第四話「激動」①


〈七月十一日。姫沼沙希、九十九えなが。両名。

 京都府京都市にて。特殊異能適合者、通常『天星』と接触。

 

 戦闘に突入。両名、生死不明。

 情報収集に尽力せよ。〉



  1


「ねえ、九十九。あんた新幹線って初めて?」

「初めてじゃ。遠出なんか許されるわけないじゃろ姫沼。今だって似たようなもんじゃ」

「だよねぇ。……はぁ。あたし、初めてで。新幹線って乗ったらわくわくした気分になると思ったんだけどなぁ」

 沙希は隣の座席に座るえながと話しながら、大きくため息をつく。

 沙希たちが乗っている新幹線の車両は、貸し切りになっていてガラガラだ。

 ただ沙希たち二人きりではないのは、監視員が複数離れた席に何人か付いているからだった。かなり前、電車内で異能発症者が出て脱線する大事故が起きてから、神経質になってるらしい。こんなムードじゃ、旅行気分なんて味わえるわけない。

「とりあえず駅弁、開けよっか。えっ、なにこれすごい。お肉ぎっしりだこれ」

「私のは、イクラが乗っとる。久々じゃな、こういうのは」

 東京駅で買ったそれぞれの駅弁を、座席についたテーブルで広げて各々感動した。

 いただきますして、実食。美味しい、けども。やっぱり素直に楽しめなくて、また沙希とえながは深くため息をついた。

 沙希たちが向かう先は、京都。だが当然旅行ではない。

 異能学園は京都にもある。そこから、援護要請が沙希たちに下ったのだった。

 指令内容は、護衛。もとい見守り、そして見送り、だ。

 異能学園京都校。その一年生の一人に、異物化の傾向が見られた。確実に進行していて、もう後がないという。

 その一年生が、明日安楽死させられる。沙希たちと同じ、十五歳の少女が。

 沙希たちはもしもの場合に備えて、援護要請を受けた。最後まで彼女を見届けに行かなければならない。

(正直、めちゃくちゃ気が乗らないなぁ……)

 ため息を付いたら、隣のえながとタイミングが被った。どうやら同じ想いらしくて、少しだけ気が紛れる。

 学園側としては。備えよということなのだろう。いつかお前達もそうなるのだから、少しでも引き伸ばせるように努力しろという警告か。それとも、自分の運命を受け入れろという忠告のつもりか。

 どちらにしろ、余計なお世話だった。

「はーあっ。せっかくの京都なのに。桃色たちも連れて、四人で旅行なら良かったのに」

「……なら今度、そうすればいいじゃろ。監視の者さえ付ければ安心するような馬鹿者連中じゃ。早めの修学旅行くらい許してもらおう。無理矢理な」

 なぁ? とえながは斜め前に座っている黒いスーツの男性に視線を送る。監視員は無言で目を逸らした。

 沙希は、ちょっとびっくりしている。えながが、あのえながが。そんなことを言い出してくれるとは。

「……それに。私らの時間も、そう多くはない。旅行を楽しんでも、バチはあたるまいて」

 高速で流れていく景色を遠目で見つつ、えながは言う。沙希も、その視線の先を追った。

「……うん。うん、そうだよね。修学旅行! 透子先生と七竈先生に話してみよ! 駄目が元々ってことで!」

「行かせんと都市一つぶっ壊すぞと脅せば簡単じゃ」

「さすがにそれはさぁ……。あたしら出来ちゃうし、本気にされちゃうかなぁ」

 でも何だかくすぐったくなって。沙希は笑い出す。えながも、僅かに口の端を緩めた。

 朝からひどく気が重かったけど。

 楽しみができて、ちょっとだけ。楽になった。

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