手当とは真心を充てがう

応急措置おうきゅうしょちはしたが

あくまでも応急措置でしか無い、

早急に医者に見せないと危険で有る事は誰の目にも明らかな状態だ、

だが、館内には主家とは言え人拐ひとさらいを行った2名(内1人が重症)

とらわれかけた女性が1人、

ダメ元で聞いてみようか。

「そとに人は居ますか?」

この二人が下忍げにんならいるで在ろう監督かんとく役の忍び、

だがこの二人は公家くげの次男とその家人けにん

到底とうてい居るとは思えない。


「このやかたの事はわれより其方そなたが存じていよう」


文隆ふみたか殿はさっしてすらいない、

まず居ないと見て間違いは無いだろう、

そうそう都合よく……

まぁ、結果として都合の良い事は起こりないよな_____。

ん……、非常時だ、仕方がない、後でどうとにでも成るよな。


文隆ふみたか殿、背をこちらへ」


文隆殿は疑問しながら背を預ける。

国重くにしげは意を決して文隆殿の縄を切る、

正対せいたいして向き合い願い出る。

「この旅館りょかんいで

川沿かわぞいに北へと進むと

玄翁げんおうという医者が居ます。

どうか行ってはもらえませんか」

文隆殿は普段なら烈火れっかごといかるだろう。

だが今は赤面せきめんしながらもこぶしふるわせながら…


川上かわかみだな……承知しょうちした、このあずく」


言うなり立ち上がり顔をうつむかせて玄関を飛び出す。

その背中は何処どこ悲哀ひあいよう感傷かんしょうを引き出させ、

込み上げるものが有る。

しばらくの沈黙ちんもくが続く____。


部屋は鉄と血の匂いが充満し元々血も鉄の匂いに似ているので今となっては

どちらがどちらの匂いか判別ができないでいる。

文隆殿が部屋をってどれくらいだろうか、

意識上ではもう数刻すうこく(2~3時間)

は過ぎた様に思えるが冷静に頭で数えれば

ほんの四半刻しはんどき(30分)にも届かないだろう、

従者じゅうしゃ看病かんびょうをしながら

ふと視線を上げ部屋全体を見回すと_____

浅間あさま殿が居ない?………。


……茫然自失ぼうぜんじしつとはこう言う時に使うのが妥当だとうだろうか、

理由はかく人拐いに逢った女性が

次の瞬間には気配も感じさせずに外出するか?

危機感は無いの?

と本気で怒りたくなる様な

手の掛かる子供にわずらわされる感情、

いや情緒じょうちょ

頭の中でめぐまわって一週する頃、

背後のふすまが開き荒れた吐息といきで声を上げる。


「私に傷口きずぐちを見せて下さい、

せめて出来る事をさせてほしいんです」


言うなり国重くにしげの向い、

患者かんじゃを挟んで両膝りょうひざそろえて

座りこむなり慣れた手つきで患者の上衣じょういを脱がし

傷口を確認し、なにやら調合を始めた。

気が付けば浅間あさま殿の周りには

恐らく道具は部屋からだろうが手にしているざるに乗せられている薬草らしきものが根っこもそのままに土が絡んでいる___。

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