─雲─
ざるうどんs
─雲─
僕が世界の片隅で涙を流そうと、世界が変わることはない。
──僕は恋をしている。一目惚れであった。キラキラと美しさを放つ君は、僕のことなど眼中にない。
それでも僕は構わない。近くて遠いこの距離感で君を見つめ続けているだけで幸せだったから。だが、神はそんな小さな幸せすら奪おうとする。
『余命30日』
君はあと30日で旅立ってしまう。神に抗うすべを持ち合わせていない僕は、止まることを知らない時間を憎み続けることしか出来ない。無力な自分に腹が立つ。こんな僕に存在意義はあるのだろうか。
『残り20日』
君が旅立つまでのカウントダウンが1週間ほど経った。相変わらず君は綺麗で、相変わらず僕は無価値だった。
君と歩幅を合わせて歩くことは出来る。だが、前に踏み出す勇気が出ない。君より少し高く飛ぶだけで君に追いつくことが出来るというのに……小心者の僕に、翼が生えることはなかった。
『残り10日』
彼女との別れがどこか曖昧なモノから実感に変わっていた。僕が気を落とす一方で、彼女は旅立ちの日など来ないかのように強く、美しく輝いていた。僕にもそんな強さがあれば、君の隣に居られたのだと思う。
『残り3日』
いつも強く美しく輝いていた君が、どこか暗く見える。ずっと君の光だけを見ていた僕だけが分かる君の影。光を与え続けていた君の影を、誰が照らすことが出来るのだろうか。僕は与えられるだけで返すことが出来ない。だけど僕は……
『君が旅立つ日』
君は最後まで光を絶やさなかった。本当に君はすごい。僕は君のように輝くことは出来ないし、翼が生えてくることもない。でも、僕は僕らしく、泥臭く……
「あ、あの!」
「ん?」
彼女は少し驚いて目を丸くしていた。
「きっと、僕のこと知らないでしょうけど、あなたのことが好きです。強く輝き続けるあなたの姿勢を僕は絶対に忘れません」
「ありがとう」
初めて君の横に立てた気がした。この不格好で小さなジャンプに意味なんてないのだと思う。でも、この一瞬一瞬が僕を創り上げていて、それにこそ意味がある。
「もしまた出会うことがあったら、仲良くしてね」
君はそう言い残し、地上へ旅立って行った。最後の最後まで綺麗な君。こんな僕達のストーリーを誰も知らない。だがそれでいい。これは僕のストーリーだから。もし、僕の降らす『雨』で誰かの涙を溶かすことが出来たら、僕も君のように輝けるのかもしれない。
─雲─ ざるうどんs @unyanya22
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