空の果てへのガッカリと期待 【1話完結】

神永 遙麦

空の果てへのガッカリと期待

 雲が動いて見えるのは、地球が回っているからだと思っていた。


 だから、ベランダから空を見るのが好きだった。

 動き続ける雲を見ては、回り続ける地球に思いを馳せた。地球の未知の地に行ってみたい、と憧れた。人類未踏の星々を小さな脳裏に描き続けた。

 4歳から6歳までのとてつもなく長い、「永遠」と等しく思うほどに長い時間。燃え続ける星に、生きる地球ほしに僕は、夢を見ていた。


 でも、7歳の頃。父さんが言った。

「雲が動くのは、風が吹いてるからだよ」


 *


 3年生になる少し前。人はみんな優しいものだと思っていた。

 

 小さな村で育った僕は人を疑ったことがなかった。起きた事件と言えば、たまにお爺さんお婆さんの運転する車が田んぼに突っ込むくらい。みんな親切で面倒見のいい人たちだった。


 でも、3年生になるのを期に引っ越した。今度はまぁまぁ大きくて、冷ややかな町だった。

 子どもの笑い声が聞こえれば、匿名で苦情。僕と1年生の妹がいる家にも、たくさん苦情が来た。赤ちゃんが生まれれば、騒音対策で追い出される。1回、裁判沙汰になった。

 


 *

 中学2年の時、僕は思った。

 

 結局、期待と幻滅を繰り返しながら、人は成長していくんだな。

 誰かさんが、ダイヤモンドは紫だと想像していたように、冷ややかな光を放つダイヤモンドを見て、幻滅したように。

 ワクワクと、大きなガッカリを繰り返して、人は程よい期待と心の強さを身に着けていくのかもしれない。


 そう、失恋したばかりの僕は思った。

 

 

 *

 

 飛行機は、怖いものだと思っていた。

 

 あんな大きな鉄の塊を浮かせていることが怖い。飛行機の事故は少ないらしいけど、「今回も大丈夫」なんてありえやしない。バスと違って、事件・事故が起きたとしても、脱出が難しい。前聞いた話だと、飛行機の整備は0.何ミリの世界らしい。もし、ほんの小さな、誰も気付かないようなミスが起きたら?

 

 そんな風に、パイロットも整備士さんも信頼できないまま、僕は沖縄行きが決定した。

 カノジョが誕生日は沖縄に行きたいって……。すんげぇ怖いけど、蛙化現象よりはマシ。と、いうことで行く羽目に。せっかくの高2の夏休みが……。


 ボーディングブリッジをるんるんで渡っていく美玲を尻目に、僕は窓から空を見た。ひょっとしたら最後に見る地上の景色かもしれないから。

 飛行機が動き始めた。ブゴォォォってすごい音がする。ジェットコースターのそうな圧にやられながら、僕は心の中で十字を切った。

 ネットによるとパイロット様たちも、離陸の方が緊張するらしい。異常があっても一定の速度を超えると中止できない上に、燃料が満タンだから。


 飛行機がふわっと浮いた。ゴォォォという音が聞こえなくなった。さっきまでいた所がみるみると小さな島のようになっていく。気がつけば、僕は飛行機から雲を見下ろしていた。

 空の果ては、まだまだ先にありそうだ。

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