第020話「魔石ガチャ」
「ごめん……ちょっと感極まっちゃったみたいだ……」
少し照れくさくなり、プモルを床に下ろす。すると、プモルは僕の肩に飛び乗ってきた。
「まあ、無理もないプモ。それだけ魔法少女の力は凄まじいものプモ。だけど、だからこそ心は常に強く持たなければならないプモ。常に己の心と向き合い、その力の意味を考えるプモよ?」
普段ふざけてるセクハラ淫獣のくせに、こういう時に限って真面目なことを言うんだよなぁ……。
「だれがセクハラ淫獣プモかーーーっ!」
肩から胸へとダイブしてくるプモル。そのまま谷間に顔を突っ込んでくる。
「ぎあぁぁーーー! そういうところがだよぉー!」
胸にしがみつくプモルを引き剥がそうと格闘すること数分。なんとか引き剥がすことには成功したが、その時には僕の息は絶え絶えになっていた。
ミノタウロスを倒すよりよっぽど疲労したわ!
「やはりチェリーのおっぱいは最高プモね~! 大きさだけじゃなく。形もいいし弾力が素晴らしいプモ」
そう言って再び胸に飛び込もうとするプモル。僕はそれをピンク色のツインテールを鞭のようにしならせて叩き落とした。
この淫獣が! まったく油断も隙もあったもんじゃない!
「酷いプモ~~。マスコット虐待プモよ。お詫びとして、今日は一緒にお風呂に入るプモよ」
こいつ本当にブレないな!? いい加減にわからせるか!
拳を握りしめ、歯軋りをしながら怒りに打ち震える。そんな僕の様子を見て流石にまずいと思ったのか、プモルは慌てて取り繕うように言った。
「そ、それよりドロップアイテムを確認しなくていいプモか?」
「あっ! そうだった!」
せっかくボスモンスターを倒したのだ。ドロップアイテムの確認をしなければ!
「あれ? そういえばミノタウロスの持っていた斧とかはどこに行ったんだろう?」
ふと気になってボス部屋の中を見回すが、何も落ちていなかった。もしかしたら、ボスモンスターの討伐と同時に消滅するのだろうか。
「その通りプモな。他の雑魚モンスターとは違い、ボスモンスターだけは特別らしく、倒すと魔石だけ残して消えてしまうプモ。魔法少女に倒された場合だけじゃなくて、他の探索者に倒された場合でもそうなるプモ。そして、持ってる武器やアイテムも同時に消えるプモよ」
そうなのか。でも、確かにその仕様じゃなかったら、ボスモンスターから貴重なアイテムを量産できちゃうもんな。あの戦斧だって、相当な業物だったように見えたし。
「だからドロップアイテムは魔法陣から出現する物だけになるプモ。さあ、早く確認するプモよ」
プモルに促され、部屋の中央に目を向ければ、光り輝く魔法陣が出現していた。確かこれに触れるとドロップアイテムの入った魔石が現れるという仕組みだったはずだ。
「ええと、ミノタウロスのドロップってどんなやつだったかな? プモル知ってる?」
まさかボスを倒すことになるとは思わず、ボスドロップについても全く予習していないのだ。
プモルは呆れたような表情を浮かべると、溜め息混じりに答えてくれた。
「まったく、仕方のないピンクツインテ娘プモねぇ。いいプモか? ミノタウロスのドロップは――――」
●レア度低(銅)
・低級ポーション
骨折までは無理だが切り傷程度なら即座に治せる。飲んだり患部にかけたりするだけで効果を発揮する。
・ミノ肉
食用の牛のような味だが、世界のあらゆる牛肉と比べても遥かに美味しい。
・ミノ乳
牛乳のような味わいで非常に美味いだけではなく、とても栄養価が高い。
・ミノ角
ミノタウロスの頭部に生える二本の長いツノ。硬くて丈夫な素材として重宝されている。
・ミノ舌
ミノタウロスの分厚い舌。とても柔らかく、食べるとクセになる旨さ。
●レア度中(銀)
・ミノタウロスの血清
ミノタウロスの血液から抽出された薬液。様々な病気に効果があると言われている。
・ミノタウロスの戦斧
ミノタウロスが使っていた大型の戦斧で、強力な打撃力を持つ。ただし非常に重い。
・ミノタウロスの魔石(大)
魔石の中でも一際大きく、純度の高い魔石。魔力の蓄積量も多く、様々な用途で使える。
・ミノタウロスの鎧
ミノタウロスの全身を覆う鉄のように硬い皮膚で出来た鎧。見た目に反して軽く、防御力も高い。
・ミノタウロスの革袋
ミノタウロスの皮で作られた大きな巾着袋。中に何が入っているかは開けるまでわからない。
●レア度高(金)
・ミノタウロスの英雄剣
英雄譚に登場するミノタウロスの勇者が使用していたとされる伝説の剣。刀身は赤く輝き、炎のような意匠が施されている。
・ミノタウロスの王冠
黄金の輝きを放つ豪華な冠。特殊な効果はないが、美術品としては大変価値がある。
・ミノタウロスの霊酒
神話の時代に造られたと言われる幻の秘酒。飲むと寿命が延びると言われ、その価値は想像を絶する。
・ミノタウロスの胃袋
異空間に繋がっており、大量の荷物が入る。ただし、強度はそれほど高くなく、壊れやすい。
・ミノタウロスの怒り
非常に強力な爆裂魔法が込められた、数回限りの使い捨てのマジックアイテム。
「――――と、こんな感じプモよ! どうプモか! ちゃんと覚えたプモか?」
「…………」
僕は無言のまま、手のひらをギュッと握りしめた。そして、そのままふるふると体を震わせる。
おおおおおおおっ! す、すごいぞ! どれもこれも超がつくほど貴重なアイテムじゃないか!
ミノタウロスの胃袋はマジカルストレージがあるから、僕には必要ないけど、ミノタウロスの英雄剣はめちゃくちゃ欲しい! それに、ミノタウロスの霊酒なんて一体どれくらいの値段が付くのか見当もつかないぞ! これはテンション上がるわー!
顔をニヤけさせながらプモルを見る。しかし、プモルはやれやれといった様子で首を振っていた。
「言っておくけどレア度高のアイテムなんてめったに出ないプモよ? 期待するだけ無駄プモ」
ところがどっこい、こういう時はいきなり大当たりがくるのがお約束なのだ!
僕は上機嫌のまま、光り輝く魔法陣に近付いていった。
「さあこい! 我こそは魔法少女チェリーピュアハート! 魔石ガチャを引き当てし幸運の女神なり!」
そして、勢いよく手を伸ばす。すると――――
魔法陣の中から出てきたのは、ドッジボールくらいの大きさの、銅色をした球体だった。
「これは……銅の魔石かな?」
「銅プモね。レア度低のありふれたやつプモ」
僕とプモルは顔を見合わせる。そしてどちらともなく笑い出した。
「……ふふ、はははははは! まあ、そう上手くはいかないよね!」
「ぷぷぷ、魔石ガチャを引き当てし幸運の女神なり! とかカッコつけて言ったくせに、結局ただのハズレだったプモねえ」
うるさいなぁ。わかっていたさ。所詮、僕の運などこの程度だということくらい。
でも、なんだかとても楽しい気分になった。
――これでいい、今はこれでいいんだ。
今の僕にはこれくらいが相応しい。だって、僕はまだ探索者になったばかりなのだから。これから、沢山の冒険をして、もっと強くなって、いつかきっと……。
僕は気持ちを切り替えると、魔石の中身を確認すべく、ナイフで慎重かつ大胆に切り開いた。
そして、その中を覗き込む。
「お? これはミノ舌じゃないプモか?」
「うん、ミノ舌だな」
魔石の中には、牛の舌のような物体が入っていた。だが、通常の牛タンより遥かに長くて太い。これはとても食べ応えがありそうだ。
これが僕の探索者としての初めての戦利品か。
「よし! 今日は焼肉パーティーと洒落込むか! ミノ舌はめちゃくちゃ旨いと聞いたことがあるし、楽しみだな!」
意気揚々と立ち上がり歩き出す。すると、後ろからプモルの声が聞こえてきた。
「おおっ! 大賛成プモ! ほら、そうと決まったら早速帰るプモよ! ミノ舌に合う副菜も買って帰らないとプモ!」
そうだな。せっかくだから、他にも色々買い込んでいくか。美味しいものを食べて英気を養うとしよう。
今日の晩ご飯に想いを馳せると、自然と笑みがこぼれてくる。僕達は足取り軽く、家路につくのだった。
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