第012話「マジカルアロー☆」
翌日、僕らは早速ダンジョンに潜ることにした。魔法少女の力ついて解説するには、ダンジョンの中がちょうどいいとプモルが提案してきたからだ。
並木道を通り抜けてギルドの前に立つ。相変わらず、早朝から沢山の人が出入りしている。
「ふーん、ここがダンジョンのある場所プモか。随分賑わってるプモね」
リュックの中から顔を覗かせながら、プモルが感慨深げに言った。
「それよりお前、どうするんだ? ダンジョンはペットの連れ込みは禁止だぞ? このままだと置いて行くことになるけど」
ダンジョンは基本的にライセンスを持った人物のみしか入れない。ペットや付き添いの人間は外で待機することになる。
しかし、プモルは僕の言葉を聞いて、ニヤリと笑った。
「魔法少女のマスコットを甘く見ちゃいけないプモよ。よく見てるプモよ?」
すると、プモルは大きく息を吸って、カッと目を見開いた。
次の瞬間、彼の体が光の粒子となって、僕の首にかけていたペンダントの中へと吸い込まれていった。
《どうプモか? これでいつでも一緒にいることができるプモよ》
突如頭の中にプモルの声が響いてきた。
「うわ! 何だこれ!?」
驚いて声を上げると、周りにいた人達の視線が集まってきた。僕は慌てて口を塞ぎ、誤魔化すために咳払いをする。
《落ち着くプモ。これは念話と言って、プモルと心で会話できる能力プモ。魔法少女はみんな持ってる力プモよ。プモル達マスコットは、戦闘中は邪魔にならないようにこうしてペンダントに引っ込んでるプモ》
なるほど、つまりテレパシーみたいなものか。
確かにこれならいちいち口に出さずとも話が出来るし、ダンジョンの中にも付いて来れるな。
《それじゃあ早速、ダンジョンに出発するプモ!》
「おおっ!!」
気合をいれて、大きな声を出すと、また周りの人達がこちらに注目する。僕は赤面しながら、そそくさとその場を離れた。
「はい、Fランク探索者の桜井様ですね。では、奥の扉から入場して下さい」
受付のお姉さんに促されて、ダンジョンゲートのある部屋に入る。
(相変わらず、すごい迫力だな……)
空間の裂け目の先には、真っ暗な闇が広がっていた。この向こう側には異世界が広がっているのだ。
昨日ゴブリンに殺されそうになった記憶が蘇り、思わず身震いしてしまう。
だが、もうあの時の自分とは違う。今の自分は、魔法少女チェリーピュアハートなのだ。ここで怖じ気づくわけにはいかない。
僕は震えそうになる足を奮起させ、ゲートを潜り抜けた。
《ほほ~、ここがダンジョンの中プモか~。魔素が濃いプモね。これはいい修練場になりそうだプモ》
ゲートの向こう側に広がる景色を見て、プモルが興奮した様子で言う。
「魔素?」
聞き慣れない言葉に首を傾げると、プモルが得意げに説明を始めた。
《魔素とは、生物の体や自然界に存在する魔力の元となる物質プモ。大気中にも微量に含まれているプモが、地球では殆ど感じられないプモね。魔法少女はこの魔素を体に取り込むことで成長し、強くなるプモよ》
へぇ~、なるほどな。地球には殆どないエネルギーなのか。
《あるにはあるプモが、感じるのが難しいぐらい微弱な量しかないプモ。生物を倒した時はそれなりに得られるプモがな。しかしここは地球より遥かに濃密な魔素に満たされているプモな。ここならチェリーのような最弱の魔法少女でもすぐに強くなれそうプモ》
最弱……。改めて言われるとちょっと傷つくなぁ。
まあ、昨日まではなんの力もない普通の人間だったことを思えば、こんなファンタジー的な力を得られただけでも奇跡みたいもんだけどさ。
《それじゃあ早速変身するプモよ》
プモルに言われ、僕はキョロキョロと辺りを見回す。必要以上に警戒しながら、誰もいないことを確認して、ペンダントを握りしめる。
《なに挙動不審な動きをしてるプモか?》
「いや、だってこんな30の男が魔法少女に変身してるところなんて誰かに見られたら、ドン引きされるじゃん。絶対にバレるわけにはいかないだろ?」
《ああ、そういうことプモか。それなら大丈夫プモよ。魔法少女に変身しようとしてる所を、誰かに見られていたなら違和感を感じてうまく変身出来ないプモよ。元に戻る時も同様プモな。それでも無理やり変身しようと思えば出来ないことはないプモが、見られている場合は確実に本人はそれを認識出来るプモ》
え? そうなんだ。じゃあ、堂々と変身すれば良いってことだな。
今は全く違和感を覚えてないし、おそらく誰も見ていないのだろう。
僕は目を瞑って、ペンダントに魔力を込めた。
すると、全身が淡い光に包まれ、服が消え去り、一瞬にしてピンク色のフリルが沢山ついた可愛らしい衣装に変化した。腰のくびれが強調されるようなデザインになっていて、スカートの丈はかなり短い。
髪はピンク色に染まり、ツインテールに結われる。ぷるんと大きな胸が揺れ、お尻がきゅっと持ち上がった。そして、最後に手には先端にハート型の宝石が付いたステッキが現れた。
僕はそのままクルリと一回転し、決めポーズをとる。
「魔法少女チェリーピュアハート! ここに参上!!」
ファンタジー的な能力に目覚めた嬉しさでテンションが上がり、つい叫んでしまった。だが、しばらくして冷静になると、急激に恥ずかしさが込み上げてくる。
《ノリノリプモなぁ~~~。だけど、30のおっさんがやってると思うと、かなりキツイものがあるプモな》
うるさいな! わかっているよ! だからわざわざ言わなくていいんだよ!!
《まあ、外見が可愛ければ全てが許されるプモから。うん、やっぱりチェリーは可愛いプモな。特におっぱいが大きいところが最高プモ》
こいつ……! 本当にブレないな!
僕は羞恥心で顔を真っ赤にしながら、拳を強く握った。
《そんなことはどうでもいいプモ。それより、早速モンスターを倒してみるプモ。プモルの予想が正しければ、チェリーは最弱の魔法少女プモが、ゴブリン程度なら楽勝のはずプモ。最弱の魔法少女プモがな!》
最弱最弱うるさいわ!
しかしゴブリンか……。
昨日殺されそうになった影響で、正直、まだ怖い気持ちが大きい。
《ふむ、恐怖心があるプモね。なら、まずは近寄らずに倒してみるプモ。ステッキを握りしめて念じるプモ。弓をイメージして魔力を込めるプモ》
言われた通り、手に持ったステッキに魔力を込めてみた。
すると、ステッキはみるみるうちに変形していき、またたく間にピンク色に輝く弓となった。
おお~~、なんかカッコイイぞこれ。
《初めてにしてはなかなかプモ。それが"マジカルボウ"プモ。魔力を込めれば矢を撃てるプモよ。試しに――――む! 来るプモよ》
前方の岩場から緑色の肌をした醜悪な顔つきの小鬼が姿を現した。そいつは僕の姿を確認すると、口元に笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらに向かってくる。
「ゴブリン!」
心臓がドクンと跳ね上がり、緊張で体が震え出す。
ゴブリンは、僕の全身を舐め回すように見ると、下卑た笑い声をあげた。
「グギャッ! ゲヒャッ! グヘェッ!」
女の方がより獲物として魅力的に見えるらしく、僕が男であった時よりも、明らかに興奮している様子だった。下半身に身に着けている粗末な布きれが、盛り上がっていて、非常に不快な気分になる。
男と違って、女は殺されるだけでは済まない。全身に鳥肌が立ち、思わず後ずさってしまう。
《チェリー! しっかりするプモ! 大丈夫プモ! 魔法少女は最強無敵プモ! ほら、早く矢を放つプモ!》
プモルに言われて我に帰ると、僕は急いで弓を構えた。
「グギャギャギャッ!」
ゴブリンは興奮した様子で、奇声を発しながら襲いかかってきた。
「弦! 弦がない! 矢も! ねえプモル! ど、どうすれば!?」
《慌てるなプモ! 落ち着いてイメージするプモ! 弦も矢も魔力で生成できるプモ!》
僕は深呼吸をして心を落ち着かせると、再び弓を構え直した。そして、弦を張り、矢をつがえるイメージをする。
すると、不思議なことに手元に光の粒子が集まり、弓矢の形を成していった。
僕はすかさず、その完成したばかりの弓矢をゴブリンに向けて構える。
《マジカルアロー☆と唱えるプモ! そうすることで、魔法の力で放たれた矢は、威力と速度を大幅に上昇させるプモ!》
「ま、マジカルアロー☆!!!」
呪文を唱えると、手のひらから勢いよく光の矢が飛び出した。
――が、僕のコントロールが悪く、その軌道は大きく逸れてしまう。
しかし、突如ゴブリンの胸の辺りに光り輝く星型の痣が現れ、矢はその部分に吸い込まれるよう旋回していった。
――バシュン!
光の矢は、瞬きよりも速くゴブリンの心臓を貫き―――その後ろの岩壁をも砕いて洞窟の奥へと消え去った。
ゴブリンは、何が起こったのかわからないといった表情のまま、その場に倒れ込む。
そして、次の瞬間、その体は光の粒子となって霧散していった。
――カランッ。
ダンジョンの床に紫色をした小さな魔石が転がる。
「……え?」
目の前で起こったことが理解できず、思わず間抜けな声が出てしまう。
僕は、口を半開きにしたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
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