第022話「デヴォラス」★
「心一! 早くダンジョンに行くプモよ! 今日もミノ舌ゲットするプモ!」
プモルが急かすように僕の肩に飛び乗ってくる。
昨日食べたミノ舌が余程気に入ったのか、プモルは朝からずっとこんな調子だった。
「わかった、わかったから落ち着けって」
僕はプモルを宥めると、急いで身支度を整えた。
実際僕だって早くダンジョンに行きたくてウズウズしているのだ。昨日ミノタウロスを倒した時の高揚感は、未だ忘れられない。
頬に猫パンチしてくるプモルを引きはがすと、探索用のリュックサックを背負い家を出る。
――ガチャリ
玄関を出ると同時に、隣の部屋のドアが開かれる音がした。
現れたのは、20歳くらいの女性だった。片方の目元が隠れるほどの長い前髪に、黒いパーカーを着た地味な風貌をしている。
「おはようございます。赤崎さん」
「――!? ……お、お、おはよ、う……ござい、ます……」
女性は驚いたようにビクリとすると、慌てて顔を伏せ、蚊の鳴くような声で挨拶を返した。
彼女は隣に住む大学生の
「それでは、行ってきますね」
会話の苦手な相手にしつこく絡むのも悪いと思い、軽く会釈をしてその場を離れようとする。だが、その時、背後から小さく声をかけられた。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330661762504075
「あ……猫ちゃん……」
あっ! ま、まずい! このマンションはペット禁止なんだった! 思いっきりプモルと一緒に部屋から出てきたところを見られてしまった!
「あ、赤崎さん!」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
彼女に詰め寄って事情を説明しようと一歩踏み出した瞬間、目の前をプモルがスッと横切り、赤崎さんの足元へとすり寄る。
「猫ちゃん……か、かわいい……」
しゃがみ込んだ赤崎さんは、プモルを抱き上げるとその頭を優しく撫で始めた。プモルはその手に甘えるようにしてゴロゴロと喉を鳴らしている。
慈愛に満ちた表情でプモルを可愛がる彼女の姿に、僕も思わず頬が緩んでしまう。
(こうして見ると、赤崎さんってかなりの美人だよな……)
普段は前髪に隠れていて気づかなかったが、よく見ればその整った容姿にドキリとしてしまう。プモルと戯れるその姿はまるで天使のように可憐だった。
そんなことを考えながらボーっとしていると、不意に彼女がこちらを見つめていることに気付く。目が合うと、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「えっと、赤崎さん。プモルのことはどうかご内密にお願いしますね。他の住人の方々にバレると色々と問題になりそうなので」
「……プモルちゃん。時々、私にも触らせてくれるなら……黙っていてあげても……いいです」
プモルが赤崎さんの膝の上で丸くなる。どうやら彼女はプモルのことを気に入ったようだ。
僕は苦笑しながら、プモルを撫でる彼女に向かって頭を下げた。
ギルドに向かう並木道を歩きながら、プモルに話しかける。
《……どうしたんだ? プモル。さっきから何か考え込んでいるみたいだけど》
ちなみにプモルは既にペンダントの中に入っている。なのでテレパシーを使って会話をしていた。
《うーん、先程の愛衣理なんだプモが……魔法少女の才能があったプモな》
《……えっ!? そうなんだ》
プモルの言葉に驚く。
そう言えば彼女は確か大学1年生だから、まだ18か19歳のはずだ。ギリギリだが年齢は魔法少女になれる条件を満たしている。
魔法少女の才能……汚れなき10代の少女……。あっ……(察し)
《はぁ~~~~~~~~~……。30歳で童貞の分際で、何が「あっ……(察し)」だプモ。身の程を知るプモよ》
うっ、うるさいわ! 心を読むんじゃない!
《それにしても、よく見たら美人でおっぱいも大きかったし、勿体なかったプモなぁ~~。プモルもこんなおっさんじゃなくて、ああいうおとなしめな目隠れ美少女と契約したかったプモよ。ああいう娘ならプモルの言うことも素直に聞いて一緒にお風呂にも入ってくれそうプモしな~》
こんなおっさんで悪かったな! くそぉ……! 腹立つなぁこいつ!
プモルの嫌味ったらしい言葉を聞き流しながら、歩くこと数十分ほど。ようやくギルドに到着した。
建物の中に入ると、何やら騒々しい雰囲気に包まれていた。受付カウンターの前には多くの探索者が群がり、何事かを大声で叫んでいる。
僕は野次馬の列に加わり、彼らの会話に耳を傾けてみた。
「おい! 何でダンジョンに入れないんだよ!」
1人の男性が叫ぶ。すると、それに応えるように受付嬢が説明を始めた。
「例の特殊個体による犠牲者が10人を超えました。そして、どうやらその特殊個体は斃した相手を喰らうことで力を増す性質があるらしく、10人以上の人間を捕食したことで、かなりの知能と力を身に着けたようです」
それを聞いていた他の探索者達の顔色が変わり、ざわめき始める。
《言葉を喋っていたのはそういうことだったプモか。奴があれから更に知恵と力を付けたとなると、かなり厄介プモな》
確かに前に戦った時は僕の方が強かった。だが、あれから6人以上もの人間を吸収したのだとしたら、状況は変わってくるだろう。
《まあ、心一もあの時よりも強くなっているはずプモ。例え相手が進化した特殊個体でも負けることはないと思うプモが、油断は禁物プモよ?》
《ああ、わかっているさ》
僕達が話をしている間にも、受付嬢の説明は続く。
「このことから、例の個体を、
その発言に、周囲は再びどよめいた。
だが、納得できないとばかりに、準探索者と思われる連中から不満の声が上がる。特殊個体の脅威を知らない彼らにとって、デヴォラスが自分達の手に負えないような相手だという実感がないのかもしれない。
レベルアップ能力を持った探索者達は、我こそがデヴォラスを打倒し、その栄誉と、戦利品である恩寵の宝物を手中にするのだと息巻いている。
僕はその様子を見ながら、テレパシーでプモルと相談を始める。
《これはしばらくは並木野ダンジョンには入れなさそうだな。どうする? プモル? 他のダンジョンに行くか?》
《うーん、ミノ舌食べたかったのに残念プモなぁ。まあ、しょうがないプモ。今日はダンジョンは諦めて街のパトロールでもしてみるプモよ。最近、街に不穏な気配を感じるプモ。何か大きな悪意が近づいている気がするプモ……》
大きな悪意ねぇ……。どうにも胡散臭い話だが、これも魔法少女の役目と割り切ることにしよう。
《わかった。じゃあ、今日は街の様子を見て回るとするか》
《了解プモー!》
ざわざわと喧騒に包まれるギルドを出て、僕はプモルと共に並木野の街へと繰り出すのだった。
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