第二章 私のヒーロー

第044話「みぱちょこ」★

 【表紙】

https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330663039846208


「おーい、プモル。夕食出来たぞ~!」


 台所の方から声をかけると、テーブルに置かれたノートパソコンで動画サイトを見ながら寛いでいたプモルは、こちらに振り返る。


 だが、すぐに興味を失ったように視線をパソコンに戻すと、カタタタッターンッ! と軽快なタイピング音を立て始めた。


 猫の癖に器用なやつだな……。


「おい、早く食べないと冷めるぞ」


「今は忙しいプモよ。先に食べるといいプモ」


 いつもならご飯が出来たら飛んでくるのに、いったい何をしているのだろう?


 不思議に思い、画面を覗き込む。するとそこには、可愛らしい猫耳少女が映っていた。


『いえ~~い! 遂に出雲ダンジョンを完全制覇しましたにゃ~!』


 猫のように大きな紫色の瞳と長い銀髪のツインテールが特徴的な彼女は、猫を彷彿させるポーズでカメラに向かってVサインをしている。


「これってダンジョン配信か? へ~、アリス以外にもこんな風に動画配信してる人がいたんだなぁ……」


「はぁ!? 心一、ちょこたそ知らないプモか!? 日本最強クラスの探索者プモよ!? 日本に3人しかいないAランクの1人で、世界探索者ランキング第48位の超有名人プモ!!」


 プモルが驚愕の声を上げる。


 え……マジかよ……。全然知らなかったんだけど……。


「ダンジョン関係の動画はあまり見ないようにしてたんだよ……。自分は潜れないのに他の人が楽しそうにダンジョン探索しているのを見るのはちょっと辛いっていうかさ……。流石にアリスは有名すぎて知ってるけど、他はあんまり詳しくないんだよね……」


 僕の言葉を聞いたプモルは呆れたような顔になる。


「はあ、情けない奴プモね。もっとちゃんと勉強しないとダメプモよ。ほら、心一も一緒に見るプモ!」


 プモルは再び画面に向き直る。


 どうやら一緒に動画を見て欲しいようだ。仕方がない。付き合ってやるか。


 椅子に座って、プモルの隣で画面を覗く。すると、ちょうど猫耳少女が視聴者達に語り掛けているところだった。


『いつもちょこの配信を見に来てくれてありがとうにゃん♡ みんなのおかげで、遂に出雲ダンジョンを攻略できたにゃ! 本当に感謝感激ですにゃ!』


 彼女の名はみぱちょこ。


 本名かどうかはわからないが、名前はネットで調べるとすぐに出てきた。


 世界探索者ランキング48位のAランク探索者で、日本最強の探索者の1人。


 アリスと同じく、映像記録系のレアアイテムを所持しており、ダンジョン攻略の様子を生配信している人気のチャンネル主である。


 年齢は不明。


 見た感じ10歳以下にも見えるが、レベルアップ能力に目覚めるのは10歳からなので、中学生くらいなのかもしれない。


 プモルは高速でキーボードを叩いて、コメントを打ち込んでいく。



:ちょこちゃんが僕を見てるぞ!

:にゃ~ん

:やりますねぇ

:ちょこちゃんすげー!

:かわいい

:ちょこたそがんばれ~!アリスに負けるな!

:ぺろぺろ

:やっぱ日本一だわ

:すげえええええええええええええ

:ちょこたそいま何色のパンツ履いてるプモか?



 次々と流れる大量のコメント欄。


 【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330663039890266


 この一番下の赤字、絶対プモルだろ……。なんて変態な質問をしてるんだよ……。


「投げ銭もするプモ」


 プモルがマウスをクリックすると、お金のマークが描かれたアイコンが点滅した。


 これが、いわゆる"投げ銭ボタン"というやつか。


 すると、画面に1万円の寄付をしたことを示す表示が現れた。


「おいおい、いいのか?」


「問題ないプモ。心一の口座から引き落とすように設定してあるから安心して欲しいプモ」


「何やってんの!? ねえ、お前何勝手に人の口座から投げ銭してんの!? ふざけんなよ!!」


 僕は慌ててプモルの身体を掴み、ぶん回した。しかし、プモルは抵抗するようにジタバタと暴れる。


「や、や、やめるプモ! ほら、ちょこたそがプモルに話しかけてるプモ!」


 プモルの言葉を聞いて、再び画面に視線を移す。


『プモ太くん、いつもありがとねー! ちょこは応援してくれるみんなのことが大好きだよっ! ちゅっ♡』


「ぷ、プモーーーー! も、もっと投げ銭するプモ」


 そう言ってマウスをクリックしようと手を伸ばすプモル。その小さな体を鷲掴みにして、全力でブン投げた。


 プモルは部屋の端まで吹っ飛び、壁に激突。そのまま床に倒れ伏した。


 そして、ピクピクと痙攣しながら動かなくなった。


 死んだかな? まあいいか、この世から害獣が一匹駆除されたと思えば安いものだ。


 気を取り直し、パソコンの前に座り直す。


 改めて動画を見てみると、猫耳少女――みぱちょこは猫のような愛くるしい笑顔を浮かべながら視聴者達と会話していた。


(あれ……? この声、どこかで聞いたことがある気が……)


 気のせいかと思ったが、やはり聞き覚えがある。どこだったか……。うーむ……。


 でもこんなロリロリな銀髪猫耳少女の知り合いなんていないはずなんだが……。


 聞き覚えのあるその声色に疑問を抱きつつ、しばらく動画を見続けていると、みぱちょこが突然とんでもないことを言い出した。


『それで~、ちょこが次に攻略するのは、並木野ダンジョンにしようと思いますにゃ! 日本最大級と名高いあのダンジョンに潜って、その全貌を暴いてやるんだにゃ! それじゃあ、みんなバイバーイ! またね~!』


 みぱちょこは最後に手を振った後、動画は終了した。


「マジか……。この子、並木野市に来るのかよ……」


 何かまた波乱の予感を感じる。胃薬でも買っておいた方が良いかもしれない。


 そんなことを思いながら、僕はプモルを叩き起こして、テーブルの上に夕食を並べ始めた。

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