第二章 …… 進展
進展 (1)
西暦二〇六二年に生きる男子高校生、久我山安良は運動が嫌いだった。
どうしてわざわざ身体的苦痛を自ら受けなければいけないのか、まるで理解出来ない。精神的な安息を維持する為には体に多量の負荷を掛ける必要などない、と言うのが久我山の持論。
そんな久我山が一番理解出来ない運動が何であるとか言うと、目的地を決めない散歩になる。
その面白さがまるで理解出来なかった。目的地も特に決めずただ気ままに歩く事に意味をまるで見出せない。目的地があるのならまだ分かる。そこに向かう為には移動しなければいけないから歩く必要性も生まれるだろうから、理解出来る。
だが目的地を決めない散歩。それはどうにも理解出来ない。気分を変える為と言う意見を聞いた事があるが、それならば家の窓から風景でも眺めていれば良いし、あるいはモニターで綺麗な風景の画像でも見れば良く、わざわざ歩く必要性を感じられない。ただただ足を無意味に磨り減らすだけの行為にしか彼には映らず、そんな行為は時間の無駄にしか思えない。
生涯に置いてどんな運動を行うにしても、目的地を決めない散歩だけは御免被りたい……と、久我山は物心付いた時から今に至るまで、そう考えて来た。散歩だけは絶対に嫌だと。そんな馬鹿な行為は御免被ると……。
しかし、現在。
久我山はその行為の真っ最中だった。
「あ、あれ。鳥ですか? 実物を見るのは勿論初めてですよ。へー、やっぱり、ああいう風に飛ぶんですねえ、結構疲れそうな飛び方してません? あれって自転車ですか? へー、二輪車は十分な加速が出れば倒れないっていうのは勿論知っていますけど、実際に見ると何だか不思議と言うか、結構凄い事だと思いません?」
あちこちを指差し、傍目でも興奮しているのが分かる素振りを見せている。何度見てもこれが機械だとは思えない。人間そっくりだ。
「え、ええ。凄いと思いますよ、ほんと……」
久我山は、<Cell>である喜多見と一緒に散歩に出かけていた。
文字通り、久我山が大嫌いな散歩に。
二人は川沿いを歩いている。横を流れている川の名称は『境目川』。上流から下流までの長さは数十キロ程度であり、流れは比較的浅め。川沿いの道は綺麗に整備されており、二人はその道を歩いていた。行き交う人々の中には時折<Cell>の姿も見える。
特段の目的地もなく、ただただ歩き続けるだけの行為。
日射しに陰りはない。冬の晴れ間特有の澄み切った空間が見える。
この散歩は久我山が自発的に行おうとした訳ではない。母から勧められたので仕方なく始めた事だった。
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