第三章 …… 造形

造形 (1)


 久我山安良は、自分には長所がない、と考えている。


 短所の裏返しが長所という言葉は存在しているが、久我山はこの言葉を信じていなかった。短所はどう引っ繰り返しても短所であり、長所も同様だと考えているからだ。そして世の中には長所が存在しない人間は居る。必ず居ると考えている。


 そして久我山は、その長所がない人間だと思っていた。


 考えても何も思い付かない。頭が良い訳ではなく、運動が出来る訳でもなく、性格が良いと言われた事もない。


 久我山は自分に対して、自信と呼べる物は一切抱いていなかった。


 生まれてこの方、人よりも少しぐらいは上だと思える物は何一つとして、持ち合わせていなかった。


 だから、高校を受験する時は困った物だった。


 木川高校を受験する際の入試科目は筆記試験と面接。久我山が特に困ったのはその面接だった。高校の面接時に試験官に訊かれそうな質問と言えば――自分の長所、短所の事に付いてだろう。だが彼は短所は思い付いても長所は全くと言って良いほど思い付かない。無理に思い付こうとすれば嘘を並べる事になりそうだった。


 面接日に至るまで、ずっと必死に考え続けた。


 僕の長所は何だろう、と。


 何を言えば良いのだろう、と。


 そうして結局、入試の際に長所を訊かれた際。曖昧な笑顔を浮かべて言う事になった。


「私の長所は……人に優しい事です」


 その答えは表情と同じように、曖昧な物だった。


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