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 稗田父のアカウントからエレキギター担当の(諸般の事情により)脱退がアナウンスされる。『あえての女の子』の動画や配信音源は木村ちゃんの「好きな曲が消えたら悲しいと思う」という気遣いによって残されていたけれど、脱退告知が少し拡散されていたせいでコメント欄に憶測だったり哀しみだったりが結構書き込まれていく。木村ちゃんが嫌な顔をする。稗田父としても純粋にコンテンツを楽しんでもらえないのは不本意ということで、動画だけ消すことになる。動画は転載されるが、《消せば増える》がネットなので放っておこう、と稗田父と木村ちゃんが言う。

 そんなこんなで稗田父のチャンネルの登録者やフォロワーがちょっと減るが、

「元に戻っただけだよ。それに俺の他の曲に興味持ったやつは残ってるし」

 と言っていたので収支はプラスということだろうか。

 ちなみに遠藤さんのチャンネルは通常営業でギター演奏などをアップしている。色々リプライやコメントがついているみたいだけれど無視していて、いよいよ危うくなるまでは気にせずやっていくつもりなんだろうなあ、と思う。

 木村ちゃんもバンドメンバーとしてのアカウントを持っているけれど、別にネット上で暴露するつもりもないようなので、案外大丈夫かもしれないけれど。

「別にもうどうでもいいし、自分が浮気された女ですって公表するのもあんまり気が進まないから。同情いらない」

 さいですか。

 元から一過性のバズだったのだろう、三日も経てば脱退の件は誰も話題にしなくなる。遠藤さんも木村ちゃんも元から有名人だったわけでもないから、憶測を書くのにもみんな飽きる。それでも配信されている音源は聴かれているようだけれど、転載された動画のほうは伸びているとは言えない感じだ。イチャイチャの元ネタにできそうな、微笑ましいカップルの楽しそうな動画コンテンツなんて、『あえての女の子』以外にもいっぱいあるのだ。

 それでも、そういう動画コンテンツを企画して制作して数字に繋げられたというのは功績だし、才能だと思うけれど。

 さてエレキギター担当を失ったオママゴトはこれからどうする?

「エレキギターいる前提で編曲してあるのも多いし、できれば新メンバーがほしい」と稗田父。「ギター弾ける知り合いがいたら紹介してね。性別も年齢も問わない。でも、すでに他のバンドに入ってる人だとスケジュール調整が難しいから無所属がいいな」

「稗田パパの知り合いにはいないんですか?」と木村ちゃんが訊いたら、

「バリバリいるけど、プロばっかだから。俺としては、趣味とか同人音楽とかでギターやってる人がいい」

 との返答だった。

 そんなにすぐに見つかるものじゃなくて、三月の間はバンドとしては何もない。暇な休日ばかりになるけれど、当然ながら土曜休日女子会の復活はなかった。別に胡桃を抜きにして集まればいいんじゃないかと私は言ったが、そういう風にハブって楽しくしてると胡桃にバレたら何かされるかもしれないから、と望花さんが言うし木村ちゃんも同調するので、まあふたりがそういうなら……と案を引っ込める。

 一対一で会うことはある。木村ちゃんとふたりで本屋さんとか行ってるときに、そういえば遠藤辞めたよ、と言われる。なんの話かと思ったら職場のことで、そういえばそもそも同じCDショップで働いていた先輩後輩だったっけ? 気まずくなったんだろうか?

「木村ちゃんは辞めたいとか思わなかったの? 嫌じゃないかった?」

「嫌だけど、あんなクズに追い出されるなんて腹立つから堂々とやってたら、一週間で向こうが辞めて来なくなった」

「へえ……なんというか、案外メンタル強くないもんだね」

「だね。にしても急に辞めやがったからこっちは大変だけど」

 と嘆息する木村ちゃんの横顔は、あんなに泣いたりしてたのが嘘みたいにすっきりした表情だった。

「そっちはどう? 遊井。胡桃がいるでしょ」

「あー……それがね、なんもないの。胡桃、たぶん本当に私に興味ないし。そして最近わかったんだけど、私も私であんまり胡桃に興味ないっぽい」

「そ、そう……まあでも、胡桃に興味を持たなくてもいいのって、幸せだと思う」

 という木村ちゃんの言葉の意味はわからないまま三月が終わる。

 四月になる。

 初旬の土曜日に、前から行く約束だった&ハートのライブがある。関東と関西の大きなドームで行われる、4days公演『右心耳左心耳』の初日に木村ちゃんと行く。&ハートの人気度的に倍率が高かったらしく、明日の公演は当たらなかったらしい。

「まず物販行くよー」

 浮足立ちながらそう言う木村ちゃんは&ハートのグッズで全身を固めていた。&ハートのトートバッグに&ハートのメンバーモチーフらしきストラップや実写顔写真(証明写真みたいな表情だ)の缶バッジが全員ぶんついていて、左腕に色んなラバーバンドを何種類も通していて、手首には幅広のリストバンドがひとつ巻かれていた。よく見ると財布までいつもと違って&ハートのロゴが入っていて、スニーカーもコラボ商品らしいし靴下もロゴ入りで、もうここまできたらパンツまでグッズでも驚かないなって感じだった。

「ちなみに今日のメイクは一昨年&ハートとコラボしてたコスメです」

「ロックバンドってそういうコラボあるんだ」

「ミザリ、綺麗だからねえ。ちなみにそのときのタイアップ曲が去年のアルバムにも入ってた『キューンQ』なんだけど、企業のほうのチャンネルに上がってたMVがミザリ可愛くてとてもいいから、あとでURL送るね」と嬉しそうに木村ちゃんは言う。「コスメのほうはもう売ってなくてさ、普段から使うのもったいないし、ライブのときにだけ大事に使ってるんだ」

 化粧品って期限だいたい一年くらいじゃなかったっけ? と思うけれど水を差すのもなんなので今日は言わないでおこうと思う。木村ちゃん楽しそうで可愛いし。

「というか逆に普段全然使ってないのなんで?」

「オンとオフをね、分けたいんだよ。いまがオン」

「オンなんだ……」

 まあ参戦とか言うもんなあ。

 そりゃオンか。

 私はイベントごとにあんまり参加しないタイプの在宅オタクなのでこういう場はどういう服を着ていいかわからなくて、とりあえず失礼のないようにそれなりの格好にしてきたけれど、もうちょっとラフでもよかっただろうか? と見渡してみると、男女問わず色んな格好の人がいる。なんだったら他のアーティストのロゴの入ったシャツを着ている人までいて、ああいうのって出禁とか喰らわないんだ……と少し驚く。そんなテーマパークみたいな硬い世界じゃないということだろうか。

 長い長い列並びを経て、お預けをされていた犬みたいな勢いでドカドカ買っていく木村ちゃんの横で、私はとりあえず記念に今回のライブのタオルと半袖シャツだけ買っておく。たぶん暑くなったら部屋着とかに使う。

 で、それから食事を軽く摂ったりしてるうちに時間が迫ってきたので開場に入る。ステージが結構見やすい席。配布されたLEDバンドの使い方を木村ちゃんに教えてもらいながら始まるのを待つ。

 会場が暗くなって、ライブが始まる。ステージ中央の電子ピアノだけライトで照らされて、ゆっくり歩いて出て来た真崎ミザリが椅子に座る。拍手や「ミザリー!」って歓声が上がっていたけれど、ミザリがピアノを弾き始めると行儀よく収まる。ミザリは弾き語りで歌い始める。新譜の表題曲。ピアノバージョンもいいなあと思っていたら、一番が終わるとともにバーンってバンド演奏に切り替わって、銀テ? が飛ぶのを生で初めて見てちょっと気持ちが盛り上がる。私以外の観客はもう悲鳴みたいな歓声を上げている。隣の木村ちゃんもアゲアゲだ。上がったテンションを下げさせる気がないとばかりにステージ上で派手な演出が始まり、音源にない各楽器ソロも繰り出される。ライブってエンタメなんだな、と私は思う。

 一曲目が終わって、そのままMCとかなしで二曲目に入る。三曲目、四曲目とノンストップで披露し続けていく。演奏や歌唱の迫力と安定感、ライブ用のアレンジの面白さに加えて、曲ごとに光の色味だったりステージの仕掛けだったり色々違って、圧倒されるばかりだった。木村ちゃんの見よう見まねで声を出してみたりLEDバンドを振ってみたりしているうちに楽しくなってくるが、最終的に&ハートは十曲目まで休憩なしでやり続けていたので途中で体力が限界になって休む。

 木村ちゃん元気だなあ。

 十曲目が終わると、ミザリが言う。「というわけで&ハートです。本日はよろしくお願いいたしますということで、ここでいったんMCといいますか……、マサのコーナーです」

 会場のみんなが、そういえばマサの発表って今日だったね、みたいな雰囲気になる。

 何を言われるか全然わからないからか、どこか緊張でピリッとした空気を感じる。

 木村ちゃんはまっすぐな目で壇上のマサを見つめる。

「マサです。今日はありがとうございます。ちょっと今日は俺のほうから、皆様に報告……違うな、告発?」

「告白じゃね? 告発って何されたんよ」とカルキが笑う。

「ああ、そうそう。告白……うん、実はね。ずっと前から、言いたかったことっていうか。言えなかったことというか……隠してたことがありました」

 会場の緊張感がさらに高まるのを感じる。私も別にマサのファンとかじゃないのにハラハラしてくる。

「メンバーは、割と数年前くらいから知ってたことなんですけど。すごい個人的なことでもあるし、信用していないわけじゃなかったけど反応が怖くて、みんなにはずっと黙ってた。でも、&ハートのことを愛してくれる人がどんどん増えていって、今回のこのドーム公演が4days完売して、そのたくさんの愛のなかで、俺は打ち明けたいと思いました。でも、直前までちょっと迷いがあったんで。雑念を払うみたいな意味と、この会場の愛情の大きさを再確認したいみたいな意味があって、今回は普段と違ってMCなしで、ここまでやらせてもらったんですけど。……これなら大丈夫だって、俺、いま思ってるんで。言います」

 あ、別にいつもそうってわけじゃないんだ、と私は驚く。なんかそういうバンドなんだなと思っていた……と呑気なことを考えている私の隣で木村ちゃんがすでに泣いている。え、大丈夫?

 まあいまは話を聞こう。

 マサはひと呼吸おいて、数万人の観客の前で、言う。

「&ハートのベース、マサは、新橋政男は、俺は……ゲイです」

 あ、新橋政男なんだ本名。

 という感想だけではもちろんなくて、私は心臓が刺されるような気持ちになる。大勢のファンの前で、マイノリティであることを告白する重みに、その勇気にどきどきとして、まばたきを忘れる。数万人いるなかには、ただ興味本位で来た人、&ハートのことが好きでもホモフォビアを抱いている人だっているはずだ。そんなこと覚悟の上で、それでもその人たちを含む、&ハートを愛してくれるファンの前でカミングアウトすることを選んだのだ。

「驚いたよね。ごめんね。でも、こんなにも、こんなにも大きな愛をくれるみんなの前で、俺は正直になりたかった。それに、俺がゲイだって開示することで、音楽業界やファンの人たちのためにもなるんじゃないかとも思った。だから俺はもう隠さない、つって、いますごい震えてるけど。どうか、無理して受け入れてくれとは言わないけれど。俺を通して少しでも、理解が広がってくれたら、理解できなくても色んなところにいるんだ、性的指向に関わらず色んなやつがいるんだと、知ってくれたら、嬉しいです」

 マサはそこでマイクを顔から離す。会場が一瞬しんとしたあと、

「マサー! 言ってくれてありがとうー!」

「聞かせてくれてありがとう!」

「マサ大丈夫だよー! 大好きだよー!」

「愛してるよー!」

 という声が次々に上がる。マサの勇気を称える拍手も起こり、色んな人がマサを安心させるような愛の声を送る。木村ちゃんも大泣きしながら、

「マサー! 愛してるー!」

 と絶叫している。

 マサはステージの上で少し泣いたあと、

「ありがとう」

 と言いながらおもむろにベースソロを始める。ドラムのシノンがそれに合わせて叩き出して、ギターのカルキもそれに続いて弾き始める。リズムが固まってきたあたりでミザリが拍手で合わせる。すると会場全体がミザリの拍手に合わせる。

「ありがとう」

 マサはもう一回言って、それから即興のフレーズから聞き覚えのあるフレーズに切り替わる。イントロがベースソロの『ドープ・ハート・ドライバー』という曲が始まる。大人びた格好よさと疾走感を兼ね備えた楽曲で、マサのベースが音源以上に大活躍していた。

 そのあと七曲連続でやる。手拍子する曲とかコールにレスポンスする曲とかが多くなり、ちゃんと予習しておいてよかったなと思いつつ合わせる。超楽しい。そもそも手を叩くことが楽しいし、大きな声を出すことも楽しいから、楽しい音楽に重ねてみんなでそれをやるっていうのは、とっても楽しいに決まっているのだ。

 それから四人で雑談みたいな感じのMCが挟まれて、最後の曲(ロックバラード)をやって退場する。アンコールがあって戻ってくる。

 アンコールで何をやるかと思えば最近できたらしい未発表の新曲で、ずっとテンションが高い木村ちゃんのテンションがさらにもう一段階上がる。何故か抱きつかれる。汗でべったべただが、まあ抱きつかせておく。ハイになっているんでしょう。私もハイだよ。

 新曲はアップテンポで盛り上げつつバンドとして新しいことも突っ込んでいる作品で、面白いなあと思いながら私は歌詞を聞き取り、勇気への祝福みたいなテーマにマサの告白を想起する。

 そのあとメジャーデビュー曲をやってアンコールが終了する。音源もいいけど生もすごくいいバンドだったなあ、と思いながら拍手で見送る。

 隣で木村ちゃんはべそべそ泣いている。

「楽しかったねー」

「うん。すごく、すごく楽しかった……」と木村ちゃんは言う。「最近、やっぱ、色々、しんどかったん、だけど。でも、ここまで生きて、頑張ってきたこと、戦っていくこと、肯定してもらえたから。生きてける、生きてける」

 私は&ハートの名前の由来のひとつ、《みんなの体力ゲージを一つ増やせるように》という願いのことを思い出す。それってつまりこういうことなのだろうか? &ハートの作品は、音楽は、色んな人の、生き続けるための気力を増やしているのだろう。木村ちゃんがこうして与えられているように。

 有言実行というか、命名とともに打ち立てた《こういうバンドでありたい》というのを実際にできているっていうのはすごいことだなあ、と単純な感想ばかりを抱く。

「それに、さ」木村ちゃんは水を飲んで続ける。「マサの、発表。マサ、きっとすごく辛かったけど、ずっと頑張って生きて、音楽を届けてきてくれてたんだっていうのと、私たちの愛がちゃんと愛として届いていて、私たちを信じて明かしてくれて、そのうえでそれからも、楽しそうにベースを弾いてて。もう、マサ見てるだけでたまらなくなっちゃって。でも目を逸らしたくないから、ずっと泣いちゃってた」

「そっか。私はあのとき、勇気すごいなって思ったし、いいファンに恵まれてるんだなって思った。木村ちゃん含めてね」

 それから私が新曲はマサの勇気に対する祝福の意図もあったんじゃないの、みたいなことをドームを出るとき言ってみると、木村ちゃんはまた泣き出してしまう。涙腺すごいことになってるなあ。周りを見渡すと、木村ちゃんみたいに泣いている人や、泣いてたんだろうなって顔の人も結構いる。普段のライブがどうなのかはよくわからないけれど、今回は普段より泣ける回だったりするんだろうか。

 女の人だけじゃなくて男の人たちも泣いてたりなんだりしていて、観察がちょっと楽しいな……などと、無神経を承知で他人の顔をじろじろ見ていると(私も私で変なテンションになっているのだ)、知ってる顔を見かける。

 というか弟と増田くんを見つける。

 え、いたの?

 と思って凝視していると弟もこっちを見て、あ、と声を上げる。

 こうなったらしょうがないので合流する。

「姉貴、来てたの?」

「うん。お前も? チケット当たってたん?」

「や、俺は別に。元喜だけ」と弟は言う。「ライブ終わるまで外で待ってた」

「待ってたって。なんでわざわざ」

「心配じゃん。遠くの駅で独りでライブ行って。終わる頃には夜だし」

「僕は別にそんな心配いらないって言ったんすけど」と増田くん。

「何言ってんの、そんな大泣きして」

 増田くんはたしかに涙で目元を腫らしていた。木村ちゃんはそれを見て、増田くんの手を取って言う。

「よかったよね、ライブ。すごく」

「あ……はい、とても」

「&ハートのライブ、泣いちゃうよね……」

「はい……あ、でも、なんていうか。僕が泣いてるの、ライブそのものじゃないっていうか。その、マサのMCなんすけど」

 それで私はピンとくる。木村ちゃんはとりあえず増田くんの手を離して言葉の続きを待つ。増田くんは弟に目配せして、

「えっと、いい? 言っても。ダメなら言わない」

 と言う。

「いいよ。木村さん優しい人だと思うし」

 と弟が言って、それから増田くんは少し逡巡して、言う。

「その、僕も、ゲイなんすよ」

「え。そうなんだ?」

「はい。そんで、マサがあそこでゲイを公表してくれて。それで僕、会場がそのことを受け入れてくれていたことも含めて、僕も受け入れてもらえたみたいな気持ちになって、救われたというか。勇気をもらったというか……本当に、とても嬉しくて。それで泣いてしまって」

 それを聞いた木村ちゃんはまた泣き出す。えっどうしたの、と私が訊くと、木村ちゃんはタオルで涙を拭いながら、

「マサの勇気が、他の当事者にもちゃんと届いて。救いになってて。改めてマサってすごいんだなって、深い意味のあることをしたんだなって思って。よかった、って」

「本当に……感動しました。&ハートの、メンバーも、ずっと前から受け入れてたんだって思うと、バンドメンバーもファンも、すごく温かくて……希望だなって」

「あのさ、今日のセトリ。最初の十曲って、全部、マサが気に入ってる曲だったんだよ」

「え、……そうだったんすか?」

「うん。アルバム出たときのインタビューとか、ラジオとかで、いままでマサがお気に入りって言ってた曲だった、全部。それで、MCやったあと、マサが作った曲の『ドープ・ハート・ドライバー』やって、それから定番曲やる感じだったんだ、今日。きっと、マサの好きな曲をやって盛り上げることで、マサの勇気を後押しするためのセトリだったんだと思う」

 増田くんは木村ちゃんのそんな解釈にさらに泣きはじめて、全然泣いていない遊井姉弟は、とりあえず落ち着くまで人にぶつからないようそれぞれの連れと手を繋いで移動するしかなかった。

「てかさ」私は弟に言う。「今日これからどうする予定なわけ」

「一応、元喜のお母さんには了承もらってるから外飯。姉貴は?」

「こっちも木村ちゃんとどっかファミレスとか行くつもりだけど」

「じゃあもう四人で行く?」

「え、いいけど」って私だけで決めていいのか?「木村ちゃん、四人で晩ごはん食べに行こうかって弟が言ってんだけど」

「行く。この子の話もうちょっと聞きたい」

「僕もっす」

 そういうわけで地元の駅まで戻って、深夜までやってるファミレスに行く。木村ちゃんと増田くんは初対面なのでお互いに自己紹介をして、そのついでに増田くんと私の弟が付き合ってることが木村ちゃんに伝わる。

「あ、そういうことなんだ。……なるほどねえ」

 と木村ちゃんが何か考えている風なのは、弟のほうもゲイであることが意外だったのか、それとも私が前に話した《高校生の弟の気になっていた子》が増田くんであるかどうか考えているのか? そういえはこうして結びついてしまうと、整形云々を勝手に話してしまったのが少し申し訳なくもなってくる……。

 ちなみにいまの増田くんは平行二重。

 それから私と木村ちゃんと増田くんで&ハートのライブの話をしていると、増田くんがギターのカルキの技術力について熱っぽく語るからか、木村ちゃんが言う。

「もしかしてバンドとかやってる? そういう視点っぽい」

「あー……バンドっすか」と増田くんは歯切れが悪くなる。

「あれ、増田くんって軽音部じゃなかった?」と私が言う。

「軽音部ならそろそろ辞めるんだってさ」と弟が答える。「俺が軽音部のやつと喧嘩したから気まずくなったみたいで。ほんとごめんな元喜」

「気にしないで。ギターなら独りでも弾けるし」

「増田くん、ギターってエレキ?」木村ちゃんの目の色が変わる。

「あ、はい。そうっすね、ストラトで」

「えっと、歌ったりする?」

「はい、コード弾きながらギタボしてました」

「じゃあさ、増田くん!」いい笑顔で木村ちゃんは言う。「一緒にバンドやろうよ」

 あ、そう繋がるのね。

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