第009話「プモル」
「がつがつがつっ! むしゃむしゃっ! がぶっ! 美味いプモーーーー!」
部屋に帰ってくるなり、謎の生物はコンビニの弁当を食べ始めた。その食いっぷりは、まるでフードファイターのようだ。
あっと言う間に食べ終わると、満足気にお腹をさすっている。僕は冷蔵庫からお茶を取り出すと、コップに入れて机の上に置いた。
謎の生物はそれを器用に前足で掴んで飲み始める。
「ゴクゴクゴクッ……プハーッ! うめぇプモーーーーッ!」
謎の生物は幸せそうに目を細めた。
どうやら食事を終えたことで落ち着いたらしく、ようやく話を聞くことが出来そうな雰囲気になった。
まず最初に確認しなければならないことがある。
「で? お前一体何者なんだ? 喋る猫なんて見たこともないんだけど」
すると、謎の生物は自慢気に胸を張ると、語り出した。
「よくぞ聞いてくれたプモ! プモルは魔法の国からやってきた、正義の使者! プモルだプモ! 人間界の平和を脅かす悪と戦うためにやって来たプモよっ!」
魔法の国? そんなものが存在するのか?
ダンジョンのある世界で、今更不思議現象の一つや二つ起きても驚くことはないけど、まさか魔法の国とは……。
僕の困惑を他所に、謎の生物――プモルは話を続ける。
「今この星には、邪悪な意志を持った悪の使徒が送り込まれているプモ。そいつらは人間を堕落させ、地球を支配するために日夜暗躍しているプモよ。プモルはそんな奴らを成敗するためにやってきたプモ!」
何やら壮大な話をし始めた。つまり、こいつはその悪いやつを倒すためにやってきたってわけか。
「それってダンジョンと何か関係があるのか?」
今世の中で起こっている最も不思議な現象といえばダンジョンの出現である。とても無関係とは思えない。
僕が訊ねると、プモルは真剣な表情になった。
「ダンジョンは全く関係ないプモねっ!!」
「関係ないのかよ!!」
思わず突っ込んでしまった。どうやらこいつはダンジョン全く別のベクトルの不思議生物らしい。
プモルはコホンと咳払いを一つ入れると、説明を続けた。
「とにかくプモルは悪の根源を絶ち、この地球を守る使命があるプモ! そのためにはお前の力が必要なんだプモよ! だからプモルと契約して欲しいプモ!」
契約、か。
なんか凄そうな言葉が出てきたぞ!
年甲斐もなくワクワクしてしまう。まさか30歳の誕生日にこんな展開が訪れるとは思わなかった。
これは是非とも契約をしてみたいところだけど、果たしてどんな内容なのか。
僕が期待を込めた眼差しを向けると、プモルはニヤリと笑みを浮かべた。
「プモルと契約して――――【魔法少女】になるプモよ!!!!」
「魔法少女!?!?!?」
いやいやいやいや、何言ってんだこいつ? こちとら今日で30歳のおっさんだぞ? 魔法少女になんてなれる訳ないだろ。
だが、僕の思いとは裏腹に、プモルは自信満々の様子だ。
「ふふふ、驚いているようプモねぇ。無理もないプモ。でも大丈夫プモよ。プモルの声が聞こえる時点で、魔法少女の資質があるのは間違いないプモ。それに、魔法少女は誰でもなれるものじゃないプモよ。選ばれた人間にしかなれない奇跡の存在プモ! お前は選ばれた人間プモよ? 誇るといいプモ」
「え……選ばれた人間」
その言葉に自尊心が刺激される。
僕は選ばれし存在だったのか!!
興奮を抑えきれず、鼻息が荒くなる。続きを聞こうと身を乗り出すと、プモルは得意気な顔になって話を続けた。
「魔法少女の資質があるのは汚れなき10代の少女と
「――え? 今なんて言った? 魔法少女の資質があるのはなんだって?」
プモルの言ったことが理解出来ずに聞き返すと、彼は首を傾げて不思議そうに答えた。
「汚れなき10代の少女プモか?」
「いやいやそのあとだよ」
「汚れなき30歳以上の男性プモか?」
「汚れなき30歳以上の男性!?!?」
何故だろうか……? "汚れなき"という言葉が入っているのに、むしろ汚れしか感じられないワードなんだが……。
呆然とする僕を見て、プモルはにっこり微笑む。
「とにかくお前には魔法少女の資質があるプモよ! だからプモルと契約して魔法少女になるプモ!」
「お前じゃなくて心一だよ、桜井心一。……はぁ、汚れなき10代の少女でもいいならそっちと契約しろよ、なんでわざわざ30過ぎたおっさんを選ぶ必要があるんだよ……」
溜め息混じりに呟くと、プモルは心外だと言わんばかりに声を上げた。
「出来るものならプモルだってそうしたいプモ! でも中々汚れなき10代の少女が見つからないんだプモーーーーッ! 世の中間違ってるプモ! 聞いてくれるかプモ? 先日プモルはとてもかわいいJCの美少女を見つけたプモよ。清楚可憐な外見、輝くような笑顔、穢れを知らないそうな純真無垢な瞳! まさに天使だったプモ。当然プモルはその娘と契約しようと思ったプモ。しかし! その娘はプモルの声が聞こえなかったプモよーーーーっ! 非〇女だったプモーーーーー! あ、あ、あ、あり得んプモよおおぉおぉお! ファ○ーーーー○っっ! サ○バ○ッチ!! 非〇女死すべし! あんなかわいいJCが非〇女なんて世界は狂ってるプモ! 絶対に許さないプモ!」
唾を飛ばしながら下品な言葉を早口で捲し立てるプモル。
うわ、汚ねえな! 顔を近づけるんじゃない! こいつ……猫の妖精じゃなくて本当はユニコーンなんじゃないのか?
「いや、10代の少女の全員が全員……その、プモルの声が聞こえない女の子ってわけじゃないだろ? 他の子を探せばいいじゃないか」
例えば嬉野みたいな心優しい子ならきっとプモルと契約出来るだろう。
だが、プモルは僕の提案をバッサリ切り捨てた。
「いやプモ。プモルはプモル好みの美少女じゃないと契約したくないプモよ」
こいつ……地球の危機を救いに来たんじゃないのかよ……。
魔法少女の契約条件に、自分の趣味嗜好を優先させる妖精に眩惑されそうになる。
「いや、それなら余計僕と契約しても意味ないだろ? 僕は見た目も中身も普通だし。僕なんかと契約して何の意味があるんだ?」
僕の疑問に対して、プモルは目を輝かせて答える。
「いーや、心一は大丈夫プモね。プモル人間を見る目はあるプモよ。それに、心一はプモルのことを助けてくれたプモからね。プモル自分で言うものなんだけど、ちょっとウザい自覚があるプモよ。でも心一はそんなプモルの話を最後まで聞いてくれたプモ。汚れなき30歳以上の男性と言っても、体だけじゃなく、心も清くなければならないんだプモ。魔法少女の資質がある30歳以上の男性は本当に少ないんだプモよ? 心一は合格プモ! さあ契約するプモ!」
プモルは右手を差し出し、僕に握手を求めてきた。
だが、僕はまだこの猫(?)が言っていることを完全には信用していない。こいつが嘘をついている可能性だってまだ残っている。
でも……。
今日のダンジョンでの出来事が脳裏に蘇った。
たかがゴブリンに殺されそうになった惨めな自分と、そんな僕を華麗に助けてくれた教え子の少女。
僕に力があれば、もうあんな思いをしなくてもすむかもしれない。
魔法少女になれば、僕にも嬉野のような力が手に入るのだろうか?
そう考えると、僕の答えは一つしかなかった。
――魔法少女になろう。
差し出されたプモルの手を握る。すると、プモルは満足気に笑みを浮かべた。
柔らかな肉球が手に触れた瞬間、何か熱いものが僕の中に流れ込んできた。
「契約は成立プモ! 今ここに新たなる魔法少女が誕生したプモ! これからよろしく頼むプモよ、心一!」
そして、僕の身体は淡い光に包まれた。
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