第036話「恩寵の宝物 (ユニークアイテム)」

「お疲れ様だプモ! チェリー、よくやったプモ!」


 プモルはそう言うと、僕に抱き着いてきた。柔らかい毛並みがくすぐったくて気持ちいい。


「はぁ~~~、やっと終わったよ。でも、今回は本当に危なかったな……。デヴォラスが少しでも冷静さを失っていなかったら、今頃どうなっていたかわからないよ……」


 正直言って、完全に逃げに徹されるのが一番厄介だったのだ。下層にでも逃げられていたら、おそらく手が付けられないような存在に進化していただろう。


 奴が僕に執着してくれていたことは幸運だった。


「プモルもありがとな。今回はお前がいなかったらマジでヤバかったよ」


「うむ! 感謝するプモ! お礼はそのドスケベなおっぱいを揉む権利1日1回で手を打つプモ!」


 そう言って下着の上から猫パンチでペチペチと叩いてくるプモル。


「ふんっ!」


 尻尾を掴んで、森の奥へと放り投げる。


「ぎにゃーーーーー!! マスコット虐待いいぃぃぃぃぃーーーー」


 ドップラー効果のように遠ざかる悲鳴を尻目に、僕はデヴォラスが落とした金色の魔石を観察してみた。


 大きさは野球ボールよりも少し大きいくらいだろうか。表面はツルツルしていて光沢がある。まるで宝石のような美しさだ。


「それが恩寵の魔石プモな。中には世界にたった一つしか存在しない、貴重も貴重、超レアアイテムである恩寵の宝物ユニークアイテムが入っているプモよ」


 いつの間にか戻ってきたプモルが説明してくれる。


「こ、この中に恩寵の宝物ユニークアイテムが……」


 ごくりと唾を飲み込む。


 恩寵の宝物の中には、死者蘇生のアイテムなど、天文学的な値段がつく代物もあるという。それがこの中に入っているのだ。


「さっそく取り出してみるプモよ。中身を傷つけないように慎重に取り出すプモよ?」


「あ、ああ……」


 緊張しながら、魔石を持ち上げると、そのまま地面にそっと置いた。そして、ナイフを手に取る。


「よ、よし……。そ~~~っとね……、そ~~っと――――」


『やめろっ! 俺はこんなところで死ぬわけにはいかない! ぎゃあああああああぁぁーー!!!』


「うわあぁぁぁっーーーー!?」


 突然、デヴォラスの断末魔の叫び声が聞こえてきて、思わずナイフを落としてしまった。


 ……え? 何? 今の?


 魔石の中にデヴォラスの怨念でも残っていたのだろうか?


 ビクビクと震えながら、プモルの方を見ると、プモルはニヤついた笑みを浮かべながら、スマホのような機械を操作していた。


『これから俺は最強の存在になるんだ! やめろっ!! やめろおおぉぉーー!!』


「……………………」


 スマホのような機械の中からは、デヴォラスの声らしきものが延々と流れ続けている。


 ……こいつの仕業か。


「マジカルフォンだプモ。魔法の国のスマホのような道具プモ。ダンジョンの中には地球の機械は持ち込めないらしいプモが、マジカルフォンは何故か持ち込めるみたいプモ。せっかくなのでデヴォラスの断末魔を録音しておいたプモ! ちゃんと録音できてるか、試しに再生してみたプモよ」


「今やらなくていいよね!? それ今やる必要あった!? 危うく恩寵の魔石破壊しちゃうところだったんだけどぉ!?」


 下手すりゃ数百億もするレアアイテムが、一瞬で灰燼に帰すところだった。


「どこかで使う時がくるかもしれないプモからな。まぁ、とにかく今は早く恩寵の宝物を取り出すプモ!」


 だから取り出そうとしてたところをお前が邪魔したんだよ! それにそんな音声の使い道なんてあるわけがないだろ!


 だが、いつまでも文句を言っていても仕方ないので、再び魔石を拾い上げると、ゆっくりとナイフを差し込んだ。


 カチリと音がすると、魔石の真ん中に亀裂が入り、左右に開いた。中には黄金に輝く液体のようなものが入っていた。


「んん……? なんだろうこれ?」


 まるでゼリーのようにプルプルしている謎の物体。これが恩寵の宝物ユニークアイテムなのか?


 恐る恐る指先でつついてみる。ぷるるんとした感触と共に波打つように揺れた。


「ううむ、武器やアクセサリーの類じゃなさそうプモな。アイテム大全にもこれと似たようなアイテムは載ってなかったプモ。間違いなく世界で唯一無二の超レアアイテムプモよ」


「ほえ~~~。でも一体何のアイテムなんだろうな? どうやって効果を確認するんだ?」


 いくら魔法少女とはいえ、鑑定魔法なんて便利なものは使えない。


「ギルドに提出すれば、鑑定スキル持ちの人に調べてもらえるプモよ。あとはダンジョンのボスドロップアイテムに鑑定の巻物というのがあるプモな。とりあえず今はそのどちらかで確かめるしかないプモ」


「ふーむ、じゃあこれは一旦ギルドに――――――ああっ!!」


 とんでもないことに気づいてしまい、つい叫んでしまった。


「こっそりダンジョンに潜って、勝手にデヴォラス倒しちゃったけどどうすんの!? 僕が魔法少女だって正体ばらさないといけなくなるじゃん!?」


 このまま何も言わずに無断で帰宅してしまったら、討伐隊がいつまでもデヴォラスを探し続けることになる。デヴォラスが見つからない限り、ダンジョンの封鎖も解除されないだろう。


 僕が魔法少女に変身してデヴォラスを討伐しました! これがデヴォラスを倒して入手した恩寵の宝物ユニークアイテムです! とギルドに報告しないと、この案件は永遠に解決しないのだ。


「言われてみればそうプモな……。うーん、ちょっと待つプモよ……」


 うんうんと頭を悩ませながら、考え込むプモル。こいつはこれでいて意外と頭が切れるから、何か妙案を思いつくかもしれない。


 プモルが思索に耽っている間、僕はそっと黄金のゼリーのような恩寵の宝物をマジカルストレージの中に仕舞った。


 しばらくすると、プモルは何やら閃いたようで、ポンと手を叩いた。


「妙案が浮かんだプモ! まずは10階まで戻って、ボス部屋で待機するプモ。そこで作戦を説明するプモよ!」


 自信満々といった様子で胸を張るプモル。


 少し不安だが、今のところこいつの作戦に外れはないからな。ここは素直に従っておこう。


 僕はプモルに言われるままに、ボス部屋へ続く階段に向かって歩き出した。

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