スプーン

ある豪勢の城の中、又、ある豪勢の机の上、スプーンがそこには在った。


スプーンは金色に、シャンデリアに照りつつも、少し、汚れている様子で在った。


そんな城の食卓、召使の女が、掃除をしに来た。


召使の女はそのスプーンに気が付いた。


洗った方が良いのだろうか。


嫌、あのスプーンは金色のスプーン、私が触れて良いものでは無い筈だ。


召使の女は、その食卓の周りを綺麗に拭き取って、食卓を後にした。


その少し後、この城での仕事を控える、下級貴族がその食卓に在る、そのスプーンに目を当てた。


汚いな、触るのには如何にも、俺が穢れる。


下級貴族は足早に仕事に向かった。


そうすると、次には城周りを散歩をする、上級貴族がそのスプーンに目を掛けた。


おお、このスプーンはかの、金色のスプーンではないか。


ん?だが、少し、汚れているな。


かの金色のスプーンをこの様な形で、飾るとは、王も、乱心であるな。


ふん、これを放って置けば、王の地位も少しは、揺らぐに違いない。


上級貴族は、ゆっくりとその回廊を、進んでいった。


そうした後、城に招かれた吟遊詩人がそのスプーンを見た。


ほう、これがかの金色のスプーンであるか。


少し、汚れているな。


しかし、この汚れも又、事物で在って、それが表す物は即ち、紺碧の汚れ。


物の必然性を呈しているのだ。


ふむ、素晴らしい。


吟遊詩人は、ゆっくりと、客室に向かった。


そんな中、ある、黒い布を被った、無精髭を生やした男が窓から、食卓へと忍び込んだ。


金目の物は無いのだろうか。


ん?何だ、あの、スプーンは。


こ、これは!かの金色のスプーンでは無いか!


これは、高く付くぞ!


ん?しかし、汚れているな。


これでは、価値が下がる。


男は近くに在る、洗い場へとそのスプーンを持って行き、洗おうとした。


その時、その城の王が兵を連れて、巡回をしている中、無精髭の男を見つけた。


「貴様、何者であるか!」


兵は無精髭の男に直前、近づき、槍を構えた。


「こ、これは…。」


無精髭の男は少し、間を開けて、素早く、言った。


「私、妻と子供を含めて、六人を持っているのです。そんな中、この豪勢の城の物を窃取し、売り、生計を立てようとしたのです。」


兵は槍をより、近づけ、こう言った。


「問答無用である!貴様はこの城へ王様の許諾を得ずに入り、かの、金色のスプーンを窃取をしようとしたのだ!貴様は万死に値する!」


「ひ、ひえ〜!」


無精髭の男は後に続く事を考えるのに必死だった。


無精髭の男は又、素早く、口を開いた。


「私、王様の許諾を得ずに、この城に侵入をしたというのは、事実で御座います。しかし、その汚れていた金色のスプーンを、洗おうとしたのも事実で御座います。」


そのスプーンはもう、ずっと、汚れていた。


王が食卓の横を通った。


これは、金色のスプーン。


全く、汚れているのでは無いか。


だが、あの汚れは一体何なのだ?


あのスプーンは、異邦の王との、食事で、異邦の王が使用をしたスプーン。


異邦の王は、普段、何を食しているのか?


そうだ、豚等も食べている可能性も在る!


その様な穢れた物に、私を含めた、城の物に触れさせる事には如何!


王は足早に王室へ向かった。


王が、口を開いた。


「貴様が、この城に朕の許諾を得ずに侵入したのは事実、それは確かに、間違いない。しかし、そのスプーンを洗おうとする勇敢、気に入った。貴様は無罪放免、且つ、貴様にはその金色のスプーンを授ける。」


兵は目を大きく開きながらも、槍を下ろした。


無精髭の男は街へ出た。


早速、この金色のスプーンを売ってやろう。


無精髭の男はそのスプーンを、近くの噴水で洗った。


金色のスプーンのメッキは、その汚れを落とすに当たって、剥がれていた。

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階段に立つ。 詩、評論文、短篇小説集 摂氏七十度 @kawaq

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