻して、目が合った。

ニヤリと笑って、唇が重なる。

丁寧に、えりを上に引っ張られる。

布が肌に擦れる感覚が妙に鋭く感じる。

ゆっくりとしたその仕草が、呼吸を荒くさせた。

肌が露出して、胸元がはだける。

下着が透けないか不安だったけど、今日はキャミソールを着ていない。

永那ちゃんの視線が胸に落ちて、口元を綻ばせる。

ペロリと唇を舐めて、上目遣いに私を見た。

「エロ」


永那ちゃんに喜んでもらいたくて、下着も新調した。

透けにくい色を調べたら、意外にも赤が大丈夫だとわかって、初めて赤色の下着を買った。

浴衣も真紅だったし、意図せず色を合わせたみたいになった。

こんな派手な下着は初めてで、恥ずかしさで汗が滲む。

「穂…こんなブラあったっけ?」

前にクローゼットを漁られたことがあったけど…そのときに見られたのかな。

新調したことを先に気づかれるとは思わなかった。

「…新しく、買ったの」

永那ちゃんの鼻の下が伸びる。

上唇を噛んで、口角を上げている。

両手で胸を包まれて、谷間が深くなった。

永那ちゃんは大きく息を吸って、谷間に顔をうずめる。

フゥーッと息を吐くから、あたたかい風が胸にかかる。

子宮がキュゥキュゥ締まって“早く”と急く。

永那ちゃんの動きは、私の期待に反してゆっくりで、焦れったい。


彼女は楽しむように、ずっと顔を胸にうずめたまま、ゆっくり優しく揉む。

たまに舐められるような感覚もあるけど、何をしているのかはよくわからない。

ふいに彼女が顔を上げて、キスをした。

彼女の前髪が垂れ下がっていて、流し目で見られると、胸が締め付けられる。

チュッチュッと音を立てて啄むようにキスをする。

その間にも彼女の手はゆっくり私の胸を揉み続ける。

目を閉じていたら、胸元の締め付けが解放されたのを感じた。

薄く目を開けると、ホックが外されて、ただ肩にぶら下がっているブラが目に入る。

直に肌に触れられて、体がピクッと反応する。

同時に彼女の舌が口内に入ってきた。

私は舌に力を入れず、ただ彼女に身を任せる。

彼女の舌の感触がやわらかくて、ずっとこうしていられる気がした。


優しく胸を揉まれ続けて、刺激を与えられたわけでもないのに、体がピクピク反応する。

これはこれで…気持ちいい。

マッサージされているみたいな、そんな気分にも似ている。

舌の動きもゆっくりで、彼女の舌の感触がよくわかる。

…どのくらい、そうしていたのかわからないけど、今までで1番長く感じた。

気づけば子宮の締め付けもなくなって、ただ心地よさに身を任せていた。

体は反応しているのに、落ち着いているみたいな不思議な感覚。


ゆっくりと、彼女が離れていく。

優しく微笑まれる。

「可愛い、穂。…浴衣も、ブラも、すごくよく似合ってる」

「…ありがとう」

永那ちゃんを想像して、永那ちゃんの笑顔が見たくて選んだ物。

こうも味わうように丁寧に扱われると、思っていたよりも嬉しくて。

買ってよかったって、思える。

肩を撫でられながら、じっくり体を見られる。

恥ずかしくて身動ぐと、彼女がフフッと笑った。

「穂、立って」

手を引かれて、ベッドからおりる。

彼女はまた私の全身を見て、口元を綻ばせた。

「は、恥ずかしいよ」

「綺麗だよ」

心臓がトクンと鳴って、顔が熱くなる。


永那ちゃんが私の肩を持って、体を回転させる。

目の前に全身鏡が置かれていて、ドキッとした。

胸元が大きくはだけて、真っ赤なブラが固定されずに揺れる。

その下には露わになっている胸があって、私は俯いた。

隠したくて、腕を前で組むようにする。

「穂」

後ろから抱きしめられる。

永那ちゃんを見たくてチラリと上を見ると、自分の腕で強調された胸が鏡に映っていて、慌てて手をおろした。

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