夜更
意図的に返してくれているのであろうか、
それとも、と目を端に寄せ隣りの客人を見る……
そうか、この御仁は___
おもしろい御人なのだな……いや、
違う気がする。
なによりも
隣りの御客人だけが話しを整え
私と御仁が話しをぶつけているだけに思えてきてならない、理由は告げられないがそっと客人に頭を下げた。
「
言い終える御仁の手元を見て私と客人は我に返る。
御仁はいつの間にか食事を終えていた。
私と客人は目を見張るばかりだった、
「長らく御邪魔を致しました
私はこれにて失礼致します、御入り用の際はいつでもお声掛け下さいます様御願い致します」
そう言って話しを
これ以上は本当に長居に過ぎると本能で確信したからだ。
部屋を出て廊下の窓から射す
「きつね~」
次々と
等々と
「……」
咳払いを一つ急ぎ足で階段を降りる。
半刻後、膳を下げに二階の御客人の居る部屋へと足を運ぶと膳は襖の外
廊下へと並べられて恐る恐る襖に耳を当て寝息を確認する、
「……、……ン」
声を掛けては邪魔に為るであろうと、中を見ずに膳を下げて調理場へと帰る。
この時間になると起きている者はそうは居まい。
食器洗いに三組分 内一人は女性の
個人的な
焼いた握り飯に
最近は冷えるし、ひたひたの出汁をすすり
焼いた握り飯は香ばしく胃を満たす。
そしてそのまま
こんな事が最近の楽しみですらある。
夜食を持つと一階の
普通この時間に起きている者はいないと思う。だが、そこに女性は立っていた。
「……すみません、私も頂けませんか?」
うん、そうだと思った、そう言うと思った。
だってこの人は
幸いと言うべきか___
この場合の幸いは誰の為の幸いかな?
夜食は多めに二人前は有る。
女性部屋へと夜更けに男が向かうのも夜食を届けるのも本来なら行わない事だ、
であれば……仕方がない、
「ではこちらへとどうぞ、今御用意致します」
館主部屋へと通す。
調理場から椀と箸を持ち出し急ぎ足で部屋へと駆け足で向かう。
「お待たせ致しました」
そう言って部屋に入ると女性は正座から足を崩して壁を背もたれにして___
うっつら、うっつら、と。
この短時間で……まだ部屋に入った私に気付いてない?
なぜだろうか、
「……あ、……ん。」
正直なんと声をかけようか、どうも巧く声にできない。
「お待ちしておりました。」
いきなり?
いつ起きましたか!
と叫びたくなるほど驚いた。
気が付けば女性は半目でこちらを見ている、いや、覗いているようだ。
「此はこれは、お待たせ致しました、」
ねっとりとした汗が止まらない………特に背中と脇から、
「いかが致しましたか?私は待ちわびて
こう言う時の女性の
特に
総じて自覚も認識もしていなさそうな辺りが強かさ、なのでしょうか___
自問もそこそこに椀に盛り付けて二人前のぶぶづけを食卓にならべて席に座り
いただきます、と箸をとる。
『
と我ながら恥じてしまう、目元をつねり意識を定め飯をすする。
女性は食べ終えると箸を揃え
「ご馳走さまでした」
と手を合わせてこちらに言い、
「お粗末さまでした」
と私は返す。
湯飲みに二人分のお茶を淹れ米菓子をつまみながら一服………。
ふと女性は思い出した様に話し掛けてきた、
「改めて、ご馳走になりました。
はしたなくも食事を要求してしまうなど___
今にして思えば恥ずかしさのあまり身を焦がしてしまいそうです。」
本当に恥ずかしいと思っているのが見ていて伝わるほどに
両の拳しは小刻みに震えている。
せめて、その様な事は無いですよ。とでも言えれば良いのでしょうが、
私には___
「一人で食べる食事は味気ないものです、
こうして一緒に食べて戴ける方が居るだけでも私はとても嬉しいです」
どうしてこう、私は自分目線の自己中心的な物言いしかできないのかと、
こんな時ほど思う事は無い。
女性は恥ずかしそうにお礼を言い、国重はすまなそうに答えていると……、
襖を
まぁ、落ち着かない時ほど周りの音は敏感に聞こえるものだな、と思う。
ん?最初は疑わなかった、襖の開け閉めなんて特に不思議に感じる事でもない、
ただ、場所が二階からでは無く一階の北側、
それも厨房かと耳を澄ましながら考える。
厨房は襖ではなく戸板で音が明かに違う筈。
一階の北側で襖が有る部屋は奥から
襖の開閉音はあの後からは聞こえない、
聞き耳を立てる私が余程気になるのでしょう。
若しくは
女性は目を細めて私をみて
「お夕飯ありがとうございました、私は部屋へと戻ります」
と淡々と言い終えると正座から半歩下げてするりと立ち上がり
一歩二歩と歩く女性に手を
明かに外の様子がおかしい、
北側の部屋は厨房を含めて三つ、でも襖が開閉する音は一つだけ。
部屋の向いに面している厨房の戸を開く音は無い、
そして、うちの旅館が古くて良かった?
床は歩けば軋み小さいが音を上げる、
すり足で南隣りの部屋を通り越し真っ直ぐに南へと歩いて近づいてくる。
南に向けて歩き奥に有るのは館主部屋と二階へ続く階段の二つ、
「部屋の奥へ、すみませんが説明は
小声で女性に耳打ちする、が言いかけて女性を
すり足から駆け
……後で女性になんと詫びたらいいのだろうか、
全部泥棒が悪いんだ、そうに違いない。
以上、女性を突き飛ばしてから身構えるまでの
驚きもしてる。
相手は一人だと思ってた、
そしてただの物取りか
それが全部読み違っていた為に
具体的に言うと窮地なのは私では無く女性とこの旅館がだ_____。
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