閑話幕間その2「私の、守という名は」
「守(まもり)、何どしたの? 紳士服売り場とか見に来て。珍しい」
パートナーの石橋詩(いしばし うた)がやってきて、後ろからぎゅっと抱きしめてくれる。
要(かなめ)守はその腕をそっと掴みながら、くすぐったそうに笑った。
「ほら、私来週十四歳の誕生日じゃん。だからパパに、プレゼントでもあげようかなって」
「えぇ、守の誕生日なのに、お父さんにプレゼント渡すのぉ? 逆じゃない普通」
「誕生日って、プレゼントをもらうだけって法律で決まってないじゃん。私からパパにプレゼント渡してもいいかなぁって」
言いながら守は売り場に並んでいるパジャマを見比べる。正直、よくわからない。
父は、要萩人は。普段スーツを着て仕事をしている。
月に一度の、学園の面会。萩人は仕事帰りにまっすぐ来ることもが多い。母は来ることも来ないこともあったが、萩人だけは毎月必ず来てくれた。
だから、せめて寝るときの自分だけの時間だけは、リラックスした格好をしてほしい。だから、パジャマを選びに来た。
でもどんな寝間着が好きなんだろう。ちゃんと見ればよかった。聞いておけばよかった。
うん。来週会えるし。とりあえずその時聞けばいいか。一旦無難な仮のプレゼントにしておこう。本命は、また次の面会の時に。
「守って、お父さんと仲いいよね。いいなぁ。あたしのお父さんなんか一回も会いに来ないよ。お母さんも」
「あ……ごめんね、詩。嫌だったかな、こういうの」
「あ、ううん違う違う! そういう意味じゃなくて、そういうのすっごくいいなぁってただの感想みたいな感じ。素敵じゃん。親と仲良しって」
詩が笑いかけてくれる。でもその奥に、どこか辛そうな想いを、守は察してしまう。
から、ぎゅっと彼女の手を握った。詩が吹き出す。「どしたの、守。手、あったかいね」。そんな言葉に、胸が切なくなった。
「……私の守って名前。パパが付けてくれたんだって。誰かを守れるように。誰かに守られるように」
──だから私、異能適合者になれて良かったなぁ。守は足元を見ながら言う。
「だから私、この名前が恥ずかしくならないように。いっぱいいろんな人、助けたいんだ。それが今出来る、わたしのやるべきこと。だよね」
「私たち、だよ。守と私はペアじゃん? 一緒に世界救っちゃおうぜ。ヒーローみたいにさ」
二人でくすぐったく笑い合って、掌と掌を合わせて音を鳴らした。
「決めたっ。とりあえず、これにしよ。これくらいなら、たぶん邪魔にもならないよね」
「いいじゃん。守のお父さん絶対に似合うよ。喜んでくれるね!」
黒いスウェット上下。シンプルなデザインが、パパには似合いそうだ。たぶん、毎日着てくれるはず。胸の奥がくすぐったくて、顔が緩む。
「……ねえ、詩。私、詩のことも絶対守るからね」
店を出て、学園への帰り道。限られた外出許可時間の終わりが近づいていた。夕日が、アスファルトに反射している。
「……うん。私も守のこと、守るよ。ずっと一緒にいようね。私たちなら絶対、大丈夫っしょ」
並んで歩く。間を埋めるように、手と手を繋ぎ合った。指まで深く結びつけた。もう片方の手には、父へのプレゼントが入っている紙袋をしっかり握りしめて。
絶対、大丈夫。私たちはきっといつか二人で。本当に世界を救えちゃうかもしれない。そう信じられた。
「来週の誕生日。楽しみだなぁ」
綺麗に焼けた夕日色の空を見て、守は呟く。「盛大にお祝いしようよっ」と詩も笑い声を上げてくれた。
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