第42話 夏休み

「永那ちゃん」

穂の声に反応して、なんとか片目を開ける。

「ベッド行こ?」

その誘いに、私の体はすぐに反応する。

…違う違う。穂は私を労って、寝かせてくれようとしてるだけだって。

なんとか起き上がって、穂の手に引かれてベッドまで行く。

彼女が一緒にベッドに乗るから、なけなしの理性のツッコミを無視して、体はさらに期待する。

私は本能のままに、彼女の胸元に顔を埋めた。

私の理性なんて、そんなものだ。

ニット生地の肌触りの良い感触と、彼女のあたたかくて柔らかい胸が私を優しく包み込んでくれる。

そっと手を添えると「もう…」と言いながらも、頭を撫でてくれた。

指を動かす。

「やらかい」

そう言うと、“そんなこと言わなくていい”と抗議するように、頭をツンツン突かれる。


しばらく彼女の柔らかさを堪能して、やっぱり我慢できなくて、彼女の服を捲った。

「永那ちゃん…今日は」

“できない”が聞こえてこない。

彼女も期待してくれているのだと、眠い頭で判断する。

私はそのまま、ブラに支えられた乳房に吸い付いた。

汗で少ししょっぱいのが良い。

彼女の息が溢れる。

赤い斑点を彼女の白い肌につけていく。

綺麗な花が咲くみたいなイメージ。

もう、首筋につけた痕みたいに、痛くはしないんだ。

優しく、優しく。

私は壁と彼女の背中の隙間に手を忍ばせて、ブラのホックを外す。

隠れていた部分が露わになる。


彼女の脇腹に手を添えると、肌が冷えてきているのがわかって、慌てて彼女を寝かせる。

熱が冷めないように、すぐに肌に吸い付くと、彼女は腰を浮かせた。

2人で布団を被って、私は片手で自分のシャツのボタンを外していく。

全部外し終えて、彼女の胸に触れると、彼女が私の肩に手を伸ばした。

何かと思って顔をあげると、頬を赤らめながら、私のシャツを脱がしてくれる。

その姿が妙に艶めかしくて、心臓の音がバクバクと鳴り始める。

眠かったはずの頭は冴えて、私はまた彼女の肌に口付けた。

彼女の手はゆっくりと動いて、たまに体が反応しながらも、シャツの袖を私の腕から抜き取った。

シャツが脱がされて、肌の露出が多くなる。

彼女の体温がより感じられるようになって、鳥肌が立った。


片手は彼女の形を確かめるように耳、頬、首、腕、脇腹をなぞる。

もう片方の手は彼女のぬくもりを我が物にしようと、乳房を揉む。

彼女の息が荒くなって、私の髪を掴む。

…ああ、エロすぎるよ。穂。

だからつい、彼女にご褒美をあげる。

彼女の唇に唇を重ねて、両手を乳房に預ける。

舌をねじ込ませて、彼女の舌の裏に潜り込む。

口を塞がれた彼女は、必死に鼻で呼吸する。

彼女の声が漏れ出て、それが脳みそに響く。

私の下腹部が反応する。

胸と口内に刺激を与え続ける。

私の髪を掴む彼女の指の力が強くなる。

…もう少し。

髪が抜けるんじゃないかと思うほどに、一瞬頭皮に痛みを感じた。

すぐに痛みは消えて、彼女の手が離れていく。


私と穂の唇には橋が架かって、距離を取ると、それはプツリと切れて落ちた。

落ちた唾液を、穂が唇を舐めてすくい取る。

「穂、可愛い」

彼女の頭を撫でる。

息を切らして私を見る姿もそそられて、私も自分の唇を舐めた。

私は彼女からのプレゼントを汚さないように、丁寧に脱いでベッドの隅に置いた。

邪魔になると思って、眼鏡も取って、ヘッドボードに置かせてもらう。

穂の太もも辺りに座ると、リネン生地のパンツの布ざわりが良くて、そのまま座ってていいのかが躊躇われた。

だから膝立ちになって、だらんと力が抜けている彼女の手を取った。

彼女の手を自分の大事なところに持っていく。

すぐに目が合って、赤面する彼女にニヤリと笑う。


私は彼女に覆い被さって、また吐息が混ざり合うように口付けを交わした。

空気を吸い込みたくて、唇を離そうとする。

けど、彼女のあいた手がそれを許さない。

うなじを掴まれて、私達の息が混ざり合う。

…反則だろ。

背中を反った私は彼女の上に倒れ込んだ。


***


「いいなあ、永那ちゃん」

彼女の胸で休んでいたら、そんな言葉が頭上から降ってきた。

見下ろされるように見られて、背筋がゾクリとする。

上目遣いに見られながら、穂は自分の指をしゃぶる。

「私も、されたい」

指をしゃぶって上目遣いなんて、そんな恐ろしいこと、どこで学んだの!?それともナチュラルなの!?

…はぁ…可愛い…エロい…好き。

「永那ちゃんだけ、ずるい」

指をチュパッと口から出して、唇を尖らせた。


あまりの可愛さに何も言葉が出てこない。

「永那ちゃん…?」

「…っあ、ごめん」

彼女が不安そうな顔を浮かべる。

「…引いた?こういうのは、嫌?」

私は首を横にぶんぶん振る。

「ごめん、違うよ。…好き。めっちゃ、好き」

「本当?」

「うん。可愛すぎて、言葉が見つからなかった」

穂はキョトンとしてから、嬉しそうに笑った。

私は彼女を抱きしめる。

「好きだよ、穂」

「私も。永那ちゃんが好き」

「生理終わったら、いっぱいシようね」

ンフフと照れくさそうに笑って、私の肩で頷く。


彼女にブラをつけてあげる。

ついでにふにふに触ったら「だめ」と叱られた。

「ほら、ちゃんと位置を調整しないとさ?」

なんてふざけたら、膨れっ面になったまま黙るから、やっぱり私はふにふに触る。

少しの間そうしていたら「ねえ、絶対違うよね?」と言われた。

私の言葉を愚直に信じる彼女が愛おしい。

私が手を離すと、そそくさと服を着た。

「穂」

「なに?」

「その服、めっちゃエロいね」

彼女が目を細める。

「そんな目で見てたの?」

「だめ?」

「だめじゃ…ないけど」

「けど?」

「永那ちゃんって、ずっとエッチなこと考えてるの?」

真面目な顔をして聞かれた。

「ずっとでは、ない、はず」

ジトーッと見られて、彼女は髪を結び直す。

…手を上げたときの、脇の辺りから二の腕にかけてが、めっちゃエロい。うへへへ。舐めたい。

視線を感じて、ハッとする。彼女に冷たい視線を送られていた。

逆に、この切り替えの早さはどうなの?

私は全然切り替えられないんだけど…。


穂が立ち上がる。

「もうこんな時間になっちゃったね」

時計を見ると、11時半を過ぎていた。

「お昼ご飯さ」

「うん?」

「昨日の残り物でもいいかな?」

穂が少し恥ずかしそうに笑う。

「うん!めっちゃ楽しみ!」

「え?そうなの?…ちょっと手抜きかなあ?って思ったけど」

「全然!むしろ、昨日穂達が食べた物を食べられるなんて、幸せだよ」

本当にそう思う。

だってそれって、本当に、家族みたいじゃん。

「そっか。なら、よかった。…少し早めに食べて、永那ちゃんは寝たほうがいいよ?わかった?」

叱るような口調が、私を大切にしてくれてることを表しているかのようで、嬉しくなる。

私は頷いて、立ち上がった。


手際よく、穂がテーブルにご飯を並べてくれる。

…ああ、そんな姿も、なんかエロい。

机に頬杖をついて、彼女を眺める。

我ながら脳みそ壊れてるな、と思うけど、ふうにされちゃったら、彼女の指も、仕草も、瞳すらも、全部エロく感じる。

仕方ないよね?…ね?

「永那ちゃん?…何考えてるの?」

私は慌てて手から顔を離す。

「な、なにも!ご飯楽しみだなって!」

ジーッと睨まれる。

「鼻の下、伸びてたよ」

そう言って、電子レンジを開けた。

ピッピッと電子音が鳴って、ブーンと動き出す。

私は自分の口元をさすった。

…そんな伸びてたかなあ?


良い香りが鼻を通る。

「おいしそう」

「チャプチェ、豆腐とネギの味噌汁、キャベツのナムル…と、ご飯かな」

穂が順番に指さして説明してくれる。

「チャプチェってなに?」

「春雨を炒めたもののことを言うのかな…?今回は豚肉、人参、ピーマン、玉ねぎが入ってるよ」

「す、すげー」

見たことも聞いたことも食べたこともない料理。

「全部穂が作ったの?」

「ナムルは誉が作ったよ。張り切ってたからね」

そこで、私が千陽のことを言ったのを思い出す。

「食べていい?」

「うん」

私はチャプチェとやらを口に運ぶ。

「ん!…うまっ!」

なんか、よくわかんないけどおいしい!

春雨なんてほとんど食べたことない…給食で出たことがあったかな?とにかく、記憶にないくらい食べたことのないものだ。

でもこの春雨に味が染みててすごいおいしい。

「よかった」

次に誉が作ったという、ナムルを食べる。

「うまーっ」

サッパリしてて、チャプチェの味の濃さを中和させるような感じ?

私はご飯の上にチャプチェを乗せて、パクパク食べる。

…なんか、チャプチェって、チャプチャプって感じで、ちょっとエロい?…え?そんなことない?

「永那ちゃん、ゆっくり食べて。つまらせるよ」

「あい」

意識的にゆっくり食べてみる。

でも面倒になって、すぐいつも通りになる。

穂は呆れたように笑うけど、なんか幸せだ。

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