第12話 8-1.退職後
引っ越して一週間は西荻から板橋のパチンコ店へ通勤し、最後の勤務を終えると、しばらくは部屋にこもってだらだらしたり、初めて住む西荻の街を探索したりした。
西荻、荻窪、吉祥寺の図書館を制覇したり、中野や吉祥寺のミニシアターへ行ったり、古いパチンコ屋に入ってビッグシューターを打ったり、古本屋へ行ったり古道具屋へ行ったり、薄暗い木造の喫茶店へ入ってコーヒー一杯で粘ったりした。食事はカウンター席だけの丸藤食堂が安くてうまかった。時々、王将へも行った。オヤジが一人でやっている王将で、カウンター席のみ。天井がとても低いために和彦は行くたびに頭をぶつけるが、オヤジは「俺、毎日ぶつけてんだ」と悪びれない。
好きなように日々を過ごしていると、すぐにお金がなくなってきて不安になる。アルバイトでも何でも良いから働かなければ、との切迫感が湧いてくる。
パチンコ屋を辞めて二週間後、和彦は警備会社のアルバイトの面接へ行くため、西荻窪駅のホームに立っていた。新宿方面への電車を待ちながら、真夏の正午過ぎに空気中を揺らめく陽炎を見つめ、思い詰めた気持ちになる。自分はこの先、どうなっていくのだろう。今、二十三歳。十月で二十四になる。お金がない、仕事がない、ではやはり生きられない。自分の本当にやりたいことをじっくり自分のペースで見きわめたいという思いも強いが、社会の流れは恐ろしく速く、よく考える間もなく働かなければならない。
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