第十話「開戦」②


  5〈姫沼沙希、九十九えなが一行〉


 蛇足は風を裂いて進んでいる。皆、その身体にしがみつくように伏せてその速度に耐えていた。急がなければ。おそらく天星は次々刺客を放ってくるだろう。

 消耗した状態で天星を相手には出来ない。なら少しでも早く。奴の元に辿り着く。真凛とシスターの二年生組が異能者の刺客の相手を引き受けてくれたが、また次の異能者もすぐ来るだろう。

 だが、奴はやっぱり準備万端で待ち構えていた。沙希の危機察知未来視がすぐ反応する。

「……マジか。あいつ、害悪すぎる……っ。みんな、軍勢が待ち構えてる。こっから先、満員電車みたいに操られた人がいっぱいいる」

 沙希は言う。見えた未来。この先、操られた遺体が犇めいている。区画を横断するように、細長く詰め込まれ、まるでこちらの行く手を阻む壁だ。いや、実際その通りなのだろう。つくづくあいつは人を、物としか見ていない。邪悪だ。この世界にとっては。

 隙間なく配置されているので迂回も出来ない。このままぶつかって破るしかなさそうだ。

「正面突破だな。了解」

「さっきの要領でいいわね。姫沼と九十九さんは移動と不測の事態察知に専念を。またここは私たち生徒会が引き受けるわ」

「先輩方、気を付けてください。さっきの大群とは数が桁違いです。物量で押してくる。私も未来介入を……」

 そこで沙希の未来の視界に入る、予想外の光景。……ああ、そうか。そんなことが起こるとは思っていなかったせいで意識の外側で捉えきれなかった。

 沙希はにやりと笑って、芳翠たちを振り向いた。

「思わぬ加勢がいるみたいです。あんまり苦戦せずに行けるかも」

「加勢? 助っ人? 私たち以外にここにいる異能者なんていなくない?」

「まあ何でもいいさ、蒼! 全員ぶっ飛ばして進むッ! 簡単なことだッ!」

 不思議そうに首をかしげる蒼に、朱里は両手の拳をぶつけて言った。遺体の軍勢の壁に、すぐ差し掛かる。

 銃声がいくつも轟いていた。そして歓声のような人の声がいくつも。それは遺体のものではなかった。

 遺体の群れと、戦っている人たちがいた。それは異能者たちではない。

 異能対策部隊の連中だ。銃を構え、遺体たちを相手にしている。それだけでなく、鉄パイプやスコップなどの武器を手にした一般人らしき姿も何人もいた。

 彼らは戦っている。そして近づく沙希たちの姿を確認すると、誰かが声を張り上げた。

「彼女らを通せ! 道を作るんだ! あの渦のところまで!」

 彼らは沙希たちを敵として見ていなかった。わかっていたのだ。天星を止めるために進んでいることを。必死に死者たちと戦って、沙希たちが通る道を作ろうとしてくれている。

「これは……」

 えながも、他の人たちも驚いていたが、すぐ状況を理解し進むことに頭を切り替えたようだ。

「エアススマッシャァアアアッッ!」

 朱里が腕を振るって空気を殴りつけ、ピンポイントで遺体たちを狙って転ばせる。

「腕立て伏せ、五十回」

 芳翠の言葉に死者たちがその場で腕立てを始める。思考攪乱をする対象を選んだようだ。

「操作を断ち払え」

 蒼の透明な膜が死者たちの操りを解いていく。だがそれも限界があるようで一つの塊しか効果がない。

 大勢残っている遺体の群れを、異能者ではない人達が相手に戦ってくれていた。必死に道を切り開こうとしている。

 ……あたしたちのために。

 人なんてどうせ。自分たちを化け物としか捉えていないかと思い込んでいた。違う。一辺倒に囚われていた。

 優しい人達だっている。異能部隊の中にも、あるいは自分たちを守るために暴走者と戦っていた人たちだっていたかもしれない。

 世界は、人は。自分が思っているより単純で、最悪じゃない。かもしれない。

「行けェ!!」

 誰かが叫ぶ。道が開けた。蛇足が飛ぶ。遺体たちから撃ち込まれた弾丸は、日南の氷の壁が阻み、アズマが狙撃手たちを浮かせ無力化させる。

「九十九ッ! 頑張れよ!!」

 ふと聞こえた、えながを呼ぶ声。彼女は、はっと振り向いた。

 死者たちと戦う人の中に、こちらを見て手を振る男性がいた。えながはすぐそれが誰か気づいたみたいだ。ぐっと、親指を立てて合図を送る。

「えなが、今のって」

「あぁ、北海道にいたときの担任じゃ。……ほんと、こんな時までお節介な人じゃのう」

 白浜という彼女の先生だった男性だ。死者の軍勢相手に大丈夫かと思ったが、彼は他の一般人どころか対策部隊よりも好戦的に立ち回っていた。得物は両手持ちの金属バットと、対策部隊から借りたらしい拳銃だった。大丈夫そうだ、という安心感があった。

 おそらく学校を辞めてから、ずっと鍛錬していたのだろう。こんな日のために。おそらくは、少しでもえながの力になれるように。

 改めて自分たちは、孤独で戦っているわけではないと思い知る。えながの手を強く握る。彼女も同じようにしてくれた。

 進む。天星を止めてやる。自分たちのため以外にも今、理由が出来た。

 人々に助けられて、死者たちの群れの壁を突破する。このまま行ける。スクランブル交差点はもうすぐだ。

 急に。未来視が断ち切られた。異能者。相性の悪い。すぐ沙希には察しがついた。

「日南ちゃん! 喜多美ちゃんが……!」

 突如襲い来る炎の演舞。頭上。サウナのような熱波が迫っていた。

「ッ……!」

 日南が氷の壁で熱を阻む。氷は瞬く間に溶かされるが、炎の勢いは弱まっていた。

 アズマが周囲の空気を水中にする。炎が鎮火した。そしてアズマは、日南を抱きかかえて空中へと泳ぎ舞う。

「お姉ちゃんたち! 先に行って! 私たちは喜多美ちゃんと、お話しするから!」

「日南ちゃん! アズマちゃん!」

「大丈夫、ます。私たち、とっても強いから。負けない」

 日南とアズマが残る。沙希が後ろに目をやると、彼女たちは両手から出した炎で空中に留まる喜多美と対峙していた。ここは任せるしかない。彼女たちに。大丈夫だ、彼女たちなら。きっと喜多美ちゃんの洗脳を解けるだろう。

 もうスクランブル交差点は、目前だ。


  6〈満島日南、半沢アズマ〉


「喜多美ちゃん……」

 アズマに抱きかかえられながら、手から出した炎で浮き上がっている喜多美と日南は対面する。

 喜多美は、彼女は険しい顔でじっと日南たちを睨んでいる。だが彼女は、微かに迷っていた。わかる。だってずっと一緒にいたのだから。彼女は、親友だ。

「日南ちゃん。まだあいつらに操られてるの。目を覚まして。私と一緒に、行こうよ」

「違う。天星に操られてるのはあなた。あなたが私たちと一緒に来るべき」

「お前に言ってないッ!」

 アズマの言葉に叫んだ喜多美は掌から炎の弾を打ち出してくる。

 それを日南は、ずっと分厚い氷の塊で防ぐ。溶けたそれが、炎を完全に打ち消してくれる。

「……喜多美ちゃん。アズマの言う通りだよ。天星は、喜多美ちゃんのことを騙してる。一緒に行こうよ。……あいつを、止めなきゃ」

「日南ちゃんこそッ! 騙されてるッ! 私のお父さんとお母さんは、銃を持った人達に殺されたんだよ!? 私の目の前で! 許せない! 許せるわけないよ! 皆殺しでしょッ! 天星様がみんな殺してくれる!」

 日南は言葉を失う。彼女の両親とは面識もあった。彼女の家に何度も遊びに行った。優しいお父さんと、お母さんだった。

 日南は手を握り込む。震えるほど。彼女の怒りが、そして行き場のない悲しみと絶望が伝わってくるような気がした。

 でもきっと足りない。彼女はもっと辛かったはずだ。もっとひとりぼっちだったはずだ。

 ――そこに、天星が付け込んだ。髪の毛が逆立つような新たな怒りが、日南の中で燃え上がる。

「……喜多美ちゃん。辛かったよね。ずっと寂しかったよね。私達が、いるから。もうひとりぼっちじゃないよ。天星は、やっぱり喜多美ちゃんを騙してる。お願い、喜多美ちゃん。私達と、一緒に来て」

「うそ、うそうそ嘘だッ! 日南ちゃん騙されてる! 私が日南ちゃんを助けるんだッ!」

 頭を両手で抱えた彼女が叫ぶ。彼女の周りに、まるで火を含んだ竜巻のように炎が大きな渦を巻いた。

 アズマがすかさずその範囲から素早く泳いで抜け出す。髪の先が焼けてしまいそうなほどの熱気だった。日南の氷は彼女の熱の前には一瞬で溶かされてしまうかもしれない。

 それでも。

「アズマ。喜多美ちゃんは混乱してる。きっと話を聞いてくれるはず。私達が、諦めなければ。……協力してくれる?」

「最初から、そのつもり。あの子、助けて欲しいんだと、思う」

 アズマが真剣な眼差しで頷いてくれる。「ありがとう」日南も頷き返した。

 喜多美の周りにはまだ炎が渦巻いている。あの熱にも負けない冷気を。今、この場で。絶対に作り出してみせる。

「……喜多美ちゃん。今助けてあげるから」

 きゅっと眦を絞って。日南はアズマと、喜多美に向き合った。


  7〈姫沼沙希、九十九えなが〉


 交差点が近い。もうすぐだ。沙希にはもう、自分たちがあの渦の中に辿り着いているビジョンが見えていた。

「みんな、天星のゲートに着く。まだ気を抜かないで。おそらくあそこの中で、あいつは待ち構えている」

 蛇足の一番前にいるえなが、後ろにいる七竈。そして三年生である芳翠、蒼、朱里が頷いてくれる。

 二年生の真凛とシスター、そして日南とアズマは無事だろうか。心配だった。彼女たちのためにも、早く決着をつける。

 天星が何を用意しているかわからない。沙希にも見渡せないだけに不安が募る。あいつはこちらを叩きのめそうとしているのではないか。圧倒的な力で。……上等だ。返り討ちにしてやるよ、待ってろクソったれ。

「見えた!」

 えながが叫ぶ。スクランブル交差点。青い巨大な渦が巻くゲートが大きく口を開いている。わざわざ、蛇足が通り抜けられるようにだろう。完全に歓迎ムードだ。舐めやがって。突き進む。

「ッ……⁉ みんな、何か来る!」

 不意に、未来視が断ち切られた。まるで待ち構えていたかのように。罠だ。だが進む以上の選択肢はない。渦はもう目の前だ。

 皆が構えていた。沙希も警戒を解かない。

 ふと視界を過った、人影。二つ。誰かがこちらに向かって飛び掛かってきていた。異能者だ。おそらく天星側の。

「上ッ!」

 沙希は叫ぶ。まるでマジシャンのような派手な格好をした二人組の少女。彼女たちは両手をこちらに構えていた。異能を使う気だ。

「私たちが。天星は頼んだわよ、頼れる後輩と、七竈先生」

 芳翠たち三人が飛び立ち、二人組の前に立ちはだかった。

 一瞬蜃気楼のように彼女たちの周りの空間が歪んだ。かと思えば、芳翠たちの姿が忽然と消えた。あの二人組もだ。瞬間移動型の異能か、それとも作り出した異空間に呑み込むタイプか。

「心配すんな姫沼、九十九。あいつらは強い。私達も、備えるぞ。天星が待ち構えている」

 後ろにいる七竈が、沙希の肩に手をやって言ってくれる。沙希も強く頷いた。信じよう、みんなを。そして応えよう。彼女たちの信頼に。

「入るぞ」

 えながが言う。沙希は彼女の手を強く握る。蛇足が、青く渦巻くホールの中に飛び込んでいく。

 周りの景色が、滲み、歪み、やがて青さに満ちていく。

 どこへ行くのかわからない。万全の状態で待ち構えているかもしれない。明らかな罠なのだから。

 上等だ。何でも掛かってこい。万全なのは、お前だけじゃない。沙希は唇を引き締めて景色が像を結ぶのを待った。


  8〈青鷺芳翠、高坂蒼、鎌足朱里〉


 一瞬歪んだ周りの光景が、闇に飲まれた。真っ暗だ。自分の指先さえ見えないほどに。

「蒼、朱里。いるかしら」

 芳翠は呼びかける。静まり返った空間に、返事があった。

「いるよ。どっかに飛ばされたみたいだね」

「異空間っぽいぞ! そういう異能か!? 閉じ込められたかもなッ!」

「朱里、うるさい。敵に位置教えてどうすんの。めっちゃ反響してるし」

 蒼と朱里の返事があった。声の調子、発音の癖。芳翠の耳は聴き分ける。間違いなく彼女たちだった。

 ただ少し籠ったように聴こえている。まるで薄い壁で隔てられているような。蒼と朱里が向こう側。芳翠だけがこちら側にいるようだ。そして距離が僅かに離れていて、少し上の方から聴こえてきている。

 そしてこの反響具合は、体育館ぐらいの閉鎖的な空間か。だが異能の匂いがする。異能で作られた異空間の可能性が高い。つまり、何が起こっても不思議じゃなかった。次の瞬間には天地がひっくり返っているかもしれない。びっくりハウスみたいに。それはそれで楽しそうと思いつつ、芳翠は構えて警戒する。

 不意に照明が付いた。芳翠に焦点を当てた頭上からのスポットライト。

「ようこそいらっしゃいました。新たなチャレンジャーの入場です」

 その場に響き渡るマイクを通したような声と、機械的な歓声。

 そこで一斉に周りを照明が灯って露わにした。芳翠が立つ場所を中心に、円状にぐるりと少し高い場所、階段状に観客席が囲んでいる。手を叩いている人の姿が複数見えるが、透けている。おそらくホログラムのようなもの、偽物だ。まるでコロシアムだった。

 芳翠のいる円の中は広かった。一般的な体育館くらいだろうか。円は、結界によって半円に分けられていた。

 芳翠と隔てられた半円の向こう側に、蒼と朱里がいた。彼女たちも芳翠の姿を確認して安堵しつつも、構えは解かない。

 明らかに異質な空間。やはり、異能で作り出したものに囚われたらしい。円状のその場の床にも線上に照明が走り、観客席などの装飾もどこか近未来的な無骨なデザイン。天井は、スタジオのような鉄骨で吊るされた照明器具が剥き出しになっていた。

 いや、スタジオのような、ではない。芳翠はこの光景に既視感を覚えていた。これは。そして、さっきのアナウンスは。

「それでは回答者はこちらへ。お越しください」

 声がした。見る。

 立っているのは、マジシャンのような派手な格好をした少女だった。頬に星のマークがあり、ピエロのような帽子をかぶっている。着ているものも赤と青をランダムにちりばめたような服と、ふんわり広がったミニスカート。

 彼女は空虚な客席に向かってお辞儀をすると、後ろにあった椅子に腰を下ろした。その向かい側に、もう一つ椅子がある。彼女の手はそこに座るよう、芳翠を促していた。

 椅子と椅子の間に、二つ。対面した大きなモニターが用意されていた。

 ぞくり。完全に理解した。芳翠は歩み出すと、迷うことなく彼女と対面の椅子に座る。

「これは、クイズショーね? とても粋なこの空間を構築したのは、あなたかしら」

「その通り。司会進行を務めます、荒犬理央(あらいぬ りお)と申します。そして」

「助手を務めさせていただきます、荒犬音亜(あらいぬ ねあ)と申します」

 声。半円の結界の向こう側、蒼と朱里の頭上に、少女が現れていた。浮かび上がっている。

 同じくマジシャン風の恰好で、頬には月のマークが刻まれている。風貌が二人は似通っていた。肉親か。おそらく異能のパートナー同士だ。

 芳翠と対面の椅子に座る理央と名乗った少女が言う。

「ではルールを説明させていただきます。これからあなたには、十問。問題に答えていただきます。問題の内容は進行するほど、難易度が上がっていく形式になっております」

「もちろん、四択の中から選ぶのよね。そして、私は観客から回答予想の集計の結果を知る権利、この場以外の誰かに通話を掛けて答えを聞く権利、四択を二択にする権利があるのでしょう?」

「まさしく。ただし一度でもあなたが回答を誤れば、あなた方三人には死んでいただくことになります」

 蒼と朱里の方に異変。彼女たちの前に浮き上がっている音亜という少女の周りに、絵の具をぶちまけられたようにカラフルな化け物たちが現れた。ゴリラのように筋骨隆々の身体を持つもの、武器を持つもの、銃火器を携えたもの。共通なのは、どれも頭の部分がブラウン管のモニターになっていた。砂嵐が走っている。

「更に、独自のルールとして時間制限を設けます。あなたのパートナーである二人が、音亜の召喚する使い魔に殺されるまで。両方が脱落した時点で失格となり、回答権は失われその場合もデッドラインといたします。ルールは絶対。異論は認めません」

 理央が言う。つまり。

 芳翠は彼女の出すクイズに答える。そして蒼と朱里が音亜の出す使い魔と戦い続ける。芳翠が答えを誤れば即死。蒼と朱里が戦いで力尽きたらゲームオーバー。

 笑い声。芳翠は内側から込み上げた愉快を、隠し切れずに肩を震わせた。

 同時に、蒼と朱里も心底可笑しそうに身体を揺すっている。

「……何かおかしなことでも?」

 理央が不快そうに顔を歪めて、初めて人間らしい表情を見せた。

「いやいや。こいつのこと知らないの? 酔狂なクイズマニア。っていうか、イカれたクイズカルト狂だよ。古今東西の知識ほとんど詰め込んで、ちょっとしたなぞなぞから高度なクイズまで網羅し尽くすくらいヤバイ奴」

「クイズ番組の問題の傾向まで全部把握して、出題される前から片っ端に答えて相手だった東大生たちにも一切回答権を譲らなかったとんでもっぷりだぞ! ちなみに放送事故すぎて全てのテレビ局から出禁を喰らっている! 私ですらドン引きするクイズオタクだ!」

「鬼に金棒、釈迦に説法、横綱と相撲取り。私と同じフィールドで戦おうとするなんて。命知らずにも、程があるわね」

 蒼と朱里の言葉に、芳翠もにやつく。ちなみにクイズ研究会の全国大会からも出禁を受けていた。

「……もちろん、存じ上げています。青鷺芳翠。あなたはあまりに、型破りなクイズクレイジー」

 ──故に、クイズマニアの風上にも置けない。口にした理央の眼差しに、鋭い怒りが見えた。

「クイズとは、皆で楽しむもの。回答者同士の読み合い、悩んだ末に切り開く活路、そして脱落していく敗北。そんな競い合い、手に汗握るスリルと昂奮こそがクイズの醍醐味。それを独り占めするあなたを私は一度拝んで──クイズと言う土俵で、打ち負かしてやりたくなったのです」

 理央が怒りを押し殺したような声で告げる。どうやら彼女と面識があるようだ。まったく覚えていない。クイズ番組の予選か、もしくは大会の参加者だったか。どっちにしろこちらのし歯牙にもかけない相手だったのだろう。

 芳翠は完全に、彼女を舐めていた。

「……その傲った表情。とてつもなく不愉快でございます。今からその綺麗な顔が絶望で歪む瞬間が楽しみにさせていただきますね」

「御託と強がりは結構。始めるなら、さっさと始めましょう。──私を、あまり失望させないでね?」

「ねえ、こっちもさ。音亜って子の異能が尽きるまで叩きのめしたらそれで勝ちってことでいい? 不毛な戦いは正直ごめんなんだよね。疲れるから」

「芳翠の即答に負けないくらい、私たちも張り切るぞ! 戦いだ! 血沸く血沸く!」

 蒼と朱里も臨戦状態だった。音亜の方も不快そうに顔を歪めて、使い魔たちを解き放った。

「では、始めましょう。第一問──」

 芳翠は足を組んで頬杖をついて。モニターに映った問題文と四択に注視した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る