第六章 …… 余談

余談 (1)


 久我山には思い出す言葉がある。


 それは旅館での一時。薄暗闇の中、喜多見の静かな言葉。


『人の寿命は精々百年かそこらです。その百年と言う時間は長いようでとても、とても短いです。あっと言う間に一日は経ち、あっと言う間に一ヶ月が経ち、あっと言う間に一年が経ち……。時間はどんどん過ぎ去って行くんです』


 まさにその通りだと、久我山は思う。


 時間は過ぎ去って行く。


 その過ぎ去る過程の中でどのような出来事が起きても、それが幸運であろうが不運の物であっても、必ず過ぎ去る。人の思いによって時間が作用される事は決してなく、ある意味では無慈悲とも言えるように、向こう側へと行ってしまう。


 それが時間という物。


 止まる事なく、何処までも進んでしまう物。


 ……本当に、時間が経ってしまった。


 気付けばもう、あの短いひとときの記憶は、何処か遠い物に感じていた。



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