第6話 5-1.週1回の通学
和彦は寮を出て以来遠藤とは少し距離を置いていたが、それでも、次の休みは何するんですか?と必ず聞いてきたし、他の同僚も、次の休みはどこ行くんだよ、と競艇場やパチンコ屋へ和彦が必ず行く、と決めて掛かった聞き方をし、結局は誰かと一緒にギャンブル場へ出掛けることになってしまう。
ライター講座のある火曜日は休みを取っていることが多いが、同僚からの誘いは何とかして断る。すると、誰とも会わない、まったりとした時間が流れ、夕方から学校へ行くことが億劫で仕方なくなる。早番の時は仕事が終わった後行くことになるが、これがまた、しんどい。遅番だと学校へ行けなくなるので、毎月の勤務が決まる前に希望を出しておく。週一回の通学でも、時間を取るのがなかなか大変だ。
出掛ける前に、初回の講義で書いて、角谷先生から赤ペンで添削されて返ってきた課題の文章を、読んでみる。少し、やる気が湧く。
―高校時代に太宰治、坂口安吾、ドストエフスキーなどを乱読したのは、自分が抱えている問題を解決するためだった気がする。今はそれらの作家の作品は読まなくなったが、自分の中に同じような種類の問題が残り続けていて、それを解決する手段を見つけるために本を探している感じがある。―
作家の名前と、自分が抱えている問題、解決するために本を探している、と書いた下りに、先生からの赤線が引かれていた。
四月、五月と、講義が終わると一人で帰っていた。帰りに都営三田線水道橋駅のホームで電車を待っていると、講座で見掛ける女性が居るのに気付く。同じホームで電車を待っていると言うことは、巣鴨・板橋方面へ帰るのか。この方向に向かう電車は他の都内の地下鉄と違い、いつも空いている。向こうは和彦に全く気付いていないようだが、教室で一言も話したことがないのだから当たり前だろう。声を掛けることもないまま、同じ車両に乗り込む。巣鴨で和彦は降りるが、彼女はまだ少しうとうとして座っていた。
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