第3話 虚飾の王

 目が醒めると、わたくしは煌びやかな部屋にいた。

私の自室よりも全然豪華なのだが、何故か殺風景であった。

そう、人の温もりが感じられない様な、そんな部屋だった。そんな事を考えていると、仮面をつけた紳士ゼントルマンが入ってきた。

「やあ、麗しの姫君。僕はここの城のあるじだよ。本名は名乗れないから僕の事マスカレイドとでも呼んでくれたまえ。」「え、ええ・・・ミスター・マスカレイド。それで・・・一体何故私を攫いましたの?」私は顔を顰めた。

「まあまあ、そんな顔しないで。それじゃあリトルレディの麗しい顔が台無しさ。」

声を聞くからに、まだ未成年だろう。

「これから僕の話を聞いて?まずは僕が君を攫った理由から話そうか。くどいのは美しく無いから単刀直入に話すと、僕は君が欲しい。」

「な・・・⁈」

私は驚いた。そして、深呼吸して答えた。「あの、一つ良いですか。——私の事を一人の淑女として扱って下さっているのなら、いきなりその言い方はやめてください。私にとってはそれこそ美しくありませんわ!」

最後の方、私は叫んでいた。つまり、それ程動揺しているという事なのだ。多分。

「つまり、私の何が欲しいんです?」

「僕が欲しいのは君の美しい顔と体だ。それだけだよ。」

「あの、私は真面目に質問していますの。真面目に取り合って下さい‼︎」

私は思わず声を荒げた。回帰前はまだ分かるが、幼少期の今で体を欲するのは理解し難い。それに、容姿を褒められるのは嬉しいが、私の質問に対して真面目に取り合ってくれていないことになる。

「分かったよ。まあ僕が君を美しいと思って攫ったのは間違っていない。これは本当の事さ。君は本当に美しいからね。で、あとはその膨大な魔力量。魔法使いなら誰でも欲しい。て事で僕のものにならないかい。」

「なりません。私はまだ子供ですわ。それに『十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人』と云うことわざもあるように、仮に今は才能があったとしても成長するにつれ才能が無くなる可能性だってありますもの。」

私は丁重に断ったつもりだった。これで引いてくれたと思ったが、彼は引かない。

「まあ、そういう事もあるかもしれない。だが僕は本当に美しいと思った人にしか、こんなことは提案しない。君こそ僕が探し求めていた人なんだよ。決して君に悪いようにはしない。だから、ね。頭の片隅には置いといて。」

「分かりました。」

「ですが、すこ・・・」私が続けて口を開こうとした時、息を切らしたクラウディオが入って来た。

「コ・・・!じゃなくて、姉さんから離れろっ‼︎」

彼は入って来るなりそう叫ぶと、私を庇う様に抱きついて来た。

「クラウディオ!私は大丈夫だから、少し離れて。」

「絶対やだ。あいつが引かない限り僕も引かないから。」

姉弟(彼の目には少なくともそう映っているはずだ。)の問答を黙って見ていた仮面の男が口を開いた。

「坊主、一つ聞くけどお前と”姉さん”は特別な関係にでもあるのかな。」

「違います。」私はそう答えた。

「今日はそろそろ帰らせて頂けますか。お父様や屋敷の者が心配している頃なので。答えはいつか出しますから。」

「分かった。攫って悪かった。今度は僕の名と顔を教えてあげる。さようなら、麗しの姫。」

私はミスター・マスカレイドに一礼し、ふと、横のクラウディオを見た。彼はミスター・マスカレイドを恨めしそうに睨め付けていた。

「ミスター・マスカレイド、それではご機嫌よう。クラウディオ、帰りましょう。」

私は転移魔法を使い、シュヴァルツベルクの屋敷に戻った。屋敷に戻ると、怒ったアンが駆け寄って来た。 「もう!コンスタンツェ様一体どこに行っていたのですか‼︎私がどれだけ心配したか・・・兎に角無事でよかったです!」

私は心配してくれているアンに申し訳無く思った。

「アン、心配してくれているのね、有難う。それと、心配かけてごめんなさい。クラウディオ、貴方の事も危険に巻き込んでごめんなさい。怪我した所とか無い?」

「許さないよ。最低、馬鹿‼︎」 

「え⁈」

私はいきなり罵倒されて驚いた。

「なんで襲われたのはコンスタンツェなのに自分の心配をしないの!」

「え、ええ・・・え⁉︎」

予想外なことを言う彼に、私はまたもや驚いた。

「そうです!お嬢様は昔みたいに自分の心配をするべきです!なんでみんなに心配掛けて平気でいられるんですか!」

「な、なんか・・・ごめんね?分かったわ。私、怪我してない?——ええ、平気よ。これでいいの?」

「「この馬鹿っ‼︎」」

二人が同時に言ってきたので、私は困惑した。

「ええと・・・何か違った?かしら・・・」

「全く違います‼︎ほら、私が今からいうことを真似してくださいね。『見知らぬ仮面の男に連れ去られたのよ!私の綺麗な肌に傷がついたじゃない!アン、貴方が見てなかった責任よ‼︎貴女、今日はご飯抜きよ。』せーの!」

私は恥ずかしくて顔から火が出そうな思いだった。何故なら、かつての私ならそう言っていた筈だったからである。

「言いません。それに、何故その事を⁉︎」 

アンは誇らしげに答えた。

「クラウディオ様から聞きました!クラウディオ様、凄く心配していたんですよ。『姉さんの綺麗な身体に傷でもついてたら許さない。』って。」

「そんな事言ってないから‼︎あいつが優しくて綺麗な姉さんを汚すのがやだっただけだから!・・・あ。今のは本当に違う!忘れて‼︎全部嘘‼︎」

「分かった。忘れるように努力するわ。」「お嬢様、そういうのは忘れなくて良いんですよ?」

私は、無事帰って来れた事に安堵した。

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