逆様の時計

「おい、今何時だ?」


「馬鹿野郎、飯を食っているんだから12時に決まってるだろうよ。」


この世界の時間という概念は、事象によって定まる。食事をする健と辰は互いにの行動によって、時間を決め合う。


「あー。沢山食べたな。満腹感があるという事は今は、12時15分だな。」


「そうだな。あ、眠気があるから、12時30分かも知れないぞ。」


「んー、それじゃ、合間を取って、12時22分30秒でどうだ?」


「そうだな。そうしよう。」


12時22分30秒、健と辰は店を出て、映画館へ欠伸をしながら向かう。健の胸ポケットからは、行動記録表が見え隠れしていた。


「よし、何の映画を観るか?」


「んー少し、眠いし、パニック映画でも良いのじゃ無いか?」


「馬鹿野郎、パニック映画を観たくなる時間は12時50分だ。そして、12時51分といえば、お前がパニック映画を観たく無くなる時間じゃないか。だから、パニック映画は無しだ。」


「確かに、そうだな。恋愛の映画でも観るか。」


「そうだな。」


映画館のシートに座り、健と辰はその恋愛映画が始まる、その時を待っていた。辰は少し、未だ、眠たそうである。そんな間、2人の雰囲気は懐古に包まれそうになっていった。


「そう言えば、俺たち、いつ、会ったのだっけな。」


「いつ、会うって言ったって、事象が先立つこの世界では、初めての出来事に対しては、時間を決められないのだよ。しかし、その時の様子も覚えて居ないよ。」


「でもよ、そしたら、初めて、事象に時間を決めたのは誰なんだい?そいつは、何者なんだい?」


映画は未だ、始まりそうに無いその間、健と辰は考えた。その、事象、そのものに対する時間付けを、誰が、初めにしたのか。この世界は何なのか。


「…そいつはきっと、身勝手な奴さ、一度きりの事象、つまり、大きなイベントに対して、時間をつける、勇気が無いのさ。」


「面白そうな話だな、もう、恋愛なんて気分じゃ無いぜ。」


そうすると、少しの沈黙が続いて、その沈黙が続いた後、映画は始まってしまった。


「もう、そんな事を言う、廉何て嫌いなんだから!」


映画は、少し悲しい恋愛の映画だった。


「もし、僕の願いが一つだけ、叶うのならば、君の命を救いたい。」


そう、そんな気持ちだったんだよ。


「嫌、死を持ってして、廉との人生に花を飾りたいの!」


そう、そうなんだよ。


「私の病気は治らないの!」


そう、だったのかなあ。


「廉!」


「百合!」


恋愛映画、そのキャラクター達は抱き合って、エンドロールが流れ始めた。


健と辰は、少し、又、沈黙を開けた。しかし、健はそんな沈黙を破り、口を開いた。


「辰、この映画、良い映画だったな。」


辰が少し、時間を空けて、答えた。


「そうか?少し、現実身無いぜ。」


辰がそう言った後、健は顔を下げて言った。


「辰、お前はもう、一回死んでいるだ。」


「は!?」


「辰、お前は一度、交通事故で病院に搬送をされたのだ。その時、お前を執刀したのが、俺だった。しかし、俺はお前を、お前を、殺してしまったんだ。」


辰の墓の正面に、健が立っている。


「俺は、覚えている、その、臨終の時間を。そう、それは14時31分22秒。」


辰の墓は、汚れている。


「俺はお前を生き返らせたんだ。時間という、概念を無くすという契約を交わして。それは、一年間だ。」


辰は頭を上げながら、時間を空けて、言った。


「俺とお前が初めて、会った時間、お前が泣いてた時間、お前…。」


健は泣いていた。


映画のエンドロールはもう、終わりそうだ。





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