閑話幕間その7『透明なカラスの実』①

異能に咲いた私たち 閑話幕間その8『透明なカラスの実』


  1


「……何か。こういう時間は久しぶりだな。二人きりっていうのも、どれくらい振りだろうなぁ」

「三か月と少し、かな。最近はみんな生徒たちが強いから。私たちの出動なんてほとんどないからね。その他雑務は大人の仕事だけど……ちょっと複雑。その分生徒たちを危険に晒しちゃうもの」

「自分たちの身も、他人の身柄も。守れるくらい強くなったって素直に喜んでいいんじゃないか。少なくとも私ら世代よりずっと強いよ、うちの生徒は。──で、聞いていいか。透子。今これ、どういう状況?」

 七竈は透子と一緒に、教員の寮棟にいる。ここも異能学園東京校の敷地内にあり、生徒たちの寮ほど広くもないし年期も入っている1Kの部屋だが、透子と二人しか入居者がいないので楽だ。三階建てを二人占め。ただし、籠の鳥なのは変わりない。七竈たちも異能者なので、外出許可がいるし出張の際は監視も付けられる。学生時代と、まったく同じ状況。

 そして今は、七竈の1Kの部屋。セミダブルのベッドに七竈は押し倒されて、覆いかぶさった透子にジャージのジッパーを外されている真っ最中。

 腕には、手錠。手首を傷つけない柔らかい素材。でもしっかり両手の自由は奪われている。

 もちろん、やったのは透子だ。

「こういうの、久々だし。異能共鳴も、すれ違い様のキスくらいだったでしょ。戦わないからそれくらいで済んだもんね。――だから今夜は、とことん楽しもうと思って」

「いや、おい。私の意志は無視? 体力に自信あるけど、これ絶対朝までコースだろ。お前天星が来る前に私を殺す気か?」

「せいぜい死なない程度に頑張ってね、七竈先生?」

 ジャージのジッパーを下ろしきって、中のインナーシャツを下から捲り上げながら。透子は笑う。

 久々に見た。完全にスイッチが入った、捕食者の微笑み。生徒が見たらたぶんみんなビビって近づかなくなる。

(……だから、私がおかしいんだろうな。めっちゃ、ムラっとした)

 性欲が、笑みを差し向けられて七竈の中で首をもたげる。濡れまではしないけれど、もう足のあわいと胸の先の器官が、期待で疼いた。

 早く彼女の指で、舌で、体温で。どろっどろに溶け出されたい。ムラムラムラ。身体の中がじわじわ彼女の熱で、火照らされていく。

「……もう期待してる? そんな顔、生徒たちの前じゃ見せられないね、七竈先生」

 そっと七竈の頬を撫でて、額を撫でて。耳の形を、官能的に撫でまわす。彼女の指遣いは、ずっといやらしくて最高に気持ちいい。

 それからおんなじところに、唇があてがわれる。キス音、唇の感触。耳の穴に、舌が入り込んできた。

「んあぁ……っ、あうっ」

「んふふ。あう、だって。もう感じてる? まだ前戯ですらないんだけど?」

「息吹きかけながら煽ってるの、わざとだろ……っ。何でこういう時は性格悪いんだよ……っ」

「可愛い誰かさんのおかげかな。反応がいちいちすごく素敵だから?」

「褒め殺しどうも。全然嬉しくないぞ」

「その割には耳まで赤いね。……気づいてる? これ褒めてるんじゃなくて、言葉責め」

「お前もう国語教えんなよ。生徒に悪影響与える気か?」

 透子の両手が、七竈の頬を再び包み込む。愛おしげな触れ方。うっとりと七竈は目を細める。

「で、キスか。お前にしちゃ平凡なスタートだな」

「強がっちゃって。自分の今の顔、スマホで撮って見せてあげようか」

「そういうプレイは趣味じゃな……んぐっ……⁉」

 ぶっちゅ、と唇を塞がれた。塞ぐなんてレベルじゃない。喰らわれた。上唇、下唇。まるでグミでも味わうみたいにふにふにともてあそばれて。舌で溶かすように転がされて。すぐ口元は唾液でべとべとになる。

「はっ、ちょっおま……私は食べ物じゃ……むぐっ!」

 口を開いたら、舌を突っ込まれた。口腔を、なぞりまわされる。無防備な粘膜に感じる彼女の舌が、七竈を昂らせる。

「んっ……ふっ……もっふぉ……もっとぉ……」

 何て甘い声だ。おい、今の私か? もうわからない。

 手錠を嵌められた腕を彼女の首の後ろに回して引き寄せている。自ら彼女を求めている。舌を絡ませてねだる。彼女の舌に絡めとられてもうめちゃくちゃになる。

 水音水音水音。それと彼女の舌に転がされるのが全部になる。息とかいらない。彼女からもらう。吞み切れない唾液が唇の端から滴った。彼女の指が、すかさずそれを拭い去る。

 何十分続いた? わかんない。時間なんて計る余裕もなく、透子からようやく解放された七竈は息を乱して惚けている。

 酸欠でハイになったのか、ぼうっとする。気持ちいい。でも身体が熱いのは、絶対別の理由。燃える。早く宥めてほしくて、仕方ない。

 七竈の上に馬乗りになった透子が、自分の濡れた口元を手の甲で拭って、笑った。

「顔、やっば。犯すね?」

「ま、待て、まだ私、シャワー浴びてな……っ」

 うるさいと言わんばかりに、透子は七竈の首に噛みついてくる。汗の気配を味わうみたいに、舌が肌を這う。

 そして七竈のインナーのシャツが、完全に捲り上げられた。ブラが露わになる。赤。刺繍とレースのめっちゃ高いやつ。お気に入りの勝負下着。

「あれ、シャワー浴びてないんでしょ? いい下着。……期待してたんじゃん」

「うっせ、ぶっ殺すぞお前」

「ぶっ殺される前にぶっ犯すね?」

 透子が笑う。こいつ、やっぱ教師向いてねぇ。剥き出しの腰のラインに這い始めた彼女の手の感触に震えながら、七竈は思う。

 

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