原稿用紙

この葉

死に方

 私の友達は、一枚の原稿用紙だった。そこには何でも書けた。悩みも不安も、自慢も怒りも、葛藤や自失でさえも全部。今思えば、それはとても拙い文章で、拙い語彙で、誤字脱字なんてたくさんあった。しかし唯一、私を受け入れ、話を聞き、私はどういう人間であるかを知らせ教えてくれたのであった。


 書いては消え、書いては消えるそれに、私はひたすら書き連ねた。さながら、一枚の白紙に色を塗りたくるが如く。私は書き続けたのだ。そしてついに、尽きてしまった。ふとゴミ箱や辺りを見ると、丸められた紙たちがそこにあるではないか。どうしたことだ。友達が丸められ、捨てられている。なんと罪深き事をした人がいるものか。私は頭に血が上るような、怒りを初めてこの身に感じた。しかし否定した。鏡だ。鏡が私を否定したのだ。縦長にキラリと自慢げに佇むそれが、私以外の犯行はありえないと否定したのだ。丸めた紙を手にもつ、醜い私の姿を映して。


 とうとう私は発狂して、館の窓を割り、深い深い夜闇の森へと飛び込んだ。自分の醜さと愚かさを隠したい一心であった。


 書き置きにはこう残した。

『不甲斐ない私を赦してくれ』『最期に、君と話ができて、本当によかった』『今まで私を受け止めてくれていてありがとう』『君への手紙はやはり、君自身に書くべきだと思ったんだ』『君が、これからもたくさんの人の手によって、世界によって、彩られることを願っているよ』『友よ、◾◾◾◾◾』


 最後の言葉は、丁寧に蓋のされた万年筆と一房の百合と共に、水滴によって滲んで見えなくなっていたと聞いた。おそらくこの言葉を知れるのは、書いた本人とその友だけ。



 男の死体は五年経った今も、見つかっていない。

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