第23話 初めて

ワンピースを避けるようにして、左の二の腕を甘噛みされる。

味わうように唇で何度も挟んで、チロチロと舌が這う。

くすぐったくて身動ぐと、両手首を掴んでいる手の力が強まる。

肘のほうまで移動して、脇まで戻っていく。

ワンピースの袖はまるで私を守る気がないみたいに捲れて、脇を舐められる。

匂いをスンスンと嗅がれながら、動物にされるみたいに、執拗に舐められた。

「永那ちゃん…」

必死に声を出すけど、彼女は止まらない。

右腕に移って、同じように舐められる。

熱があるみたいに全身が火照る。

「永那ちゃん、汚いよ」

もう外は既に夏日のような気温で、駅まで歩いただけで少し汗ばんだ。

「美味しいよ?」

彼女の唇が首元に戻ってきて、何度も噛まれる。

優しく、何度も、何度も。


ふいに彼女の手が私の胸の上に置かれる。

その分、私の手首に彼女の体重がかかる。

びっくりして、目を見開く。

「穂」

彼女が私の首から離れて、耳元で囁く。

「もう我慢できないんだけど、いいかな?」

「え?」

ハァ、ハァと息を切らしながら、私は状況の把握をしようとする。

「全部…全部、食べてもいい?」

ゾワリと鳥肌が立って、心臓が飛び出そうなほどに音を立てている。

「ねえ、穂?」

彼女の潤んだ瞳と目が合う。

レースのカーテンから洩れる太陽光に照らされて、彼女の髪がキラキラしている。

「だめ?」

私はゴクリと唾を飲む。

私はなんて答えればいいかわからず、ただ彼女を見つめることしかできない。

次第に彼女の瞳に不安の色が滲んでいく。


そんな顔、しないで。


「お仕置き」

「え?」

「お仕置き、するんでしょう?」

彼女の瞳が大きく開かれて、歯を見せて笑う。

「する!」

「…優しく、してよ」

「ハァ」と深く息を吐いて、彼女が私の肩に顔をうずめる。

「穂、好き。…大好き」

彼女の頭がどんどん下がっていき、胸で止まる。

服越しなのに、彼女のあたたかい息を肌に感じる。

手首が解放されても、私の両手は力が入らず、バンザイをした形で放置される。

自分の胸が、目一杯空気を肺に送り込むように上下する。

彼女の手が膝に触れた。

そのまま、まるで舐められているような感覚で撫でられ、太ももを揉まれる。

お腹の辺りまで手が伸びて、ワンピースが捲れる。

絶対ショーツまで見えてる…。

恥ずかしさが増して、右腕で目を覆う。


胸のあたたかみが消えて、少し寒さを感じる。

「穂、可愛い」

腕のすき間から覗くと、片膝をベッドについて、優しく微笑む彼女がいた。

同時に、自分のへそとショーツが視界に入る。

また腕で目を隠した。


急に、体が浮く。

驚いて腕を取ると、既に体が90度回転した後で、気づけばいつも通りの寝る姿勢でベッドに寝転んでいる。

ワンピースがみぞおちまで捲られている。

体が浮いた隙に、彼女に捲られたのだとわかる。

彼女の頭が目の前にある。

臍から胸元まで舌を這わせ、彼女は私を上目遣いに見た。

くすぐったさと、恥ずかしさで、私は顔をそらす。


何度か肌を吸われて、ほんの少しの痛みを感じる。

吸われては舐められ、吸われては舐められる。

忍び込むように舌先が臍に触れる。

触れられているのはお腹の中心だけなのに、全身がこそばゆい。

今触れられたら、どこだったとしても、ピクリと体が反応してしまいそう。

そう思っていたら、彼女のあたたかい手が、胸に触れた。

本当に体がピクリと動く。

濡れた臍が、エアコンの風に当たってヒンヤリする。

「穂のブラ、可愛いね」

伸縮性のないワンピースを手で少し押し上げて、彼女は覗き込んでいる。

「ショーツとお揃い」

「…言わなくていい」

彼女がフッと笑う。

「ねえ、穂もするって、期待してた?」

そりゃあ、全く期待していなかったと言えば嘘になる。

でも本当に勉強をするつもりだったのも事実で、こんな早い展開になるとは思いもしなかった。

だから「…してない」と小さく答える。

「ふーん」

彼女は素っ気なく相槌を打って、私の上半身を起こす。


艶のある唇が弓なりになって、私を見下ろすような視線と視線が交わる。

「手、上げて」

言われた通りにすると、スルリと服を脱がされた。

「…っ!」

その慣れた手つきと、自分が下着姿であることから逃げたくて、目を瞑る。

ブラから覗く乳房の膨らみに、彼女がキスをして、押されるように倒れ込む。

「やわらかい…あったかい…」

吸い付かれ、チュパッと音を立てて離れる。

舌が力強く私の肌を押して、ブラの中に入ってくる。

「可愛い」

彼女がニヤリと笑う。


***


彼女がベッドと背中の間に手を忍び込ませて、ブラのホックを取った。

「待って…!」

言っても時既に遅く、私の胸が露わになる。

一瞬でも目を開けてしまったことに後悔して、瞼に力を込める。

「ハァ」と永那ちゃんが深く息を吐く。

そのあたたかい息が胸にかかる。

両手で包み込むように触れられる。

微かに彼女の膝が当たる太ももの付け根がジンジンと熱をおび始める。

もどかしくて、太ももに力が入る。

思わず、息が溢れる。

乳房を優しく揉まれながら、じっくりと味わうように肌を舐められ続ける。

痛みにも似た感覚、ずっと求めていた場所に与えられた刺激で、体が大きく仰け反る。

聞いたこともないような声が自分から発せられる。

それがまた羞恥心を生んで、全身から熱が放出される。

汗が滲み出て、エアコンの風が強く感じられた。


彼女のぬくもりが消えた。

でもまだ触れられているかのような感覚が残る。

お腹の辺りにモソモソと何かが当たったから、薄く目を開く。

彼女が起き上がって、目が合う。

ニヤリと笑みを浮かべて、彼女は自分のTシャツを脱いだ。

控えめな胸の膨らみ。

線の細い体。

私の手を取って、永那ちゃんは自分の胸に当てた。

心臓の音がドクドクとうるさく鳴る。

永那ちゃんの心臓も、激しく脈を打っているのがすぐにわかった。

私の息はどんどん荒くなるばかりで、そのうち過呼吸になりそうなほどだった。

私はベッドに肘をついて少し起き上がる。

永那ちゃんが潤んだ瞳をこちらに向けた。


2人で上半身を起こして、座る。

彼女の左膝は相変わらず、私の太ももの間を占領している。

自然と私の膝も彼女の太ももの間におさまっていて、足が交互になるように座っていた。

永那ちゃんが抱きしめてくれる。

私も手を背中に回して、彼女の肩に頬を乗せる。

彼女の肩が上下するたび、私の視界が揺れる。

「好き、穂」

「私も、永那ちゃんが好きだよ」

ギュッと強く抱きしめられる。

少し苦しい。

でも、お互いの肌が触れ合っているのが心地良い。


彼女が少し離れて、座ったまま私の胸に顔を近づけた。

彼女の髪がふわふわと肌に触れてくすぐったい。

私は永那ちゃんの頭を撫でた。

さっきは目を瞑っていて気づかなかったけど、全身に発疹ができていた。

さっき永那ちゃんにたくさん吸われたことを思い出して、一気に顔が火照る。


彼女がくびれの辺りをさすってから、ゆっくりと降下していく。

息をするのも忘れそうなくらい、頭が真っ白になって、恥ずかしくて、逃げ出したくなる。

私はギュッとベッドのシーツを握りしめる。

フッと彼女が笑う。

彼女の瞳が細くなり、私を試すような笑みを浮かべている。

私はそっと目を閉じる。

彼女の指先が私に触れて、足が痙攣するように震え始める。


***


彼女が私から離れる。

彼女に食べつくされて、ようやく深く呼吸ができた。

冷たい空気が全身を巡っていく。

彼女が私の顔を見て、フフッと笑う。

動けなくて目だけ彼女に向けると、頭をポンポンと撫でてくれた。

彼女が裸のまま立ち上がって、お茶を取る。

(私もほしい)

そう思っていたら、彼女が振り向く。

手を上げようと思うのに、思うように動かない。

彼女は私のそばに座って、ゴクゴクとお茶を飲んだ。

その様子を見つめていたら、急に振り向いて、唇を重ねられた。

液体が流れ込んでくる。

私はゴクゴクとそれを飲む。

「もっとほしい?」と聞かれて、小さく頷いた。

彼女はお茶を口に含んで、また私の中に流し込んでくれる。


コップのお茶が全部なくなる。

彼女が私のそばに寝転ぶ。

「“食べられた”感想はどうですか?」

彼女が優しく微笑む。

「…動けない」

「えぇっ?感想、それ?」

そう、楽しげに笑う。

「優等生として、委員長として…副生徒会長として、その感想はどうなんですかねえ?」

「うるさい」

いちいちそんなこと強調しなくていい。

学校のことを話題に出されて、一気に現実に引き戻される。

顔から火が噴きそうなくらい恥ずかしくなってくる。

体を隠そうと、敷かれていた布団に包まる。

でも永那ちゃんも寝てるから、上手く全身を隠せなかった。

「テストの成績は良いはずなんですけどねえ」

ツンツンとお腹を指でさされる。

…うぅ。期末テスト。

もう明後日からだよ?…こんなことしてて本当に良かったのかなあ?


壁に掛かっている時計を見ると、もう12時になろうとしていた。

…3時間も経ってる。

ちょうどお腹がグゥと鳴った。

永那ちゃんがお腹を抱えて笑い始めるけど、彼女のお腹も唸り声をあげた。

だから2人で笑った。


「ご飯の前にお風呂入る?」

私が聞くと、彼女が「いいの?」と目を輝かせた。

私は頷いて、体を起こす。

「永那ちゃん、先に入っていいよ」

「え?一緒に入るでしょ?」

「え!?…いや、それは」

永那ちゃんが不服そうに目を細める。

「一緒に入っても、何も問題ないでしょ?」

「えー…洗ってるところを見られたくないんだけど」

「なにそれ?」

もう全部見られたというのに、私は体を隠すように手で押さえた。

永那ちゃんにジトーっと見られる。

「お風呂、こっちだから」

そう言って立ち上がろうとした。

立ち上がろうとしたのだけれど、立ち上がった瞬間に世界がひっくり返って、気づけば永那ちゃんに抱きかかえられていた。


永那ちゃんはニヤリと笑いながら「そんな体で、どうやって1人で入るのかな?」と言った。

私の顔は思い出したかのように熱をおびた。

そのままお姫様だっこされる。

「ちょっ…永那ちゃん!?」

2人とも生まれたままの姿で、こんなに恥ずかしいお姫様だっこなんてこの世の中に存在するのだろうか?と両手で顔を隠した。

「穂、危ないから首に手を回して」

まともな注意に、渋々顔を晒す。

そのままリビングに出て、廊下に向かう。

扉が2つあって「どっち?」と聞かれたから「右」と答える。

彼女は肘で器用に扉を開けて、お風呂場の椅子に座らせてくれた。

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