【短編】才なき子

善根 紅果

初めての鬼退治

 耳敏みみとき(耳のするどい)阿古久曾あこくそには、さやさやと、二十六人のあねたち(姉たち)と女嬬にょじゅたち(世話係)十二人が袖振そでふきぬの音が、いつまでも聞こえていた。

 けれど、振り返らずに歩いて行き、上東門じょうとうもんを出る。


 この日のために、父から与えられた萌黄もえぎわらわ直衣のうし

 袴着はかまぎ(幼児が初めて袴を着ける儀式)でもちいたくれないの袴。

 あねらが、舞やがく(演奏)の装束しょうぞくきれで作ってくれたくつ

 常は(いつもは)、振り分け髪(下ろした髪を額の真ん中で左右に分けて垂らす)にしている黒髪を、母がかしらをかき撫でて、総角みづら(左右に分けた髪を耳のあたりで、輪にしてたばねる)にってくれた。紅の元結もとゆい(髪を束ねるひも)は、母がみずからの黒髪を結っているものと、そろいだ。


 上東門を阿古久曾あこくそが出ると、鬼がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る