糞山の王
少し、草が垣間見えるコンクリートの道路の上、そこに、糞山は在った。
そして、その糞山の頂に、厳かに佇む、一匹の蝿が居た。
この蠅は、ここ一帯のテリトリーを仕切る、糞山の王であった。
全く、人間の蔑みの目線には、堪えるのう。
彼奴等が愛玩家畜として飼う、犬の糞を土へと還しているのは、正に、我々でもないか。
それもそうだが、しかし、何故、糞という、使用したエネルギーの残滓に過ぎない物を人間は排他するのだね。
糞山の王は、その前足で、頭を掻いた。
数万年前までには、糞転がしの彼奴等はスカラベとして、崇め奉られて居たではないか。
はあ。この年に成ると、厭世観に浸らずには居られん。
「あ、うんこだ!おい、犬、お前もそこにうんこをして、うんこソフトクリームを作れよ!」
「い、嫌だよお。」
2人の少年が、その糞山の正面で諍いを起こしている。
全く、人間というのは。
糞山の王は、体を苛めっ子の少年の方に向けた。
「ん?何だ?おい、このうんこの頂から、蠅が此方を見ているぞ!ほら、犬、あの蠅毎、うんこを踏めよ!」
「うわあああああああああ!」
この幼い人間共は何を話しているのだ?若しや、ポリエチレンテレフタートの袋で、この城を回収をする気なのか!?
「おい、そこの少年、止めなさい。」
「け、健兄ちゃん!?」
「こら、寅に乾、しっかり、仲を良くしなさい。」
「はーい…。」
何だこの、男は!まさか、援軍か!?
「しかし、こんな所で、一体、何をして居たんだ?」
「それがさ…」
「ブブブンブン!ブブブン!(皆の者。掛かれ!)」
ブーンブーンブーン
「うわっ!」
蠅の兵が一斉に、健達に飛び掛かる。
「うわあああああああ!」
腰を抜かした、乾は、その、糞山を、踏んだ。
「うわあっ!汚え!」
「乾君、大丈夫かい?」
靴の底を覗くと、糞と、大きな蠅の死体が、潰れて、くっ付いて居た。その蠅の前足は、ちょうど、その蠅の頭とくっ付いて居た。
「乾君、一緒に洗おうか。ん?大きな蠅も、潰してしまったんだね。」
「そんな蠅、どうでも良いよ!おら、犬、早く、洗いに行くぞ!」
「どうでも良くないよ、寅くん。」
健は乾の靴の底にくっ付いて潰れ居ている、蠅を丁寧に取った。
「うわっ!汚いよ健兄ちゃん!」
そして、その蠅を潰れた糞山の上に、丁寧に、置いた。
大きな蠅の周りに、それよりも一回り小さい、蠅達が群がってくる。
その蠅は、糞山の王で在った。
「ほら、行くぞ!」
「はーい。」
健は、手を頭に乗せて、この世界を考えた。
厭世観に浸っていた。
健と乾と寅は、丁寧に、乾の靴を洗った。
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