いとこ君
「また今日も、
「出て来た」
紀望行が声を上げ、背を伸び上がらせる。内教坊は、
見送る白い袖を振る妓女らを一度も振り返ることなく、童は真っすぐに上東門へと歩いて来る。
紀友則は、あじきない
上東門を出て来た
「
童が大きく口を開き、玉を
紀望行は駆け寄り、地に両膝を着き、ふくらかな身で、
紀有朋は振り返り、吾が子(友則)の両耳を両の
「そのまま、歌を詠みなさい」
父(望行)に言われて、阿古久曾は、抱えられたまま、歌の続きを詠むが、口は父の胸に
「鬼に歌を詠み掛けたら、何があっても、
四歳の
「鬼と人の見分けもつかぬ
友則は両耳を
望行は振り返り、ひきつった笑み顔を向ける。有朋の背の陰にいる友則に、その笑み顔は、見えていないが。
「初めてのことで、気負ってしまったんだよっ。
望行は向き直り、胸の内の
「あれは鬼じゃなくて、」
「『いとこ
「その
有朋の背の陰から友則は出て、歩み寄る。
望行は
夜の闇が口を開いたような瞳は、
阿古久曾の、ふくらかな
見返す友則は、
「阿古久曾、いとこ君に名乗りなさい。いとこ君が、お前の名を
「
「
名乗ろうとする阿古久曾を、友則は
「
しかし、阿古久曾は父の教えを守り、最後まで名乗りを言い切った。
父は笑んで、阿古久曾の黒髪を乱さないように
「阿古久曾。いとこ
「それも
友則は言い閉じる(断言する)。
「才がなければ、
友則は、阿古久曾の
「
おどろおどろしいことを、笑み顔で言う。
「逃げるならば、今のうちだぞ~」
「さがなきことを(意地悪なことを)」
望行は言って、阿古久曾を抱え上げると、歩き出す。
「
阿古久曾は、今にも泣きそうに
望行は、
「いとこ君が言ったのは、
――鬼を静められなかったのは、
男子二人を産んだ望行の
今日、
「やめっ、父君っ」
うちつけに(突然)聞こえた友則の声に、歩く望行と抱えられた阿古久曾は返り見た。
友則を抱え上げようとしている有朋が、
「まだ父は、
「そういうことではなくっ。
「
望行は向き直り、阿古久曾を抱え直すと、歩いて行く。
「あの
「『放っておきなさい』」
「吾が子に、よくないことばかり教えているなあ・・・」
その横を友則が駆けて、有朋が追って行く。
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