第三話「桃色吐息」②
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寮の入り口の扉が、静かに開いて閉じる気配がした。智尋が帰ってきてくれたみたいだ。
「ごめんみんな! 急だけど雑談ここで一旦締めで! また会いに来てねー! 宝石月桃色でした! スパチャ読み配信、また今度するね!」
桃色は目の前にあるノートPCのキーを押す。配信が終わったのをちゃんと確認して、PCをシャットダウン。ヘッドホンを外し、マイク、オーディオインターフェース類を纏めておく。
オフモード。でもいつでも、配信できる臨戦状態までは緩めない。
談話室の扉を開けて、玄関へ。ちょうど智尋がスリッパに履き替えて、上がってきたところだった。だからすぐ気づける談話室で配信していた。
「智尋、おかえり。建物修復お疲れさまでした」
「桃色。ただいま。配信してたでしょ、帰りの車の中で観てたよ。桃色もお疲れさま」
彼女が腕を広げてくれる。ので、遠慮なく飛び込んだ。背中を包んでくれる腕にほっとしつつ、ファンデとかもろもろが彼女の制服に付かないように注意した。
智尋は先ほど火災が起きたビルを、異能で修復しに行っていた。先ほどは、桃色を心配してわざわざ一旦ここまで送り届けてから、また一人現場に戻ったのだ。
この子のこういうところが、本当に大好き。でも、無理はあんまりしないでほしいなぁ。私も人のこと言えたことじゃないけどね。
「ごめん、ボク焦げ臭いかも」
「焦げ臭くても、智尋の可愛さで全部帳消しだから大丈夫。ん、ほら。煤ついてるよ。綺麗な顔なんだから大事にしなきゃ」
取り出した優しい肌触りのハンカチで、智尋の頬についた黒い煤の汚れを拭きとってあげる。きっと燃えた場所に足を踏み入れたのだろう。
少しでも元の形を取り戻せるように。智尋は修復の時、その場をしっかり観察し、見取り図を見て、残っている写真などもしっかり確認する。だから時間が掛かるし、それを意識して修復するのは絶対に疲れることなのだろうと思う。
彼女はいつも笑っているけど。今疲れていることくらい、幼馴染の桃色にもわかる。
こちらを見下ろした智尋の眦が、きゅっと絞られて笑みが深くなる。嬉しそう。こんな時に言うことは、たぶんこれ。
「「キスしてもいい?」」
一言一句同じ言葉をお互いに渡し合った。一緒に含み笑い。
「サッキィたちが下りてきて見たらびっくりしちゃうから、一瞬だけね?」
「うん。ありがと」
少し屈んでもらい、桃色から彼女の唇を奪った。
そのしっとりとした極上のしなやかを、しっかり味わう。ふわふわ、ふにふに。啄むようにもてあそんでいる内に、桃色の方が我慢できなくなった。
「んっ……」
唇のあわいに舌を潜り込ませたら。智尋はすぐ歯を浮かせてくれる。思う存分彼女の口腔を味わう。綺麗な歯並び、歯茎、口蓋の舌触りまで。
そして満を持して彼女の舌を絡めとる。思ったより小振りなそれを、丁寧にほぐすようにマッサージ。こっちは舌が長いから、いくらでももてあそべる。おかげで舌はよく回りやすい。
「はっ……もも、いろ……っ」
キスの合間に、彼女の艶っぽい声が吐息と共に溢れる。ぞく……。昂った感情が、更に首をもたげた。
桃色は唐突に唇を離した。物足りなそうに息を乱す智尋。その顎を伝う唾液を、そっと拭い去り、濡れた指先をそっと彼女に差し向ける。
「舐めて、智尋。綺麗にしてくれる?」
たぶん配信では見せられないような顔をしてしまっていた。智尋の表情に、僅か恍惚とした色が混じったから。
「んむ……っ、ん……っ」
桃色の人差し指を、智尋は舌の伸ばして舐る。その感触と、羞恥を帯びた彼女の表情にどこまでも虜になる。ぞく、ぞく……。嗜虐的な欲が、続々芽生えていく。
「……智尋。ダーメ。悪い子なんだから。ここで襲っちゃうよ……?」
関係のない中指まで彼女は口に含み始めたから、桃色は上擦った声で止めた。糸を引く指から口を離して、「ごめん……」と智尋は頷く。
その潤んだまま上目遣いする眼差しは、ご褒美というより。お仕置きを求めていた。ぞく、ぞくぞく……。今すぐ彼女を犯したい気持ちを必死に抑え込んだ。
「部屋のシャワー、一緒に浴びよっか。……そこで、いっぱいしてあげる」
そう言って濡れていない方の手を差し出すと。智尋はとろけそうな瞳で桃色を見上げて、子供みたいに頷いた。
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