御調レイの要請
朝。私は目覚める
今日は土曜日なので、いくら寝坊しても誰もなにも言わない。
なので二度寝しようとすると、スマホから突然声が聞こえた。
「君にメールが来ている……君達神装巫女の専用サイトからだ」
そう、タケルさんは言った。
私は少し不機嫌になりながら、スマホをとる。
始めて戦った日の一日前、夜中のスマホで勝手に起動していたときぶりに、あのサイトを開いた。
昨日であった鏡の少女……御調レイからのメールだった。
メールの内容は、今日の午後五時私と会えないかというもの。私達が戦う世界で、昨日合ったことの事情を説明したいらしい。
「しっかりした娘だ……」
その丁寧な言葉遣いで書かれた文面を見ながら、私は小さく伸びをする。
「最近疲れているだろう。今日は午後の五時まで休むと良い。起こして……すまなかったな」
タケルさんがそう言ったので、私はもう一回寝ることにした。
眠りにつく前、小さな不安が胸をよぎる。
また戦うことになるんじゃないか?
次に光と戦った時、私は生きて帰れるのだろうか。
もし、万が一勝てたとしても、どちらかが死ななければならないなんて絶対に間違っている。
この力は人の命を守る力なのだから……
でも、どうやったら……この胸にのこった恐怖から向き合うことが……?
そう考えていると、眠りにつくことも忘れてしまう。
結局目を閉じることさえできないまま、お母さんに呼び出され、昼ご飯を食べにリビングに降りた。
そうやってのんびり過ごしているうちに、時間は過ぎ去り、もう五時。
私がタケルさんに声をかけると、自分の少し散らかった部屋が次第に色をなくしていく。
別の世界に私達は移動し、そこで御調レイを待った。
「鳩羽湊さん……ですよね?」
後ろから声が突然聞こえる。
びっくりした……振り向けば、レイちゃんがそこに居た。
「で、昨日のこと……いろいろと教えてくれるって……」
私がそれを聞くと、そのまえに……と言いながらレイちゃんはスマホを取り出した。
飾り気のない黒いカバーに、たった一つだけついた兎のストラップ。大人らしさとともに年相応のかわいらしさを感じさせる。
「……スキャンしてください。これでいつでもどこでも、神装を纏っている時でも連絡が取れるはず……」
レイちゃんの画面に表示されたQRコードをスキャン。
ピロリンという音とともに、認証が完了する。
「うちのレイをよろしくおねがいします。仲良くしてやってね」
明るい男の声が、レイのスマホから鳴った。
「……はじめまして。あなたがレイちゃんの神様?」
私が聞くと、「うん、そのとおり」とスマホの声は答える。
「僕の名前はツクヨミ、
そうツクヨミさんが自己紹介すると、タケルさんも名乗り始めた。
「……ヤマトタケル。神装は草薙剣だ。よろしくたのむ」
「そんな名前あったんだ……」
自分の神装の名前を始めて知った私がつい呟くと、タケルさんが「言ってなかったか?」と反応した。
「じゃあ、やるべきこともやったからちゃんと話さなきゃ……ですよね」
レイちゃんが静かに話し始める。
「わたし達神装巫女は、人のいのちを敵……堕ち
「うん。堕落し、神域から逃げた神……堕ち神は、人間の域と神域の狭間さまよい続ける。
魂を保ちきれず自我は崩壊しながらも、神に戻るため本能で人の域に干渉し人を殺して魂を奪う。それで魂を保とうとするんだ。
だから僕たち神様は、それを倒そうとした。でも神域から離れると万全な状態で力を振るえない……それどころか普段と違う環境に魂を蝕まれ、堕ち神になってしまうかもしれない。
だから人と魂を共有し、人であり神であることで僕達は狭間の領域で生きる力を得た。それが、『神装』」
ツクヨミがレイちゃんの話に付け足した。
「よくわからないけど、タケルさんからそれは聞きました……みんなを守るため、戦わなければならないんですよね」
「タケルさんって呼んでるんだ……」
レイちゃんが小声で呟くと、タケルさんはすこしふてくされながら「そんなところに気をかけるな」と小さいながら確実に聞こえる声で言った。
「で、その堕ち神の話がどうかしたの?」
「……あの人達……光さん達は、私達神装巫女を殺し、神の魂を集めている……まるで堕ち神のようにいのちを集めています。
よくわからないけれど、新世界をつくる……だとか……」
レイちゃんが透明な声で伝えると、私の心が少し揺らぐ。
だとしたら、今までに何人の人を殺してきたのか……
「その、魂を集めているって、新世界の為って誰に聞いたんだ」
私のスマホからタケルさんが問う。
「……」
レイちゃんは黙ってしまった。言いたくないことが、不都合なことがあるのだろうか……?
「いや、言いたくないならいい」
タケルさんがそう言ってもまだ、レイちゃんは俯いていた。
「ねえ、レイちゃん。私達を呼んだの、それだけが理由じゃないよね」
私が、問う。
そう考えたのはただのカンだ。
でも、私がレイちゃんの立場だったら、わざわざ説明の為だけにまた会おうとするだろうか……?
きっと、他に理由があって、私にさせたいことがあってわざわざ会ったのだと思う。
「……はい。でも……」
「君達、死ぬのは怖くない?ここでの死の意味。わかっているよね?」
言い淀んだレイちゃんの言葉を代弁するように、ツクヨミさんが言った。
「怖い……です。死にたくない。思い出すだけで体が震えます……」
始めて神装した後の夜。タケルさんが言っていたことだが。神装を纏った状態で死ぬ時、死亡そのものは神の魂が肩代わりするが、人の魂が傷つくのは避けられないらしい……記憶障害、感覚障害、酷い物だと自我の損失……一生目が見えなくなる人、声が聞けなくなる人、親友の名前を突然忘れる人……
死ぬよりも辛いかもしれないとタケルさんは言っていた。
私が、碧の名前を忘れてしまったら……私は誰のとなりで生きればいいのか……私はそれが怖くて、死にたくないと思ってしまう。
それに、タケルさんと二度と話せないのも、寂しいのだろうな……
「でも、私は戦いたい……怖いけど、戦いたいです。向き合いたいです。私は、みんなを助けられる私でありたい。この気持ちは嘘ではないです」
私は答える。
胸を張って言える覚悟はない。
でも、少なくとも嘘じゃない。
自分が一度背負った問題だから、最後まで向き合うんだ。碧だって、きっとそう思ったから、はじめとわかりあおうとしたんだ。
だから、私は答えた。
「……なら、頼んで良いですか?」
レイちゃんが、少し不安と申し訳なさの混じった声で言う。
命の危機を伴う相談をする緊張を、なんとか誤魔化そうとしているのだろう。
不器用に笑いながら話し始める。
「みんなを……助けてください」
レイちゃんがそう言うと、ツクヨミがあまりに言葉足らずなその台詞を付け足し始める。
「神装巫女専用サイトの機能の一つ……巫女がピンチになったとき、サイトから救援要請が周囲に居る巫女に自動で送られる機能がある。
それを使って、神装巫女を守ってほしい……それが、僕達の願いだ」
「……わかった。わかりました」
私は、頷く。
誰かを守ってるうちに、また光にも会えるだろうか。
会えたなら、また問いたい。
いつでも殺せたはずの私を、殺せるタイミングがあったレイを、殺さなかったわけを。
そして、何のために戦っているのかを。
そのために、私は……恐怖に打ち勝たないと行けない。
「鳩羽湊。救援要請が届いた……2カ所だ」
タケルさんが言った。
「さっそくだ……二人で手分けしましょう。湊さんは近い方に、私は遠い方にいきます」
レイちゃんが静かな声で指示を出す。
私が頷くと、レイは飛び上がり救援要請の場所に移動していった。
「無理はするなよ。怖いのか?手、震えているぞ」
握ったスマホから聞こえる声を私は聞こえないふりしつつ、神装を私は纏う。
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