決意 (3)


 旅行にでも行って来れば? と提案したのは母だった。


 二月に入った頃、母は久我山に向かってそう突然提案して来た。


 急に言われても上手く呑み込む事が出来なかったので訊き返せば、気分転換に旅行にでも行くと良いんじゃない? と言う、やはり上手く呑み込む事が出来ない――その提案を行った理由が足りない返答が帰って来る。


 何度も何度も聞き返して分かったのは、学校は二の次にして喜多見と一緒に旅行すれば良いんじゃないか、と言う事だった。気分転換の目的で。


 この提案には無数の疑問点があった。何故高校の休み期間中に提案しないのか。何故喜多見と一緒なのか。等々。


 久我山はそれらの事を訊こうとして――。


 止めていた。


 ふっ、と気付いたのだ。何故母がこんな提案をしたのか。


 母は恐らく、僕と一緒に居るのが嫌なのだろう、と。


 嫌、と言う言葉を変えるなら、困る、だろうか。未だに久我山と――自身の息子とどう接して良いのか分からない。だから少し離れたい気持ちがある。とは言え、そんな気持ちを抱いていても直接そんな事を言う訳にも行かない。そこで考えた結果、気分転換と言う事で彼を旅行させる事にしたのではないか。


 喜多見も連れて行かせる理由は……恐らく母は、彼女と久我山が会話や交流を深める事によって、何か良い影響を与える事を狙っているのではないか。


 考えてみれば、母が喜多見を購入したのもそれが狙いだったのではないだろうか。久我山との関わりを――自分ではどうしたら良いのか分からないから――<Cell>。高性能な対人コミュニケーション能力を持つ<Cell>に任せたかったのではないか……。


 暫く考え込んだ後、久我山は母の提案を了承していた。


 旅行の計画は母が建てていた。期間は二泊三日。宿の場所は日本の中越地方にある旅館。期間中にはスキーも行う予定。


 二泊三日の旅行は今まで行った事はない。何も問題を起こさずに旅行を行えるのか、久我山は少し不安も感じたが、まぁ何とかなるだろう、と最終的には考えていた。


 久我山一人だけではなく、喜多見も付いて来るのだ。


 喜多見には何かと頼れそうだ。


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