第五章 …… 別離

別離 (1)


 久我山は、こんな日々が何時までも続いて欲しい、と思っていた。


 傍に喜多見が居て一緒に過ごす、という日々。それが当たり前となり、何時しか欠かせない物になり、そんな願いを抱くようになっていた。


 喜多見が家に訪れてからという物、精神状態は日に日に回復して行っていた。彼女の優しい性格。それが久我山にとって――何よりも勝る薬となり、精神と肉体をゆっくりと癒して行った。


 傍に居て欲しかった。


 寄り添って欲しかった。


 喜多見が傍に居るのなら平穏に生きて行けるかも知れない、と思いながら、日々を送り続けていた。負の感情で塗れた人生から脱出出来るのではないか、とも思っていた。


 それは喜多見に甘えていると言われればそれまでだが、久我山はそれでも構わなかった。他人の評価などどうでも良いほどに喜多見に好意を寄せており、彼女が居ない生活など想像出来ないほどに至っていた。


 好きだった。


 <Cell>という枠組みを越えていると思う、喜多見という存在が。




 ……だから、


 本当に、別れたくはなかったのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る