正妻
紀氏の子は、
「妹」と言っても、
生まれた日には、
妹は、言うまでもなく阿古久曾と同じ四歳。
この日のために、父から与えられた
「北の
紀望行が言うと、御簾の内、顔の前に開いた扇をかざして、
北の方は、女房に小さな声で応える。
扇を顔にかざした女房は
「どうぞ姫を内に」
「お許し、かたじけなく(ありがとうございます)」
望行は言って、有朋と共に御簾を巻き上げる。
娘は
「あなや(あらまあ)」
顔の前にかざした扇の
御簾を巻き上げたまま、
「御簾を下ろしたまえ」
「っあ。
望行は慌てて、口の端に皺寄せて笑む有朋と共に、御簾を下ろした。
女房は扇を閉じ、
「んぎゃっ」
娘は
母に、「これが『鬼』と思ったら、歌を詠みなさい」と言い聞かされていたのだから、鬼に取って喰われるとでも思ったのだろう。
女房は抱えた娘を立たせる。
「そんなじゃ、
そう言う女房を、目を見開いて見る娘の
歩いて行く娘に付いて、女房は
「あなかしこ(失礼します)」
女房は言って、御帳台の
「お入りなさい」
御帳台の内から声がする。
娘は紅の
女房は
御簾の外、
御帳台の内から、娘が歌を詠む声が聞こえて来た。
「あさかやま
あさきこころを わが
浅き心を 我が思わなくに
その名に「浅い」の「あさ」が入っている
影(姿)が写って見える山の
浅い心(気持ち)で 私はあなたを思っていないのに
北の方の黄菊の
北の方の
「あなや(あらまあ)、歌がお上手ね」
北の方は、御簾の外にまで聞こえるほどの声で言った。
北の方の紅の袴の上に座らされた娘は、今にも泣き出しそうに顔を引きつらせる。
北の方の笑う
鬼が、娘を
「鬼じゃないの…」
娘の
娘の頬が
「誰から、私が鬼だと聞いたのかしら~~~」
「
「そんなことを言うと、『鬼だ』と、お前が娘に言ったみたいだぞ…」
御簾の外から
「誰が言ったかは、分かるけれど」
娘から頬を離しながら、北の方が言った小さな声は、御簾の外には聞こえなかった。御帳台の側に居る女房には聞こえていて、黄菊の
娘は、北の方を
北の
北の方は、娘の振り分け髪を撫でる。
「さても(やっぱり)、姫(女の子)は、
「私は、
北の方が目を伏せたのは
「でも、ほどなく(もうすぐ)、この家に姫がいらっしゃるのよ。あなた、うちの姫のお友達になってくれるかしら」
「お友達っ。なるっ。」
娘は声を上げた。
――それが、昨日のこと。
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