モデル

今、僕は、上半身を剥き出しにして、繁華街の道を歩いている。


皆、僕を少し、見ては目を逸らす。


ネオンが僕の色を変えて、画期的な姿にする。


少し、寒い。


夏とは言えど、今は午前2時だ。正に、上半身の毛が逆立つのが、目に見えて分かる。


前から、強面の未だ、成人をして居なさそうな男が、向かってくる。


正直に言えば、怖い。この様な格好で、繁華街を出歩く等、格好の的そのもので在る。


ああ、近づいて来る、怖い。怖い。


強面の少年は少し、その男を見た。が、やはり、直ぐに目を逸らした。


男の毛が少し、萎れたのが見えた。


ああ、何故、この様な事をしているのだろう。


大学はそれなりに良い所なのに、嫌、だからこそだな。


これは反抗心で在る。


自分という存在をただ、受験のロボトミー手術、つまり、中学受験という僕のフォークインザロードがこう、若き自分を呼び起こして、止まないのだ。


中学では、いつも、上位10位には入っていた。


高校でも、そうだった。


俺は精神科医に掛かった方が良いのだろうか。


俺自身、医学を学ぶに当たって、そう、すればする程に、気付くのだ。


俺はどうにも、おかしい人間なのだ。


関係の逆転、まるで、学生運動が真っ盛りの若者の様だ。


それで良いのだ。


遠くの木陰から、警察官が此方に来るのが見える。


反抗心。そうだ。反抗心だ。


俺はやってやる。国家への反抗だ!


その男は油を握った。


警察官との距離が、じわじわと、嫌、加速して、近づいてくる。


警察官が、トランスシーバーの様な物を口に翳しているのが少し、近くで見える。


そうだ!俺はやってやる!


この警察官をぶん殴ってやるのだ!


正に、犯行。鉄パイプはないが、この鉄拳制裁をお見舞いしてやる!


警察官が、もう、2mの距離も開けずに、来る。


その男の毛は、更に、萎れている。


「お兄さん、どうされましたか?」


行け、行くんだ!


「嫌、それが熱くて仕方なくて、日も落ちたというのに、何ですか、この暑さは。」


はあ。結局、こうなってしまう。


これだから、俺の人生は、駄目なんだ。


「お兄さん、今、学生さん?」


はあ、これだから。


「いいえ、会社員です。モデルの仕事をやっているのですよ。今、丁度、家に帰る途中なんですよ。ほら、身分証明証。」


その男は、その男の隣をゆっくりと去って行った。


「ああ、本当だ。この辺りには、変な人が多いから、お兄さんも、気を付けてくださいね。」


次は、誰をデッサンしよう。




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