祓い屋稼業 6
見るたびにころころと印象の変わる黒埜と百花。
印象どころでなく、若者から子供にころっと変化した銀狐。
寡黙に走り、山を越えても汗ひとつかかない与吉と六助。
そんな変わり者たちの面倒を平気で見ているきぬ。
都にはそりゃいろんな人がいるものさと、村の大人たちから聞いて育ったけれど。
まさか、これほど変わっているとは。
おまけに血のつながった間柄の者は一人もおらず、唯一のつながりと言えば、祓い屋という風変わりな稼業の仲間というだけ。
これはもう、田舎娘の理解が及ぶところではない。
そして──
──私は、あやかしの伽……。
らしい、という程度ではあるが。
その言葉が意味するところも、何の役に立つかもよくわからない。銀狐はいろんな役割が必要だと言った。とすれば、それが与えられるまで待つほかに道はない。
しかしそれからの数日、主人である黒埜は離れに籠りっきりだった。
「旦那様は古今東西の書物を集めるのがご趣味でねぇ。仕事の依頼がないときはああして日がな一日、本ばかりお読みになるんです。そのうち黴でも生えるんじゃないかって、あたしは心配ですよ。嫁をもらおうって気もないようだし……」
きぬが飯炊きやお菜の支度をし、ひなが盛り付けして膳を運び終えたあと、二人は台所脇の一間で食事をする間柄になっていた。
はじめは手伝いを遠慮していたきぬだったが、一人で屋敷の家事を切り回すのはやはり骨が折れるらしい。ひなの懇願もあって、じゃあ旦那様のご用事がないときだけという条件で家事を分担することになった。
「今すぐお嫁さんは無理でも、せめて新しい女中くらい……。ねえ、おひなさんもそう思いますでしょう?」
「それだけ、おきぬさんを頼りにされているんですよ」
「いーえ! 旦那様は人嫌いが過ぎるだけなんですよ。まったく、あたしだっていつまでも若くはないんですからね」
ぽりぽりと漬物を噛み、白飯をほおばりながら恨み顔で言うきぬだったが、ひなは正直ありがたかった。
屋敷に来て数日、やせ細っていた体には少しずつ肉が戻ってきた。それはよいが、村では起きてから寝るまで働くのが当たり前だったから、何もしないでいると落ち着かない。考えなくてもよいことばかり考えて気が滅入ってしまう。
それに。
こうして仕事を分かち合い、顔を合わせて話すのが、何よりうれしい。
村の人々は両親を罵り乱暴することもあったが、ひなに対しては視界の端に入れることすら嫌った。
いや、恐れたのだ。
──私は、祟りだから。
そのような過去を知らないとはいえ、急にやってきた山出しの村娘に、きぬはいつもカラッと明るい気性で話しかけてくれた。
彼女がいなければ、ひなは今でも暗い記憶に閉じこもっていただろう。
「ああ……! 旦那様が早く身を固めてくだすったら、あたしはどんなに安心するか!」
時々こんなことを言いながらひなをじいっと見つめるのには、ちょっと困ってしまうけれど。
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